第16話 言えない


 結局、二人の後を追うことにした


 如月達が上から見える渡り廊下。

 ちょっと距離はあるけど、あの場所は隠れるような所もないし、仕方なくここから様子を伺うことにした


 あいつはいつものように、パンを食べながら本を読んでて、隣の二宮は何か話しかけてるみたいだけど、それには見向きもしない


 ほら、やっぱりね

 如月は簡単に靡くような奴じゃないのよ


 あいつがそんな奴なら、もうとっくに私にデレてるはずだもんね


 うんうん、と自分の中で満足したので、もう戻ろうかな、って思ったその時、あの女は如月にくっつき始めやがった


 ちょ、ちょっと!!なによ、それ!

 肩に頭乗せて…そ、そんなの…そんなの!私だってまだしたことないのに!!


 ずるい…やっぱり許せない……


 如月は…如月は私のなんだから!!



 …え?


 如月は…私の…?




 思考が飛びそうになり、視線を二人に戻すと、二宮は顔を赤くして、なんだか恥ずかしそうにもじもじしている


 え?もしかして…


 あの子、如月に惚れたの?

 だって、もう恋する乙女みたいになってるじゃない。というか、早くない?

 昨日私に自信満々で喧嘩売ってきたのは何だったのよ



 ん?恋する乙女…?


 自然にその単語が出て来たけど、あの二宮の表情や雰囲気には見覚えがある


 それは私が初めて、あいつと一緒に電車に乗って帰ったあの日。

 あの時、車窓に映った私の顔は、今、下で二宮がしてるそれとほとんど同じだった


 ということは…



(私…私…如月のこと…)



 トクン…



 …あ…そうか、そうなんだ…


 あんなに違うって否定してたのに、私…あいつのこと、好きになってるんだ…



 気付いてしまえば、これまでのことが、どうしてだろう、って思ったことが、全部納得出来てしまった



「はは…そうなんだ…」


 そう力なく笑い、肩の力が抜ける


 まさか…この私がいつの間にか如月のこと、好きになってただなんて





 もう一度二人を見ると、そろそろ帰るようなので、私も教室に戻ることにした





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 午後の授業は上の空だった


 いや、ごめん、言い過ぎた。それなりには聞いてたと思う。ノートもちゃんと取ったし、そこは抜かりない


 でも、隣を見れば如月がいる。

 今まではなんともなかったのに、それだけで緊張してしまう



 そして放課後、如月はさっさと荷物をまとめて帰ろうとしている


「あ、あの…」

「ん?三条さん?」

「あの…」

「うん」


 ダ、ダメだ!

 目が合うだけで顔が緩みそうになる…!

 しかも顔が熱い!!

 今、間違いなく赤くなってるんじゃない?


 まさか…こんなことになるなんて…


「大丈夫?顔赤いけど…」


 そこは言わなくていいのよ!!


「だ、大丈夫!!」

「そ、そう?」

「はい…」

「じゃあ、また明日」

「あ…」

「うん?」

「ううん…また明日…」



 一緒に帰ろうなんて…言えない…

 LineのID教えてなんて、言えるわけがない


 あ!でも、最寄り駅同じなんだから、だいたいどの電車に乗るかは想像つくよね。

 それなら、偶然を装って「あ、如月くんもこの電車だったんだ」とか言って、また一緒に帰れるかも。

 そしたら上手く誤魔化してID教えて貰おうかな。うん、そうしよう


(ちょっと時間調べてみようか…)



 私がスマホで電車の時間を見ていると、


「三条さん」

「え?何かしら」

「お客さんだよ」

「お客さん?」



 言われて廊下の方を見てみると、そこにいたのは俯き加減で、それでもこちらを見据える二宮だった





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