第17話

 帰り道。明かりを付ける気力も無く、ライズは暗い森の中を歩いていた。


 月の光だけを頼りに進んで行くと、コボシの門にある提灯が見えてきた。そのすぐ傍には、アイノが門に寄っ掛かって空を見上げて立っている。


「あっ、お帰りなさい! ライズ先生っ」

「あぁ」


 主人の帰りを待っていた番犬のように、愛嬌のある笑顔で駆け寄って来る。


「私、決勝戦まで行けました! ……諦めて、ずっと見ているだけの魔闘大会でしたが、先生のおかげでここまで来ることが出来ました! そしてあと一歩で夢の優勝ですよ!?」


 夜を照らすような瞳の輝き。彼女の口からは夢と希望が溢れ出てくる。


「ステラちゃんには一度負けてしまいましたが、二度はありません! いやまぁ、肝心の必殺技はまだ出来そうにないんですけど……ほら、なんかもう少しでコツが掴めそうな気がするんです」


 かつては虐められ、自信を持てなかった彼女だが、今ではこうして勝つことを疑わず前を向いている。


「だから案外、物語の主人公よろしく土壇場で覚醒っ、みたいな展開も――」

「アイノ」

「はい?」


 あどけない顔を向けてくるアイノ。そんな彼女に、


「もう充分じゃないか?」


 直視することはできず、足下に視線をやりながら話すライズ。


「お前の強さは、もう充分に示した。最初はバカにしていた奴らも、手の平返したように持ち上げている。フォルティでもここまで戦えたと――もう、目的は果たしたろ」


 何を言われているのか理解出来ていない様子のアイノだったが、やがて気付いた。



「……辞退しろって、ことですか」

「……そうだ」


 声を引き絞り答えた。


 彼女は、信じられないと首をゆっくり振る。


「なんで、なんでですか……。頑張れって、言ってくれたのに。どうして今になって……」


 静寂が訪れ、二人の呼吸だけが耳に入る。


「こんな私でも大会に出場し、勝ち進める。確かにその目的は達成しました。でも、それで半分なんです……ッ、優勝しないと、言えない事があるんです――ッ!」


 アイノは逃げるように走りだした。


 追いかけようと手を伸ばしたが、すれ違い様に見えた涙で足が止まり、伸ばした手を力無く振り下ろしたライズ。


「……お前を、俺のような目に合わせたくないんだ」


 姿を消した彼女の背に、届かない言葉が紡がれた。

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