5話 嵐のあとに
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轟々と猛る風音と森の木々が軋む音を聴きながらふと普段は感じることのない不思議な胸騒ぎを覚えて、俺は塒の中で全身の感覚を研ぎ澄ましていた。
獣よりも優れた耳に届いてくるのは、横殴りの雨粒が漆喰で固めた塒の壁を叩いている音と、そして氾濫して土砂や倒木を押し流す川の水音だった。
外部の様子が容易に想像でき、思わず渋面が浮かぶ。
(この様子じゃ、畑は全滅だろうな…だが備蓄がある分、数ヶ月食い繋ぐのなら間に合うだろう)
このアルマドは、四季の気候の差がハッキリと分かれている。
今の季節は夏。だから滅多に雨は降らない。
嵐もまた然りである。
嵐が起きたとしても、それは冬が近づく秋の終わり頃に集中豪雨が降るくらいだ。
異変が起きたのは、昨日の夕刻を過ぎた辺りだった。夕方までは普通に快晴の様相を見せていた筈なのに、突然黒い雲が押し寄せてあっという間に大粒の雨を降らせたのだ。
轟々と荒ぶ颶風は、容易く頑丈な森の樹々を薙ぎ倒し、川を氾濫させた。
「!」
唐突に、静寂を破って稲光が闇を裂く。
そして数拍遅れて腹の底に響くような轟音が響き渡った。
「この夏に…雷だと?」
ますます可笑しい。
この季節には絶対に鳴らない雷鳴を聴きながら、いつもと一目瞭然に異なる自然の猛威に本能が警鐘を鳴らすのが解った。
ガタガタとガラス窓を揺らす例年にない異常な嵐に息を潜め、天井で揺れている燭台を黙視しながら、俺は早く嵐が鎮まることをただ願った。
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