02

「じゃあ、さっさと移しちゃってよ。っと…あとその前に、10歳くらい若返らせなさい。言葉なんかは自力で何とかするから、それくらいサービスして頂戴よ」


《そ…それだけで…許してくれるのか? 殴ったりしないのか?》


「は?」


《もっと…怒り狂って、暴走するものと思ったのだが…》


明らかにホッとした表情で見つめてくる神だが、現実はそう甘くはない。

拍子抜けしたと云わんばかりの自称神の態度に、リサは苛立ちを込めて毅然と眉を顰めた。


「もちろん…許すわけないじゃない。分かるでしょ?」


《…デ、デスヨネー…》


「当り前よ。アンタのせいでこうなったんだから、要り用の時は遠慮なくこき使わせて貰うわね。ポンコツ居眠り神サマ」


ローブの襟首を鷲掴んで凄むリサに、自称神はダラダラと冷や汗をかいた。


《わ…解った、協力させて、イタダキマス》


語尾にハートマークをつけて笑うリサだが、目は完全に胡乱にすわっていた。


「じゃ、よろしく神サマ。…あと、あたしを突き落とした女に神罰でも落としておいてね。人一人死なせたんだから、それくらい軽いでしょう?」


にっこり絶対零度の笑顔に突き刺された自称神は、リサの威圧感に青を通り越して白くなる。勝ち誇ったリサとは反対に、神はゲッソリと項垂れていた。

しかもザクザクと色々な言葉が刺さっているようだが…そんなもの知ったことではない。


《では、そなたを異界に移す手続きをする。

この紙に名を記入してくれ。年齢は、希望通りに若返らせておこう》


「あら、気が利くわね」


神が、懐から手続き書類一式を取り出して差し出してくるので、受け取って名前だけを記入する。でもどうせ下の名前しか使わないだろうと思い、苗字は書かなかった。


《では“リサ”…確かにそなたの真名を預かった。言葉の件だが、ある程度は解るようにしておこう。まず言葉が解らなければ困るだろう》


「まあ、確かに…、っ」


唐突に、ゆらりと視界がぶれた。

船酔いをもっと悪くしたような揺れに、膝をついて歯を食い縛る。

深海まで沈むかのような睡魔が襲ってきて、そのまま飲み込まれてしまう。

三度目の意識喪失に、リサは遠くなる意識の中でほぞを噛んだ。

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