第17話 恐るべし


「まさかあなたとここに来ることになるなんて、思ってもなかったわよ」

「そうですね。私もです」


 私は二宮と二人で、いつも如月がお昼休みを過ごしている駐輪場の所にやって来た


「それで?何の用かしら」

「…失礼な態度を取り、すみませんでした」

「あら、急にどういう心境の変化?」


 まあ、だいたい想像はつく。如月のこと、好きになっちゃったんだよね


「私…如月先輩のこと…本気でもらいにいきますので、この前言ったように、後で先輩にお返しすることはありません」

「どうして?」

「それは…」


 お昼に私に見られてたのは知らないはずだし、自分では言いにくいかな


「それで?」

「え?」

「それを言うために、わざわざこんな所まで連れてきたわけ?」

「はい…」


 なるほど。律儀と言えばそうなるかもしれないけど、あいつの肩にコテンって頭乗せてたの、私は忘れたわけじゃない。

 ふふ…許さないよ?


「そう。まあ、どうでもいいわ」

「どうでもいいんですか?」

「ええ。だって、あなたが何をしようと、如月くんは私がもらうもの」

「それはどういう…まさか…」

「それじゃ」

「ま、待って下さい!」

「なに?」

「私…負けませんから…」


 さっきまでの、少し私に申し訳なさそうな感じは全くなくなり、なんなら私を睨みつける勢いでそう言う二宮



「上等よ」


 この小娘にも、あのおっぱいの大きい天然にも、澄ました清楚系お姉さんにも、私は負けるわけにはいかない



 だって…たぶんこれが、初恋だから…




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 急いで駅に向かうと、そこにはもう如月の姿はなくて、少しガッカリしてしまう


(もう…二宮のせいで…)


 仕方ないから、電車を待ちながらスマホをいじってると、聞き慣れた「三条さん?」という声に、私の胸はトクンと跳ねる


「あ、ああ、あの…如月くん…」

「この電車だったんだ」

「うん…」


 普通に話しかけてくれて、めちゃくちゃ嬉しいんだけど、自覚してしまってからは、照れてなかなか目を合わせられない


「隣いい?」

「はぃ…」


 如月は少し間を空けて隣のベンチに座ると、スマホを取り出して何か見始める


(こ、これは…チャンスなのでは!?)


 今ならさり気なくLineのID交換出来るのでは?そうすれば学校以外でも如月と繋がれるし、って…はぁ…嬉しいのに恥ずかしい…


「あの…あああ…あの…!」

「え…大丈夫?」

「だ、大丈夫!」

「顔赤いけど、熱あるんじゃ…」


 くっ…それ言わないでよ…


「もう…熱なんかないよ…」

「うん、ならいいんだけど」


 たぶん今、お昼休みの二宮みたいに、赤くなってもじもじして、恋する乙女みたいになってるんだろうな…

 自分のそんな姿を想像すると、羞恥で押し潰されそうになる


 でも…思ってたよりも楽しい


 もちろん恥ずかしかったり、ドキドキしてどうしたらいいんだろう、って思うことばかりなのに、それが気持ちいいというか、うん、やっぱり楽しくなってる


「そういえば、先に教室出たのに、今駅に着いたのね」

「ああ、そうだね。いつもだいたい本屋とかに寄り道するから」


 言われてみれば、この前も本屋さんから出て来たところで会ったんだっけ


「本が好きなんだね」

「どうかなあ。一人だと、それくらいしかやることないしね」


 またサラッと寂しいこと言ってる。

 そんなの…ダメだよ…


「じゃあ…今は、一人じゃない…よね…?」

「え?」

「その…私…私、友達だし…」

「そうだね、ありがとう」


 はぁ…またその笑顔ですか…

 もうそれ、反則だよ…

 キュンキュンしておかしくなりそう


「はぅ…」

「え…本当に大丈夫なの?」


 大丈夫じゃない。こいつ、いくらなんでも鈍過ぎない?

 隣でこんな可愛い子が恥ずかしそうにもじもじしてて、なんでそのテンションなのよ!



 でも、如月が何をしてても、何を言っても、今の私にはキラキラして見える


(これが…これが恋なのね…)



「えっと!如月くん!!」

「は、はい…」

「わ、わわわ、私とLineのID交換しよう!」

「え…」


 少し驚いて私のこと見てたけど、次の瞬間には優しく微笑み、でも恥ずかしそうに


「うん…俺でよければ…」



 その表情で、私の胸はキュンってなって、その上締め付けられるようで、こういうのを胸が一杯になる、っていうのかな…



 全部初めてのことで分からないことばかりだけど、とりあえず一つ分かったことがある


 それは…



 恋…恐るべし……





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