第11話 最後の四人目


「そういえば、一之瀬さんと仲良いよね」

「うん。たぶん」

「…もしかして、一緒に勉強したりする?」


 さっき聞いたばかりだけど、いちお確認


「連休明けにすると思うよ」

「そ、そうなんだ…」


 …やっぱりやるんだ…

 二人っきりで、あんなことやこんなことまでしちゃうんだ…


「えっと…教えてあげたりするの?」

「そうなるかな」


 手取り足取り、あの女に教えるんだ…


「私もそこそこは成績いい方だと思うんだけど、如月くんは…その…どれくらいなの?」

「ん?」

「成績…」

「ああ、二桁になったことはないかな」

「え…」


 表情を変えずサラっと言ってるけど、私でも調子が良くてたまに入るくらいで、だいたい20位以内キープしてるくらいなんだけど


「ちなみに、進級テストって…」

「8位だった」


 なんだと…私は15位だったんですけど…


 今日の数学の授業で、たぶん得意げにドヤ顔だった自分を殴ってやりたい



「成績がいいと学費免除とか減額とかあるから、それで」

「あ…」


 そっか。お父さんの負担を少しでも減らしてあげるために、如月は頑張ってるんだ


「べ、別にそういうんじゃなくて、俺…他にやることもないから」


 私は何も言わなかったんだけど、たぶん私の考えてたことを汲み取って、そう言ったんだろう


 照れくさそうに頭を搔く如月に、私は…


 くっ…な、なんでキュンってなるのよ…



「どうかした?」


 少し私の顔を覗き込んでそう訊ねる如月に、なぜだか顔が熱くなる


「な、なんでもないよ…」

「そう?」

「うん…」


 なんでこんなにもじもじしちゃうんだろう


 お弁当も、隣にこいつがいて、距離もちょっと近いからなのか、なかなか箸が進まない


 食べてるところ見られちゃったら、恥ずかしいかも…なんて思っても、如月はもうパンを食べ終わり、変わらず本に目を落として、こちらにはほとんど目もくれない


 うぅ…隣にこんな可愛い子が座ってて、二人っきりだっていうのに、よく普通に本読んでられるわね。

 全く普段通りで、ドキドキしたり私にデレる素振りなんてないし


(どうして私ばっかり緊張してるのよ!)


「もう…」

「え?」

「…なんでもない…」


 ちょっと不機嫌そうにお弁当を食べる私と、静かに本を読む如月


 この時、そんな私達を見ている子がいたなんて、私は知る由もなかった





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 放課後


 如月はそそくさと荷物をまとめ、席を立ち教室を出て行く


 私はいつものようにクラスメイト達に囲まれ、他愛ない話で盛り上がるはずだった


 でも、


「如月先輩」

「え…?」

「少しだけいいですか?」

「いいけど…」


 教室を出てすぐの所で、女の子があいつに声をかけているのを見てしまう


(あれは、まさか…)


 私と同じ黒髪にロングヘア、違うのは後ろで束ねてるくらいだろうか。

 くっきりと通った目鼻立ちだが、その表情はどこか四方堂先輩のように柔らかく、優しそうに見える。

 首から下もスレンダーな体付きでほっそりしてるし、出るとこは私の方が勝ってると思うけど、遠目に見てもスタイルは良く、でもその線の細さや、色白でどこか儚げにも見える雰囲気に、たぶん男の子的には「守ってあげたい!」みたいな感じになるんじゃないかと思う



 この子は一年生の二宮朱音にのみやあかね


 なぜ私が下級生の女子の名前をフルネームで覚えていて、尚且つそこまで詳しく観察して知っているかと言うと、この子は入試トップで合格し、入学式では新入生総代を務め、その能力や佇まいから四方堂先輩の後継だと言われている


 この子が入学してきたおかげで、私達は四天王なんていう、物騒な呼ばれ方をするようになった



 そう……


 この子が最後の四人目なのだから





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