04

「ああっ!!」


自分が息を呑むのと、少女が押し寄せた流木に攫われるのは殆ど同時だった。

無情にも、押し寄せる倒木に押されて同族の少女は流されていく。


「くそっ! いま行くから…待ってろっ」


流される少女を目で追いながら、なりふり構わず泥にぬかるむ川岸を助走をつけて駆け、そして丁度岩に挟まった所を目掛けて飛び込んだ。


オルゴンは、人類史上最強の『猛獣』である。


拳と蹴りの一撃で容易く砂漠生物の胴を引き千切り、一騎で八百の兵を倒す古えの戦闘種族だ。

戦闘種族の強靭な脚力を活かして、流れに逆らって泳いで行く。

すると、すぐに水中を漂う少女が見つかった。


「げほっ、おい……おいっ…お前っ、聞こえているか!?」


少女を抱えながら水面を立ち泳ぎ、頬を軽く叩いて呼び掛けるが返事はない。

いや…そればかりではなく、身体は氷のように冷えきり、彼女は呼吸をしていなかった。

ふい、脳裡に冷たくなった両親に縋って泣いた幼い頃の自分の姿が蘇る。

父さん、母さんとどんなに泣き喚いても、死者になってしまった2人は蘇らなかった。

雨上がりに増水した川で溺れた幼い息子を助けようとした両親は、子供の命と引き換えに揃って命を失ったのだ。

もう、自分のせいで他人を死なせるわけにはいかない。 

何もできない、幼い子供ではないのだからできる事をすべきだろう。


(同族に出逢えるのは、一生に一度きり…両親がそう云っていた。ならば、俺は彼女を死なせてはならない。今すべきことは…いち早く彼女を救って、連れ帰ることだ)


「死ぬんじゃないっ、死んではいけないっ…ダメだ、戻ってこい!」


「げほっ、げほげほっ……はあっ」

 

飲んでいるであろう水を吐かせようと背中を強めに叩いて同じ動作を繰り返していく内に、少女が漸く噎せ込みながら飲んでいた水を吐きだした。

水を吐きだした後、彼女は朦朧としているようだが危機は脱したのだろう。

さっきよりも、大分顔色が良くなっていた。



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