第14話 その答え


「如月くん、おはよう」

「おはよう、三条さん」


 朝、駅で如月と会ってから、一緒に改札を抜けてホームへ向かう


「いつも一本早い電車じゃなかったの?」

「うん。今日はなんとなく」


 なんとなく?違うでしょ

 如月の乗る電車に合わせたくせに


 脳内セルフ突っこみを受け流し、朝からご機嫌の私。なぜ機嫌がいいかは…うん、まあ今はとりあえずいいよね



 車内はおそらく一番ラッシュの時間帯だからだろうか、かなり混んでいる。

 もちろん座ることなんて出来なくて、ドアから少し離れた所で、二人で立っている。


「この時間、やっぱり混むんだね」

「俺は慣れてるけど、三条さん平気?」

「うん」


 そうは答えてみたけど、やっぱり少し辛い。狭いというのはまだいいんだけど、なんだか空気が充満してるというか、重いというか。息苦しいとまでは言わないけど、明日以降は少し考えものだなと思った


 でも、こうして如月の近くにいることに、なぜだか嬉しくなる私。別に、友達なんだから、これくらいはいいんだよね…?


 すると、電車がカーブで少し揺れて、それに合わせて、乗客の人達も波のように、押し寄せては引くように動く


 ドン


「へ…」


 私の顔の両サイドにその腕を伸ばし、背中でこちらに人が流れて来ないよう、如月は押し止めてくれた


(こ、これって…まさか、壁ドン…?)


「…大丈夫?」

「は、はぃ…」

「うん?」

「だ、大丈夫です…」

「そ、そう?」


 こいつ、やっぱり優しい

 そして、めちゃくちゃドキドキする…


 こ、このドキドキは混んでるからよ!

 別に如月にドキドキしてるわけじゃないんだから!そうに決まってる!



 そう自分に言い聞かせ、でもその後私は何も話せず、ただ俯いているだけだった





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 朝あったことを頭の隅に追いやって、その日の午前中はなんとか無事にやり過ごした。

 そしてお昼休みになると、隣のこいつはいつものように教室を出て行く


 昨日如月とは一緒にお昼食べたし、私は今日は普段のメンバーで過ごそうと思っていた


 そう、その時までは



「如月先輩♪」


 この分かりやすい媚びる声は…二宮か…


「お昼ご一緒しません?」


 あざといのよ、あんた

 ダメ、そんなのダメよ、如月


「い、いいけど…」


 ダメだって言ってるじゃないの!!



 私が二人の方に視線をやると、如月には見えないように、この女は私だけに向かってニヤリと笑う


(くっ…イラつくわね…)


 そのまま二人は行ってしまい、私が後を追うかどうするか考えていると、


「ねえ、如月くんってモテるの?」

「え?なわけないでしょ」

「だって、あの子、二宮さんよね?一之瀬さんともなんだかいい雰囲気だし、どうなってるの?」

「私が聞きたいわよ。それより、ちょっと、一之瀬さんといい雰囲気なの?」

「え…三条さん…怖いんだけど…」

「ご、こめんなさい?うふふ♪」


 危ない危ない。顔に出てたか


「そ、それで?一之瀬さんとなに?」

「この前もうちの教室で如月くんに絡んでたし、ちょくちょく他の場所でも話してるの見かけるし」

「それだけだと、いい雰囲気かどうかは分からないんじゃない?」


 そうよ。普通よ、普通


「確かに一之瀬さんって、いつもみんなに笑顔で楽しそうに話してるイメージだけど、なんか如月くんと話してる時、距離が近いように思うんだよね」

「そ、そうかしら…」


 なんだと…


「腕とか掴んでグイグイしてるよね?」

「はい?」

「あ、あの…怒ってない?」

「怒ってないよ♪」


 も、もしかして、あいつの腕掴んで、自分の胸に押し付けて、どさくさに紛れて挟んでたりしないでしょうね…!


「しかも、今度は二宮さんでしょ?それに、なんとなく四方堂先輩とも親しげに見えるんだよね」

「そ、そうかもしれないわね…」

「ね?そう考えたら、四天王のうち三人が、如月くんに…え?まさか…」

「ん?どうかした?」

「いや、まさかね…」

「あ!そうだ!ちょっと委員で用事があったんだった」

「そうなの?」

「ごめんね。ちょっと行ってくる」

「う、うん…」


 なんとなく、みんな疑いの目で私を見てた気がするけど、今それはどうでもいい


 私は駐輪場横の、あの日の当たらない階段目指して歩きながら考える。

 どうして私がこんなことしてるのか。なんであの二人のことがこんなに気になるのか。さっき教室であいつがモテると聞いて、なぜあんなにもイラついてしまったのか



 その答えが分かるのは、もうすぐだった





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