第4話 初デートの約束

 帰宅してからずっと漫画のネタを考えていた。


 友情努力勝利の王道バトル漫画ばかり描いてきたので日常ものを描きなさいと言われても、はいわかりましたと描けない。難しい。


 しかし緑青の言う通り俺の絵柄は激しいアクションシーンに向いていないとも思う。どちらかというと写実的で平坦な絵柄なのだ。


 とりあえずテーマを考える。日常ものといっても幅広い。恋愛友情家族愛、はたまた動物との絆、ギャグや感動系、サスペンスホラーなど色々だ。考えれば考えるほど何を描いたらいいのかわからなくなる。なんでもいいが一番困るのだ。


 結局徹夜してもテーマは決められなかった。





 眠い目をこすりながら登校し、いつも通り真面目に授業を受け、高砂と昼飯を食べた。担任からホームルームで各クラス委員長は放課後集まるようにと言われた。文化祭について話合いがあるらしい。


 律儀に緑青に『放課後委員会があるから行けない』と連絡するとすぐに返信がきた。


『わかった。今日はお休みにして明日の土曜日でかけましょう。』


 これはデートのお誘い? 


 いやいや、緑青は俺のことが好きじゃないんだ。これっぽっちも、とはっきり言われたじゃないか。冷静になれ。


 俺が『冗談ですよね?』と返信するとまたすぐに返信が来た。


『付き合ってるのだから、休日に外出くらい普通でしょう?』


 デートだ!


 付き合ってと言われてOKしたものの、ほとんど恐喝に等しかったためお付き合いをしてる実感が全くなかった俺はひどく動揺した。なんて返信すれば良いのだろう。予定は空いているが出かけるとなるとこの学校の人間に出くわす可能性がある。それはまずい。


「黒石くん。委員会の集まり、行こう?」

「あ、黄瀬。ごめんぼーっとしてた」


 黄瀬は俺のすぐ近くに立っていた。待たせてまずいと急いでスマホをズボンのポケットにしまい、鞄を持って立ち上がった。


 委員会の話し合いは思っていたよりも早く終わり、黄瀬と別れた俺は国語資料準備室に足を運んだ。今日は休みだと言われたがなんとなく気になって。


 扉が開かない。鍵がかかっている。


「何か用かな?」


 急に背後から声をかけられ心臓が跳ね上がる。声の主には見覚えがあった。やや癖のある黒髪、ちょっと頼りなさげな印象を与える困り眉に黒縁眼鏡。ひょろりと背が高く痩せ気味の体格。国語教師の白井洋介しらいようすけだ。


「あ、いえ。別に」

「そう? ならいいけど」


 白井は手に持った鍵で中へ入っていった。ふと、昨日なぜ緑青がここの鍵を持っていたのか聞いてみようか迷った。


 でもそれを聞くということは、俺と緑青が昨日ここを利用していたことを自らバラすことになる。何をしていたか聞かれたら嫌だなと思い何も聞かず踵を返して俺はそのまま家路についた。


 家に着きスマホを見ると緑青からがメッセージが来ていた。


『返事は?』


 しまったと思った。返信をするのをすっかり忘れていた。急いで『学校の人間に二人でいるところを見られたら困る。何か良い方法はないか?』と送信する。


『偶然会ったことにすればいいわ。でも万が一に備えて変装してあげる。当然あなたも変装するのよ?』


 送られて来た文を読んで、そこまでして出かけたいのかと一瞬にやけてしまった。


 緑青の変装。すごく気になる。あの才色兼備の美少女がどんな格好をしてくるのか想像がつかない。


 平穏が大事だ。でも一回くらいなら、そう思い『行く』と返事をした。もう後には引けない。ただ、すごく満ち足りた気持ちになったのはなぜだろう。


 俺達は付き合っているが、そこに恋愛感情はないのに。『土曜日の午前十時に駅前集合。遅刻厳禁。』という返信を確認した俺は、変装について悩み眼鏡をかけて行くことにした。普段はコンタクトだから。


 女子と二人きりで出かけるなんて初めてだ。浮かれている自分に気づかないふりをして、眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る