03

「これは…っ!?」


思わず目を瞠る。両親を亡くして以来…久しく忘れていたけれど、間違いない。

風の中に感じたのは、かつて身内に感じたものとは少し違うけれど間違いなく同族の匂いだった。

うずうずと騒ぐ胸騒ぎが一際強くなったのを感じた時には、俺は匂いの元を目指して一目散に駆け出していた。

水分を吸ってまだ重い風を切り、土を蹴散らして森を抜けた先には、増水して荒ぶる茶色く濁った濁流が轟々と未だに流木などを押し流しながら飛沫を上げていた。

…一体どこに、その同族がいるのだろうか…。

目線を頻りに彷徨さまよわせ、隈なく辺りを捜索するが…それらしき人影は見つからない。

早く見つけなければ、このままでは流されてしまう!

場所を上流に変えようと半壊した橋に一歩を踏み出した瞬間、俺は再び血が湧くような感覚に襲われて硬直した。

半壊した橋に引っかかる形で流れの速い濁流に洗われていたのは、見るからに顔色の青褪めた少女だった。

流されてきた倒木と橋桁に挟まれて、ようやっと引っ掛かっている状態で次にまた倒木か何かが流れてきたりしたなら、彼女は今度こそ流されてしまうだろう。

悠長なことはしていられない。しかし、渓谷に架かっている橋桁は大人の身長は悠に越しており、自分が屈んだ所で少女にまで手が届かない。

なにか丁度よく渡す棍棒のような物でもないかと視界を廻らせた時、絡まり重なった流木が不穏に軋む音を聴いた。

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