第9話 もしかして


「…ところで、みず姉ちゃんって何?」

「え…?」

「四方堂先輩とは、どういう関係なの?」

「その…」



 言った後で気付いたけど、これはマズい


 明らかに高圧的な感じになってるし、如月も少し怯えているように見える


「ご、ごめんね、別に深い意味はなくて」

「うん…」


 笑顔で取り繕うも、如月はまだ引き攣った表情のまま


「…本当にごめんなさい。ただ、どうしてそんなに仲がいいのかが気になって…」


 いきなりあんなふうに出来るなんて、そんなの普通だと考えられないし、如月だって「みず姉ちゃん」とか呼ぶくらいなんだから、たぶん昔から知ってるんだよね…?



 チラッと隣の如月を見ると、少し困ってるようにも見えて、


「ごめんね…私…もう行くから…」


 なんだかいたたまれなくなって、立ち上がりここから離れようと如月に背を向けたら、

「待って」と言う声が耳に届くのと同時に、私の手には温かい何かが…

 ここには私達しかいないんだから、それが如月の手だというのはすぐに分かった


「あ…」


 分かったけど、でも…私…もうこんなふうに手を繋がれたことなんて、いつ以来なんだろう。

 たぶん子供の頃、お父さんやお母さんに繋がれたのが最後かもしれない


 周りからチヤホヤされることはあっても、告白されることはあっても、私は誰とも付き合わなかったし、もちろん手なんか繋いだこともない


 たがら、急にこんなことされて、本当なら嫌悪感を感じてもおかしくないはずなのに…

 それなのに…どうしてこんなに顔が熱くなって、胸が苦しくなって、ドキドキするのか分からない


「ご、ごめん!」


 そう言って急いで手を離す如月。

 そして私の手からその温もりが離れることに、なぜか名残惜しく感じる私がいる


「あの…昔、小さかった頃、四方堂先輩の近所に住んでた時があったんだ…」

「あ…それで。その頃から知ってたから?」

「うん。あの頃はまだうちもみんないて、あの家に住んでたから…」


 なんとなく、聞いてはいけないことのような気がして、話を遮ってしまう


「あの…じゃ、じゃあ、特別仲が良いとか、そういうわけではなかったんだよね…?」

「そう…かな。普通だと思う」

「そっか…」


(よかった…)


 どうしてそう思ったのかは分からない。でもほっとして、そう思ったのは間違いない


「ちなみにさ、先輩は如月くんのこと、なんて呼んでたの?」


 四方堂先輩のことを「みず姉ちゃん」と呼んでたくらいだから、たぶん先輩もこいつのこと、名前とかで呼んでたんだろうな


 そんな軽い気持ちで、ただそう訊ねただけのはずだった


「そうちゃん…かな…」

「…なにそれ……」

「え?」


 思ってたよりずっと低い自分の声に、慌てて「なんでもないよ♪」と誤魔化してみるも、私の頭の中では、お互いに小さな子供の先輩とこいつが手を繋いで、仲良くお花畑で遊んでいる映像が流れていて、無性にイライラする


 なんでこんなにモヤモヤするのよ。

 こんなのまるで私が…


(やきもち焼いてるみたいじゃない…)



 どうして私が妬かないといけないのよ!


 べ、別にこいつが誰と仲良くしようと、私には関係ないしどうでもいいはず。

 うん、そうだ、そうに違いない


 でも、ちゃっかり隣でお昼を一緒に過ごしてることに、嬉しく思ってる自分もいて…

 そう思ったら、私…もしかして……



 ああ!!もう、分かんないってば!


「顔赤いけど、大丈夫?」

「へ…」

「もしかして体調悪い?」

「そ、そそ、そんなことないヨ!」

「そう?ならよかった」


 優しく微笑む如月に、私は胸の鼓動が高鳴るのを感じる


「あの…あのね…」

「うん?」

「…いつもここで一人…なんだよね?」

「そうだよ」

「えっと…たまになら…私もここに来て、一緒にお昼食べてもいい…?」

「うん…いいけど…三条さんはいいの?」

「ん…」


 コクンと頷くのが精一杯で、もうこの男の顔なんて見れない私。

 なんでこんなこと言っちゃったんだろう…


 …そ、そうよ!

 私のこと意識させるって話だったじゃない


 だからこれでいいのよ!!




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