第7話 昔から


 朝…いつもの時間に起きられなかった…


 今日はもう髪をセットする時間もあまりなくて、仕方なく適当に誤魔化してやろうかと思ったけど、踏み止まる。


 やっぱり私のプライドが、それを許さなかった。でも、我ながら面倒くさい性格だなとも思う…


 私はいかにも清楚可憐な黒髪のロングなんだけど、たまにミディアムショートくらいに切ってしまおうかと思う時がある


 でもまあ仕方ない。この髪型は気に入ってるし、悪いのはあの本の…如月のせいだ。

 だって思ってたより面白くて、読み始めたら止まらなくなったんだよね


「いってきます」と家を出たけど、ふと昨日のことを思い出した。


 もしかして、これ…あいつと同じ電車に乗ることになるんじゃ…





 駅に着くと予想通り…


(や、やっぱり…)


 そこには少し空を眺めてるような、そうでもないような、ただ単にぼーっとしてるだけのような、そんな如月の姿があった


「如月くん…おはよう…」

「…うん…おはよ…」


 こいつ、あからさまに寝ぼけてない?

 目もちょっとトロンとしてるし、一体どうしたのよ


「眠そうだね」

「ん…」


 話しかけたはいいけど、変わらずボケっとしてる如月。

 あの…私が同じ電車に乗ることに、特に何も感じてないよね?べ、別に、一緒に乗りたかったからとかじゃないから!

 単に家を出るのが遅くなったってだけで、その…変な誤解しないでよね…

 と思ったけど、もちろん口に出すことはなく、いたって平静を装ってみる


「あの…いつもそんな感じなの?」

「え…?」

「その…凄く眠そうだから」

「うん…電車乗ってる間に目は覚める…」

「そう…」

「俺…朝弱いんだ…」

「そうなんだ」


 そんなこと言われたら、朝起きてすぐ、寝ぼけてる様子の如月を想像してしまった。

「う~ん…」とか言って、ぼーっとしてるのかな。やだ、可愛いんだけど…


 …いやいや!そういうのいらないから!

 というか、今すでにそんな感じじゃない!


 くっ…ちょ、ちょっと可愛い…

 って!なんなのよ!


 こ、こいつ…わざとじゃないの?





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 少し早足で歩き、校門が見えた時に、なんとか間に合ったとほっとする。

 でも、隣の如月は特に急いだ感じもしない


「あら、おはよう。今日は二人一緒なの?」

「四方堂先輩…おはようございます…」

「…おはようございます…」

「この前は如月くんがたまたま早く来ただけだったのかしら」


 そういえば、前に一度こうして一緒になった時は、この時間じゃなかった。あれ以来駅から学校まで、そして教室まででこいつと会ったことはない


「はい。あの日はたまたまです」

「じゃあ今日は三条さんが合わせてあげたの?」

「ち、違います!」


 この人!何言い出してんのよ!


「あら、如月くん…」

「え?」

「ほら、髪跳ねてるわよ?」


 よく見れば少しだけ跳ねていた如月の髪を、ふわっと優しく撫でる四方堂先輩


「なっ…!」

「あら、どうかした?」

「い、いえ、何も…」


 ちょ、ちょっと…どういうこと?

 なんで四方堂先輩がそんなことするのよ

 え?おかしくない?


「ふふ、ごめんなさいね。そんなに怒るとは思ってなかったから」

「怒ってなんかいませんよ!」

「ほら、早くしないと遅刻するわよ?」

「っ…!」




 なんなのよ…一体なんなのよ!!


 先輩にしても一之瀬さんにしても、なんでみんなこいつに構うのよ!


「あの…なんかごめん…」

「いや、別に如月くんが悪いわけじゃないから、うん」

「入学した時から気にかけてくれてて、たぶんそれでだと思う」

「え?」


 なにそれ。なんでこんな目立たない奴をあの四方堂先輩が…?


「ど、どうして?」

「うん。みず姉ちゃん、昔からだから…」



 はい?


 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る