第12話
開会式が終わり、いよいよ大会が始まろうとしていた。
「そういや、あいつのパフォーマンスはどんな感じだ?」
「ま、見てなさいな」
本日の種目は自分をアピールする種目、パフォーマンスのみが行われる。それに関してはライズよりもユウの方が得意分野のため、一任していた。
パフォーマンスは派手さが大事と言われているが、フォルティであるアイノはいったいどう攻略するのか? ライズは期待と不安を抱いてアリーナへ目を向ける。
『――さぁ、今年のウィザードはどんな魔闘術を魅せてくれるのか!? おっと、申し遅れました。実況はこのワタクシ、キョウ=コメタリーが務めさせていただきます!』
最前列よりも更に前にある実況席にて、女性が唾を飛ばしながら興奮をマイクに乗せている。
『遠くて見えない皆様のためにぃー、毎度おなじみワタクシの固有属性でぇーほいっ。うーん我ながらの高画質で大変満足!』
彼女、コメタリーの固有属性は『複製』。視たモノを別の媒体に再現する能力だ。
数万人がすっぽり入ってしまうほど広いアンフィテアトルムでは、端の方に座ってしまうと中央のアリーナにいるウィザードが豆粒に見えてしまい、観戦どころではない。
それでは味気ない、と空中モニターがいくつか用意され、彼女の複製で戦闘などの様子が映し出される仕組みだ。
キョウが実況役に選ばれた理由は、彼女の実況力が高いというのもあるが、最前列でその目に写し、複製するのがコメタリー一族の仕事であったから。
『おや? さっそく最初のグループが入場してきました。どんな魔闘術が飛び出てくるのか、ワタクシ胸のときめきがとまりませんッ』
ぞろぞろとウィザードの団体が中央のアリーナへ現れる。
今年は例年より多くの参加者がいるようで、グループはA~Pまで分けられていた。
「アイノは何処だ?」
「んー、このグループにはいないみたい。……あ、でも」
ウィザードたちが位置に着き、中央全体が《
どれだけ目立つ事が出来るかの勝負。ならばと、ウィザードたちは先駆けるように魔闘術を発動していく。
高く上がる火柱。力強く墜ちる雷。龍を形取り舞う水。
様々な魔闘術が飛び交う中、異変が起きた。
『今年もまたレベルが高いウィザードばかりで……おや? なんでしょう、この轟音は。いったい何処から――そ、空ぁッ!?』
一般よりも視力の良いキョウの目が空にある物体を捉え、スクリーンに映し出される。
『あれは……隕石ですッ、隕石がまさにいまッ、ここに落ちようと……え、これ大丈夫なんですか?』
アリーナには《魔防》があるとはいえ、それすら破壊しそうな巨大な隕石。キョウだけでなく観客たちも不安に陥る。
そこで、落ち着かせるように一人のウィザードが声をあげた。
「だいじょーぶ。これ、ボクが喚んだモノだから」
小柄で、長い金髪をツインテールに束ねている少女……ステラ=ミーティアが、サンバイザーのつばをちょろっと持ち上げて上空を睨む。
「さーさー、お立ち会い。取り出したるは、拳のみ。これがボクの――魔闘術さッ!」
ステラは迫り来る隕石へ向かって跳躍し、十八番である《徹し》をぶつけた。
瞬間、小娘一人の体など簡単に潰せそうな隕石は破裂した。飛び散る破片は全て粉状になるまで砕かれている。
本日は雲一つない快晴。
おかげで、隕石だったモノと陽の光が上手い具合に黄金の輝きを演出していた。
『な、なんと美しいッ! この煌びやかな黄金の世界を創り出したのは……ステラ=ミーティア選手! 事前情報によると、彼女は今大会の優勝候補とされているようですが……それも納得のパフォーマンスでしょう!』
やーやー、と観客に手を振るステラ。その様子を、ライズたちはホッとしたように観察していた。
「違うグループで良かったとしか言えねーな」
「えぇ。彼女と一緒だと、確実に落ちていたわ」
こんなド派手なものを見せられては、悪いがアイノに勝ち目は無いと言える。
「……しっかし、隕石か。コボシでアイノと戦った時、ステラは確かに固有属性の魔闘術を使ったと言った。……隕石要素なんてあったか?」
横目でユウを見るが、彼女は控えめに首を振るだけ。
「分からない。でも、隕石そのものだとしたら流石に気付くわ。恐らく、今の隕石はあくまでもオマケ。副産物って可能性も」
「とんだ副産物だな、そりゃ」
どこにオマケで隕石を降らせるウィザードが居るというんだ、なんてツッコミをしたかったライズだが、その可能性も充分にあるため苦笑いをするしかなかった。
それからグループが次々と入れ替わり、最後のPグループがアリーナに入場してくる。
ここまでアイノの姿は見えなかったため、ライズたちはそわそわとしていた。
「ちゃんと居るよな? 直前で『あなたはフォルティなので出られません』なんて退場させらてねーよな?」
「ちょっと、落ち着きなさいって。……あっ、ほらっ、あそこよ!」
ユウが指さす先には、緊張をはらんだ様子のアイノがいた。
「あいつキョロキョロしてるぞ。……大丈夫かよ」
「アイノちゃんの魅力を最大限に引き出せるよう指導したから、その辺の心配は――あ、こっちみたわね。……ほら、手を振ってるわよ」
「あのバカ。悪い意味で注目されるぞ」
固い面持ちだったアイノは、ライズたちを発見した途端に破顔して自分の位置を知らせるように両腕を振っている。
それは、彼女の周囲にいるウィザードは勿論、観客の目を集める行動。
故に、
「あのウィザード、腕輪着けてるな。もしかしてオーラリング?」
「おいおい、フォルティが出てんのかよ。ウケるな」
ライズたちの周りでさえ、このような失笑が起きている。アイノの近くでは、これ以上に酷い事が聞こえるだろう。
不愉快な気分になるが、ユウに「想定内の反応でしょ」と宥められて一先ず見守ることにした。
ざわめきが広がる中、開始のアラームが鳴り響く。
『さぁ、最後のパフォーマンスが始まりましたーッ! ここまででステラ選手のド派手なアクションを越えるモノは出てきていませんが、果たして彼女のぶっちぎり一位を許してしまうのか? それとも――おっと!?』
興奮を乗せた実況だったが、焦りが加わった。
『これは……ッ、一人のウィザードに魔闘術が集中しています! って、狙われているのはフォルティ!?』
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