第15話 チョロい女(二宮視点)


 ふふ…三条先輩、悔しそうだったな。

 あれでまだ好きじゃないとか思ってるのかな。それはそれで面白いからいいけど


 今、私はこのパッとしない先輩と並んで、昨日二人がいた場所目指して歩いている。

 隣からこの如月って人の様子を伺うも、特に何も考えてないような感じで、スタスタと何も話さないで歩いて行く


「先輩、どこ行くんです?」

「いつも食べてるとこだけど」

「楽しみです♪」

「そう…」


 それにしても暗いわね。三条先輩も、この人のどこがいいんだろ。

 私なら全然パスなんだけど


 でも、それもどうでもいいこと。

 意識させたら私の勝ちだし、後は「私、そんなつもりじゃなかったんです…」みたいなノリでやり過ごそう



 さて、どうやって私のこと意識させよう…




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 外なのにあまり日の当たらない、少し暗い階段の所にやって来た私達は、おもむろに腰を下ろす


 この人は本を読みながら、たまにパンをかじりながら、どっちがメインなのか私には分からない感じ


「先輩はパン好きなんですか?」

「いや、別に…」

「そ、そうですか…」

「………」

「何読んでるんです?私も読書好きなんですよね♪」

「そうなんだ…」

「………」



 …会話が続かない……


 しかもこっちには一切視線を向けようとしないで、ずっと本を読んでいる


(うわぁ…めんどくさ…)


 ちょっと面白そうだと思って始めたわけだけど、それにしては私の労力が半端ない気が


(どうしよ…今更後には引けないし…)


「先輩…ここ、少し寒いですね」


 そう言うと、私はぴったり隣りにくっついて、少し上目遣いで顔を覗き込む


「そ、そうかな…」

「はい…」


 ふふ…顔がちょっと赤くなった。

 ドキドキしてますよね?

 まあ、だいたいはこれで堕ちるもんね


「あの…もう少しくっついていいです?」

「いや、それは…」

「先輩…温かいですね…」


 肩に頭をもたれかけさせ、太ももにそっと手を添える


「ちょ、ちょっと…」

「駄目…ですか?」

「うっ…」


 …でもこれ…私、何やってるの?


 これはやり過ぎたかもしれない。なんか顔が熱くなってきた気がする…


(私も…ドキドキするんだけど…)


「…あの、二宮…さん?」

「は、はい!」

「その…こういうのはよくないよ…」

「え…?」


 そっと私の体を自分から離すと、優しく、私に諭すように、


「あのね…こういうのは、本当に好きな人とじゃないと…駄目だと思う…よ」

「え…」

「どういうつもりかは知らないけど、もっと自分のこと、大事にした方がいいよ」

「そんなこと…」


 そう言った先輩のその目は、どこか悲しそうで、でも優しく私に微笑んでくれてて、心が温かくなっていく気がした



 トクン…



 …え?


 まさか…これ…?

 三条先輩は…これにやられたわけ?


 わ、私は…私は、三条先輩みたいなチョロい女なんかじゃない!

 これから…学園のトップになる女なのよ!

 みんなにチヤホヤされて、イケメンで性格も良くて、運動も勉強も出来る、誰もが羨む男の子と付き合って、「お似合いだよね」って当たり前のように言われるんだから!

 ずっと、そんな人と出会うまでは、って思って、今まで何人にも告白されたのに、誰とも付き合わなかったじゃない…



 そして如月先輩は言う


「もう、俺のとこには来なくていいから、明日からは友達と過ごしなよ?」



 なんで見透かしたように言うのよ

 私の何を知ってるって言うのよ…


 それに、なんなのよ…その優しい笑顔は…


 私の周りに、こんなふうに微笑んでくれる友達がいるだろうか。

 みんな私の機嫌を取って、男の子はあわよくばワンチャン、女の子はおこぼれにあずかろうなんて、そんな魂胆が見え隠れしている


 そんな打算とかなく、普通に接してくれる人が何人いるんだろう


 そうよ。どうせ私の周りにはそんな人しかいないわよ。でも、まだ入学してひと月も経ってないんだから、仕方ないのよ。

 私の高校生活は、これからなんだから!

 だから…別に寂しいとか…そんなこと思ったりしてないんだから…

 少しくらい優しくされたからって、こんな冴えない人に惹かれるわけないんだから…



 …我ながら、これは言い訳がましいな…


「あの…先輩…」

「なに?」

「たまには…ご一緒しても…いいですか?」


 私…


「俺といてもつまんないよ」

「そんなことありません!」

「そう?」

「はい…」



 顔が熱い。しかも、先輩から引き離された体が、なぜかもの寂しく感じる


 少しくらい優しくしてもらったからって、私は別に…チヤホヤされて当然なんだから、どうとも思わないはずなのに…


 私のこれは、たぶん間違いなさそうだけど、まだ完璧に堕ちたわけじゃない、と思う




 でも…私…チョロい女だったんだ…





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