04

「だから…元気になってくれさえすれば、礼なんて要らない。も…もしリサさえよければだが、ここでずっと一緒に暮らさないか?」


「えっ!」


驚いて思わずセナンの顔を見ると、彼は真っ赤になってぷるぷるとわなないていた。


「いや……その、なんていうか、弱った君を放っておけない…というか…」


状況から推察するに、これは恐らく一世一代の告白なのだろう。一生の伴侶を決める大切な選択を、こんな風にいきなり言われても対処に困ってしまうばかりである。

真っ赤に上気したイケメンに、リサもつられて赤面してしまった。


(こんなイケメンに迫られるなんて、自分、初めてなんじゃないの?案外、人生って捨てたものじゃないかも知れないね…)


まあこの際、絶滅危惧種でも別に文句は言うまい。適当に伴侶を見つけて結婚し、子を産めばいいだけの話だ。

幸せかどうかは別として、まあ孤独死は避けられる。


(ん、伴侶? ちょい待ち、今なんか引っ掛かったぞ…?)


リサはさっきのセナンの必死な気迫と、亡びゆく種族云々の話を初めから整理する事にした。

オルゴンは絶滅種で、同族は疎か、異性に逢う確率は限りなく低い。

けれど別に、同族でなくとも自分以外にも女はいるハズだ。

ならなぜ、彼はそこまでして自分を引き留めようとするのだろう?

行きずりの女に声を掛けるほど、長い一人ぼっちが寂しかったのだろうか?

孤独がいやなら、既に相方がいても可笑しくはない。

だが…いないからこそ、彼は自分を引き留めた訳だ。

不可解な矛盾が残るのはどうしてだろう…


(まさか、ひょっとして…ひょっとする…?)


一番考えたくない理由に辿りついて、思考を一度絶つ。

助けてもらってこんな事を考えるのは間違っているかも知れないけれど、真意に心を澄ますと矛盾の理由が簡単に解けていくのが分かった。

彼はヤケに種族の絶滅危惧と、同族の異性に逢える確率を強調していなかっただろうか。

孤独の解消。そして、万分の一の確率を破って漸く出逢えた自分という存在。

つまり――――。

要するに、彼は異性としての自分を要しているのだ。


(うわあ…なんか複雑な気分だよ)


もし、現代日本でこんな事を言われようものなら思いきり蔑んだ後でビンタしただろうけれど…予め状況を聞いて、知っていたからなのか不思議と嫌悪は湧かなかった。

だが、初対面でこれは不味いような気がする。


「あ…あのね、セナン…友達とかからじゃ、ダメかな? いきなりとかは、ダメだと思うの」


(セナンのことは嫌いじゃない。イケメンだし、気も利く。でも、これは何か違う気がするんだ…)


求めてくれる気持ちは嬉しいが…突然そう結び付くのは可笑しいような気がして、リサは敢えて距離を空ける。


「す…すまない。そうだよな、いきなり可笑しなことを言って悪かった。今の話は忘れ…」


「あっ……でも、完全にダメとは言ってないわ?」


羞恥心に髪が逆立ち、真っ赤になってからションボリと項垂れたセナンを、リサは慌てて励ます。


「え…?」


「ほら、私達逢ったばかりでお互いの事を全く知らないでしょう?」


好意を断っていないと伝えなければ、彼はそれを傷にしてしまうだろう。

なんにしろ好意を寄せられて嬉しいので、リサはセナンの常識云々問題には目を瞑って微笑んだ。


「だからねセナン、私達まずは友達から始めよう?」


「リサ…」


寂しい子供の表情をしていたセナンは、リサの提案にみるみる喜色を浮かべた。


「ありがとう! 願ってもない。是非…是非よろしく頼むよ」


「わっ!」


片腕を抱き締めて微笑むリサを、セナンはテーブルから身を乗り出して抱き締めた。

強烈な歓迎に、リサは目を白黒させるがセナンは気付いていない。


(セナンって、感情表現が豊かで、なんだか人懐っこい大型犬みたい…)


「うぐっ…、…セナン、ハードル…ハードル下げて」


「あっ、ああ済まない…大丈夫か?!」


「ええ。ねえセナン…私ね、ある人(金髪野郎)に匿われていて、外に出るのは今が初めてなの。だから、基本的な事だけでいいから、私に世界を教えてくれないかしら?」


「匿われていたって……それは敵に?」


一瞬、セナンから強烈な殺気が噴き出される。

威嚇寸前のセナンの様子に、リサはゆるゆると首を振って慌てて否定を示した。


どこから話せばいいのか逡巡した後、再びリサはセナンを真直ぐに見据えた。

事実を話したいけれど、たとえ話したとしても彼が信じてくれるかどうかは解らない。

信じてくれるかどうかは解らないが、話してみるべきだろうか?

苦いものを感じながら、リサは奥歯を噛みしめた。


「リサ…?」


オルゴンの野生の勘で感づいたのだろう。

セナンはリサの戸惑ったような、不安を秘めた眼差しを見て悟ったように表情を引き締めた。


「ねえセナン…今から話すこと、全部に偽りはないから…よく聞いて」


「解った。初めから話してくれるかい?」


セナンが確りとうなずくのを認めて、リサは口を開いた。

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