第5話 いつものやり取り


 子供の頃から、周りからチヤホヤされて生きてきた。

 それが当たり前だと思ってた。


 それだけ聞いたら「この女、性格悪いな」って思われるかもしれないし、私もそれは否定しない


 でも、私なりに努力してきた


 オシャレにも気を使い、髪だってサラサラになるよう毎朝時間かけてセットしてるし、「どうせあいつ見た目だけだろ?」なんて思われないように、勉強だってちゃんとやってるんだから


 これだけ頑張ってるんだから、少しくらいチヤホヤされたっていいじゃない。それで私も周囲の人達も、みんなが気持ちよく過ごせるならそれでいいじゃない


 今まではそう思ってた




 でも、そうじゃないかもしれないと思った



 私が如月に構ったばかりに、こいつのことを悪く言うような人が出てくるなら、もう話しかけない方がいいのかもしれない


 放課後、今までなら如月にちょっかいかけて、そのリアクションを見ていた私。

 でも今、隣で帰り支度を終えようとする如月に、私は何も言えずに、ただチラチラと視線を送るだけだった


 いつもと違う様子の私に、如月は不思議そうにしてたけど、そのあと申し訳なさそうに軽く微笑んで、席を立つとたぶん私にしか分からないくらいに、私に向けてペコっと軽く頭を下げ、教室を後にする




 胸が痛い…


 私は、あいつにあんな顔させたかったの?


 違う…そうじゃなかったはずなのに…




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 その後、教室で少し雑談し、学校を出て駅に向かう


 女子達と話してる時も、こうして歩いている今も、私の頭の中には、如月の帰り際の顔がずっと残っていて、


「なんなのよ、あいつ…」


 別に如月が悪いわけじゃないのに、どうしてもあいつに矛先が向いてしまう



 いつまでも如月のことばっかり考えてられないし、駅に着いた私は改札を抜け、ホームで電車を待つ


(電車通学って、思ってたより面倒よね)


 高校に進学するタイミングで、両親が一戸建ての家を建てたのをきっかけに、私達は引っ越して今の家に住むようになり、それ以降、こうして電車に乗って通うことになった


 でも、嫌なことばかりでもなかった


 行き交う人に一瞬見蕩れられるのも、悪い気はしない


(ふふ…)


 それで少しいつもの調子を取り戻し始めた私だったのに、それなのに…教室で隣に座る見慣れたあいつの姿が視界に入る


(え…如月…?)


 あいつも電車通学だったの?

 そんなの聞いてないんだけど?


 たぶん私がずっと見てたからなのか、如月は一瞬顔を上げると私に気付いたようで、でもまたすぐに俯いて本を読み始める


(またこいつ、ラノベ読んでる?)


 ホームの場所的にも、同じ電車に乗るのは間違いなさそうで。

 ここで変に無視するのもどうかと思うし、それにここならクラスの子達もいないから、変な気を回す必要もないかもしれないと思い、私はいつもの感じで話しかけた


「如月くん、この電車乗るの?」

「ん?うん…」

「私もなんだ。如月くんも電車通学なの、知らなかったよ」

「うん…」


 …こいつ、相変わらずだな…


「あ!その本、この前のやつ?」

「うん。もうちょっとで終わりそうだから」

「じゃあさ、読み終わったら貸してよ」


 ついそう言っちゃったけど、私はあの長いタイトルの本に、もちろん興味はない。

 まあ、社交辞令ってやつですよ。

 どうせ如月もやんわりお断りするよね


「いいよ」

「え!?」


 いいんかーい!!


 頭の中でエコーになって響いてるけど、それを表に出すわけにはいかない


「ありがとう!」

「うん…」


 いつもの、如月とのいつものやり取り


 なんだか少しほっとするのはなぜだろう


 そういえば、今日はあまりこいつと話してなかったかも。あんなことがあって、たぶん、如月に対して罪悪感みたいなのがあって、それで…


「大丈夫?」

「え?」

「あ、いや…なんか辛そうに見えたから…」


 少し俯き加減だった私の顔を、控えめに覗き込むように、心配そうな眼差しで私のことを見る如月に、



 トクン…



 くっ…!

 だから!!なんでキュンってなるのよ!



 おかしい…何かが間違ってるように思う…



 とりあえず私は、こいつをデレさせたかったんだよね?そうだよね?


 うん。そうだ、そこは間違いない


 まずは、一之瀬さんくらいには話せるようにならなきゃね




 そう思う私は、今日のお昼休みに感じたモヤモヤのことなんて忘れて、いつものように如月と話せたことに嬉しくなっていたけど、でも、どうしてそう感じたのかはまだ分からなかった





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