第13話 友達


 許さん…許さんぞ……



 どこかで聞いたようなセリフが頭の中でずっとループしてるけど、あの女は許せない


 最初、あの子の噂を聞いて何気なく偵察に行きはした。でも、私も自分のことをそこまでいい子だとは思ってないけど、あの子、あそこまで腹黒だとは思わなかった



(なんなのよ…)


 駅に向かいながらも、さっきの出来事はそう簡単に頭から離れてくれることもなく、イラつきながら歩いていると、途中にある書店から出てくる如月を見つけた


 あいつも私に気付いたようで、一瞬こちらに視線をやると、少しだけ笑って軽く頭を下げ、駅の方へと足を進める


 確かに人見知りなのは分かるけど、クラスも同じで隣の席で、しかも私はけっこう話しかけてるし、お昼だって二回、一緒に二人っきりで過ごしたのに。

 それなのに、さっきこいつは二宮に友達なのかと聞かれた時、「どうかな…」って


 たぶん今までの私なら、「なによ!」ってムキになって更にグイグイいくか、それかもうこいつのことは完全に無視してスルーだったと思う


 でも今はそのどちらでもない


 デレさせるとかいう以前に、私…友達だとも思われてないんだ…って思ったら、悲しくて、もう近くに行くのも怖くなってしまう


 こんなふうになってしまうなんて、初めてのことでよく分からない



 それでも改札を抜けホームに行けば、最寄り駅が同じの如月はそこにいる


 私は違う車両に乗ろうと思い、距離を空けて待っていた。

 そのまま別々の車両に乗り、何事もなく電車は進んでいく。それでも私の頭の中では、ずっと如月のことばかり考えていた。

 自分でもどうしてなのか、どうしたいのかが分からない


 そんな私は、ただ車窓の向こうの景色を眺めるだけだった




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 到着して電車を降りると、またホームで如月と出くわした


 なんとなく気まずかった私は、あまり目も合わせず「それじゃ…」と、そのまま早足でこの場を立ち去ろうとしたんだけど、如月は少し心配そうな面持ちで、声をかけてきた


「あの…三条さん…」

「は、はい…」

「何かあったの?」

「え…どうして…」


 ついさっきまで暗い気持ちになってたっていうのに、こうして話しかけてくれて、気にしてもらえてるのが分かると、少しモヤモヤしたものが晴れる


「なんか悲しそうに見えたから…」

「そんなこと…」


 そんなこと…ある…


「それで何かあったかと思ったんだけど…」

「き、気にしてくれるんだ…」

「そりゃ、まあ…」


 …ただ席が隣なだけの、ただのクラスメイトだから、だよね…


 そう思うとなぜだかまた悲しくなる。

 私が黙っていると、


「ごめんね。俺なんかに聞かれても答えられないよね」

「ち、違うの!」

「え…?」

「ごめんなさい…違うの、本当にそういうんじゃないの…」


 せっかく私のこと気にかけてくれたのに、如月が自分のことを卑下するようなのは間違ってる。それに…


「嬉しかったの…」

「え?」

「あ!あ、あの…それは違うというか、違うこともないんだけど、そういう意味じゃないというか、なんというか…」

「ふふ…珍しいね」

「え…」

「そんなに慌てなくてもいいのに」


 にこっ、っと笑う如月は、私には眩しくて目も合わせられない。しかも胸の鼓動は高鳴って、きゅーってなって苦しいのに、それなのに、なんだか温かく感じてしまう


「う、うん…」


 そう答えるのがやっとの私


 …やっぱり、私達は友達じゃないのかな…

 一之瀬さんより、私は仲良くなれてないんだよね…?


 あれ…?

 私…如月と仲良くなりたいんだっけ…?

 たぶん…そうなんだよね…


「あの…如月くん…」

「うん」


 如月は優しい目をして、私の次の言葉を待ってくれてる


「あの…私達って…友達…なのかな…?」

「え… 」

「私は…そう思ってるんだけど…」

「…俺、いつも三条さんの周りにいる人達みたいに楽しくないし、暗いからクラスで話す人もいないし…いいのかな…」

「別に如月くんがあの子達と仲良くしなくてもいいの。私とだけ仲良くしてくれれば」

「うん?」

「あ…」


 私…何言った?これ、ヤバくない?


「いや!!だからね!そういうことじゃなくて!だって一之瀬さんとは友達なんでしょ?だったら私とも友達でいいじゃん!」


 あ…更にやらかした感が…



 私が「もう駄目だ!!」ってショート寸前になってると、「あはは」って、今までこいつからは聞いた覚えのないようなテンションの笑い声がして。

 そんな如月の方に向くと、少しお腹を押さえて笑ってる


(あ…こんなふうに笑えるんだ)


「あ、ごめんね。なんだかびっくりして」

「私こそ…ごめんなさい…」


 如月は「ああ、久しぶりに笑った」とか独り言を言いながら、メガネを外して笑い涙を拭っている。そして、


「ありがとう。よろしくね」


 そのまま、少し前髪をかき上げ、綺麗な笑顔で私を見てくれた



 トクン…




 あ…これ…胸がキュンってなるやつだ…


 ど、どうしたらいいんだろ…



 ち、違う!大丈夫…冷静に、冷静に…



 うん、友達にはなれたんだし、今日のところは、この辺で許してあげよう…





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