02
翌日。夜明けと共に、雨脚は完全に途絶えていた。
東の空が白み始める頃、寝床を出て卓上に常備している蝋燭に明りを点す。
昨夜から相変わらず可笑しな具合に胸が騒つくので、寝ているよりも実際に『何があるのか』確かめに行った方がいいと思ったのだ。
今もなお、オルゴンの勘が“早く行け”と騒いでいる。
なんともいえない疼きが、血流に載って全身に拡がっていくようだ。
寧ろその騒つきが自分を呼んでいるような気さえし、無意識に心臓の辺りを撫でているのに気が付いた。
(なんだ、何なんだ…この渇望、この胸騒ぎ。
…何かがあるのは、間違いないな)
積もる土砂を踏みつけて均して歩き、足場を新しく作り直す。
そうすれば、流されてきた土砂の中に含まれている草の種が芽吹き易くなるのだ。
次に
酷い嵐だったが、幸いなことに立てつけを頑丈にしておいた甲斐あって、損傷はなく脱走者もいないようだった。
不安げに寄り添いながら首を伸ばしているので、柵越しに頭を撫でてやる。
すると安心したのか、彼らは嬉しそうに喉を鳴らして山羊らしからぬ声で嘶いた。
畜舎と畑の境の柵を後ろ手で閉め、桶に貯まっている雨水で汚れた手を洗って漸く身辺の片付けは一段落した。
押し寄せる朝霧を少し肌寒く感じながら、空を仰ぐ。
薄ぼらけの東の空の、夜明けはまだ遠いようだった。
…ふと、森から流れてきた湿った匂いをふんだんに含んだ風が赤い前髪を吹き上げる。
「ッ…!!」
あまりいいとはいえない匂いに顔を顰めた瞬間、微かにだが湿った土砂の匂いの中に、花のような柔らかな香りを感じた。
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