第26話
最後の手段なのか、アレスは己の拳そのものを起爆させた。
それは《再生》を信じての行動。だったのだろうが、
「……へぇ。これ、賢者の石ってんだ。大層な名前だな」
今の爆発で氷の義手と義足は溶けて無くなってしまった。だが、代わりに生身の四肢が復活している。
視界も良好。ライズの手には、賢者の石と呼ばれた首飾りが握られていた。
対して、アレスの腕は肩から先が無くなっている。体の表面も焼け爛れ、もはや目も見えないくらいに顔面が溶けている。
「が、えぜッ、がえぜ! ゴホッ……賢者の石を、返せ!」
枯れた声を出しながら、芋虫のように這ってくる。
「貴重な、賢者の石。一体いくらの金をつぎ込んだと、思っているッ」
「……八百長の金は殆どこれに使ってたのか」
「そうだッ。我が永遠に生き続けるため、必要な投資! このエレフアレー大陸には我が必要なのだ! 我がいる限り、この大陸は安泰だ。それを考えれば、安いものだろうが!」
「さっきの言葉、そのまま返す。……醜いぞ、アレス=クロウリー」
「黙れッ、力を持っただけのクソガキが! 世界の事を何も知らず、ただ教師ごっこをしているだけの弱者が! 人民を治めるためには力だけでなく、金も名声もいる! すべてを持った我こそがエレフアレー大陸の覇者であり王なのだッ」
喚く姿はあまりにも哀れ。もう終わりにしようと、ライズは歩を進めた。
「待てッ、その賢者の石はやる! だから我を見逃せッ。足りないのなら他にもやろう。名声なら我が取りなしてやる。金もこれから先の大会で――」
「いい加減、観念しろよ」
殺すつもりはない。既にアレスを告発する準備は整っている。あとは動けないコイツを運んで終了だ。
「見逃すつもりは、ないのか?」
「ああ」
「そう、か」
がくりと項垂れたアレス。諦めたのかと思いきや、
「く、くくっ。くはははは!」
狂ったように笑い声を上げた。
「終わりか。そうか、すべて終わりか。ならばッ、諸共死のうぞ!」
アレスの左手がピクリと動いた。
「念のためと、予め我が身体には起爆術を仕込んである。くくっ、まさか使うことになるとは思わなかったがな……おっと、今から逃げようとしても無駄なこと。アンフィテアトルムがあるあたりまで派手に爆発するからなぁ!」
パチンと指が鳴らされた。アレスの身体がビクビク痙攣し、内側からナニかに押し出されるようにボコボコと肢体が膨らんでいっている。
「ちょっ、ライズどうするの!? アタシの氷で覆うのも限界が――」
慌てた様子で来たユウが体を揺すってくる。
しかし、ライズは落ち着いて「大丈夫、俺に任せろ」とユウを一歩下がらせた。
(賢者の石。恐るべき回復力だな。眼球も、腕も、傷も。――
はち切れんばかりに膨らんでいるアレスを見下ろし、懐かしい言葉を呟いた。
「――《
瞬間、アレスの身体は萎んでいく。意識は失っているようだ。
背後からユウの息を呑む声が聞こえた。
「まさか……ッ、ダメ! ライズ、待って!」
「すまん、あと頼む。っと、時間がねぇ。巻き込む訳にはいかないからな――《
「やめてライズッ、ライズ! いや、いやよっ。行かないで……ライズーーーーッ!」
魔力器官が戻ったことで、今まで吸収してきた魔闘術も使えるようになっていた。
悲痛な声を聞きながら空中へ飛んだライズは、様々な魔闘術を発動していく。
「《
下に見えるアンフィテアトルムが豆粒のように小さい。ここなら爆発しても被害は無いだろう。――ライズ以外。
「俺の出来る精一杯をやった。やり遂げた、よな……?」
人生で二度目となる自爆の感覚に身を委ねる。
そして地上を見下ろした。
魔王らしく傲慢に、豪快に笑った。
「今度こそ、悔いはねぇ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます