第11話
このエレフアレー大陸は、世界で最も注目されている大陸だ。
その理由は、優秀なウィザードを多く輩出しているテレスター学院が設立されていること。
そして、その優秀なウィザードが決まる催し『
なので、毎年この時期になると多くの人がエレフアレー大陸を出入りする。
いつも以上に栄えているメインストリートを進み、お馴染みとなった公園を横切ると、巨大なスタジアム――アンフィテアトルムと呼ばれる建築物の影が見えてきた。
中央のアリーナを囲むように
「ついにやってきました、アンフィテアトルム」
「なに感動してんだ。学院近いんだから、ほぼ毎日見てんだろ」
「これから参加するウィザードとしての感動です! ……憧れてた大会に出られるなんて。私、泣きそうですぅ」
「泣くのは勝つか負けるかにしてからな」
「負けるかは余計ですっ」
いい加減、人混みが煩わしくなってきたので「エントリー時間に遅れるぞ」と言い、ぶーたれるアイノの背を叩いて前に進ませる。
そうして出場ウィザード専用口まで送り届けると、不安そうな表情で振り返ってきた。
「その、わたし……」
戸惑いがちに口を開いた弟子に対し、ライズは「しっしっ」と手で払って遮る。
「早く行け、ほんとに遅れるぞ」
「でも」
行こうとしないアイノ。
ライズは同じく付き添いにきたユウを見ると、溜め息をつかれた。
「なにか言ってやんなさいよ。これだから女心が分からないバカは」
煽られてつい血管を浮かばせてしまうが、アイノの不安は仕方ないともいえる。
「必殺技を習得出来なかったからって、そんな落ち込むなよ」
「うぅ……所詮私なんてぇ……」
しまいには「およよ」と泣き始めた。
そう、アイノは結局、ライズが見せた必殺技を身に付ける事が出来なかった。彼女は決定打となる技を持たないまま、魔闘大会の日を迎えてしまったのだ。
「まぁ、なんだ。習得出来ていたとしても、今日のパフォーマンスには使わないんだろ?」
ユウに目線で確認すると、頷いた。
「まぁ、よっぽどじゃないと使わないんじゃないかしら」
「ならまだチャンスは今夜の鍛錬にあるし……なにより、必殺技が無くてもお前はそこら辺のウィザードと充分渡り合える強さは身についている……ステラ=ミーティアは厳しいがな」
そう言うと少しは気を持ち直したようだが、あと一押し足りないようだ。ライズは苦渋に塗れた顔で天井を仰ぎ、なにか諦めたように嘆息した。
「はぁ……、ちょっとこい」
アイノを手招いて、耳を寄せるよう言うライズ。
「――――」
ごにょごにょと小声で伝えると、アイノの目にだんだんと光が戻っていき爛々と輝き始める。
「ほんとですか? ほんとですねッ!?」
「……お前が言ってたことだからな。結局うやむやになったが……これでまだうじうじしてんなら、このまま無しの方向で――」
「何言ってるんですかやったりますよステラちゃんだろうと気合いでぶん殴ってきますけど」
「……あ、そう」
水を得た魚のように「それじゃいってきます!」と去って行くアイノ。
「アンタ、なにを言ったのよ」
「……ご褒美」
「いかがわしいモノだったら愉快な氷像にしてあげるけど」
「健全だ。……多分」
ユウの冷たい視線を背後で感じながら、観客席への移動していく。
購入した席を見つけた二人は腰を落ち着ける。中央にある長方形型のアリーナからは離れているが、上段かつ、お椀型になっている構造なので全体を見渡しやすい席のようだ。
「またこの建物に踏み入ることになるとはな……」
「別に出るって訳じゃないんだから、少しは肩の力を抜きなさいな」
指摘されて気付いたライズは「ふぅ」と背もたれに体重を預けた。
「気に入らない奴がここにいるって考えると、どうもな――っと、さっそく来たみてーだ」
喧騒にまみれた空間だったが、シン……と時が止まったかのような静寂へと変わった。だが次の瞬間には、爆発と思うような歓声が上がる。
それは、アリーナに立っている一人の人物へと向けられていた。
『やぁ、我の宝たち。今年もまた、最強のウィザードを決める大会がやってきましたね』
今回の特別審査員である男性、アレス=クロウリーがマイクを片手に発言する。ざわめきが大きくなれど、不思議と彼の声は透き通るようにハッキリと聞こえる。
それが不愉快だというように、ライズは顔を背けて舌打ちを鳴らした。
「ちょっと、聞いてる振りだけでもしなさいって」
「耳がいかれそうだ」
咎められるも聞く耳持たずのライズ。
アレスの挨拶をボーっと聞き流していると、ふと視線を感じた。ぴくりと指が跳ねて震える。
「そして以前も言いましたが……願わくば、怪我人を一人も出さず無事に終えてほしい。数年に一度は痛ましい事故が起きています。中には、再起不能となったウィザードも。……あぁ、その人達のことを考えると、我は……とても悲しいッ」
あちこちから「アレスさま……」と悲痛な声が聞こえてくる。
「戦う以上、怪我を負うのは我も分かっています。せめて、二度と戦えなくなるような怪我だけは……してほしくない! ……少し、熱くなってしまいました。んんっ、とにかく、我はその想いを胸に宿し、宝であるウィザードたちを温かく見守っていきます……ずっと、ね」
大きな拍手に包まれるスタジアム。視線はもう感じない。
「ライズ、嫌でもちょっとは拍手を――どうしたの?」
「別に。あまりにもご立派な事を言ってるもんだから、あくびが出ちまっただけ」
去って行くアレスの背を見つめ、そう言った。指の震えはもう、止まっている。
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