第12話 知らないくせに


「じゃあ、行きましょうか」

「分かった…」


 如月は二宮さんの少し後ろをついて、二人で行ってしまいそうになる。

 その様子を見ていた私に、彼女はチラリと視線を送ると、


 ニヤッ…



 え?今、あの子ニヤッってしなかった?

 私?私に向けて?


 …なに?なんなの?

 よく分かんないけど、いいわ…

 受けて立とうじゃないの


「ごめんね、ちょっと用事思い出して」

「え?そうなの?」

「うん、また明日ね」

「分かった。三条さん、またね~」


「バイバイ」と手を振り、私は二人の後をつけるんだけど、私、何やってるの?

 少し前にもこんなことしてなかった?

 え?探偵とか興味ないんだけど


 まあそれはどうでもいい。

 今はあいつらを追うのが先決なんだから





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 定番の体育館裏に来てしまった


 まさか…あの子、如月に告白したりしないでしょうね!?

 そんなの駄目なんだからね!!

 私が…って、私がなんなのよ…


 ま、まあいい。

 とりあえずは様子を見ようじゃない


「先輩?」

「はい…」

「ふふ…年下の後輩相手に、そんなふうに固くならなくていいんですよ?」


 ちっ…この女もあざといな

 その計算された上目遣いで、一体何人の男子が勘違いして、涙を飲んだことだろう


「それで、何の用…かな」


 そうだよね。如月は人見知りするから、初対面の女の子相手だと、緊張しちゃうよね


「先輩は一之瀬先輩とお友達です?」

「…そうかも」

「じゃあ、三条先輩ともお友達ですか?」


 気持ち、さっきの一之瀬さんの時より、今の私の三条と言う声の方が大きく感じた


(この子…もしかして…)


「どうかな…」


 な、なによそれ!!

 私は一之瀬さんより下なわけ?


「ふふ…そうですか…」


 …この子…私が聞き耳立ててるのに気づいてる。なんて嫌な子なの…


「それで?話は終わりでいい?」

「そうですね。今日はそれでいいです」

「そう…それじゃ…」

「はい。ありがとうございました」

「うん…」


 この場から去って行く如月に、この子は「如月先輩!また会いに行きますね!」と言って、あいつの姿が見えなくなるまで手を振っていた


「…さてと。三条先輩?」

「…何かしら」


 やっぱり気付いてた。

 本当にこの子、どういうつもりなの?


「如月先輩は三条先輩のこと、友達とまでは思ってくれてないみたいですよ?」

「…それがどうかしたのかしら?」

「辛そうですね。可哀想に…」

「なっ…」


 こいつけんかうってるだろ


「私、見ちゃったんですよね」


 教室を出る前に見た、あの悪そうな笑みを隠そうともせずに、今、私の目の前に立っている二宮


「お昼休みに、あんな所で、まさか三条先輩ともあろうお方が、あんな地味でパッとしない男子と一緒に、お昼ごはん食べてるだなんて」


 見られた?見られてたの?この子に?

 というか、あいつのこと、悪く言い過ぎじゃないの?


 何も言わない私に対し、言葉を続ける二宮


「しかも、あんな可愛らしい先輩、私、入学してから初めて見ました」

「そ…そんなこと…」

「先輩は私と同じタイプだと思ってました」

「え?」

「みんなから「綺麗だね」「可愛いよ」って、チヤホヤされたいですよね?私もです」

「な、何を…」

「それくらい見てれば分かりますよ。こう見えて私、頭もいいので」


 …本気で嫌な子だ、この子…


「そんな三条先輩が恋した人が、どんな人なのか気になったんです」

「ちょっと待ってよ!私、恋なんてしてないから!」

「今更隠さなくてもいいじゃないですか。あんな姿見たら、私じゃなくたって、誰でも分かりますよ」


 どんな姿だったっていうのよ…!


「本当にそんなんじゃないから!」

「あれ?もしかして、自覚なしです?」

「だから違うってば!!」

「まあどっちでもいいです。今日は本当にお昼のことが少し気になって、それで声かけただけだったんですけど、気が変わりました」

「え…?」

「ふふ…恋なんてしてない、って仰いましたよね?それじゃあ、如月先輩のこと、私が貰っても問題ないですよね?」

「は?」

「安心してください。私のことを好きにさえなってもらえれば、後はもう先輩にお返ししますから」

「あなた…」

「私も私に釣り合うような相手じゃないと、さすがに…ね?」


 それは…如月は自分には釣り合わない、って言いたいわけ?


 …あいつ、確かにパッとしない地味な男かもしれない。でも、優しいし、みんなに気を使ってるし、お父さん想いだし、たぶん見えないところでたくさん苦労してきただろうし、今も頑張ってるんだよ


 そんなこと、何も知らないくせに…



 そう思うのと同時に、最初、この子と同じように、私もあいつをただ自分に振り向かせようと、ただデレてくれればそれでいい、って考えてたのを思い出してしまう


「す、好きにすればいいんじゃない?」


 そんなの嫌だ。

 この子の好きにされるのなんて、そんなの嫌に決まってる



 でも、どうして嫌なのか…


 考えようとすると、顔が、体が…なぜだか熱くなるように感じ、無意識に頭を振って紛らわそうとする


「それじゃあ先輩、明日からよろしくお願いしますね」




 そう言って去って行く二宮の背中を見送りながら、私が握り締めている手には、自分でもびっくりするほど力がこもっていた





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