2話 奈落に叫ぶ

《すまない…》


「!」


唐突に、映写機の消えた真っ白な空間に耳触りのいいまろやかな声が響いた。

背後からの声に振り向くと、中性的な顔立ちの人物が佇んでいた。


(なにコイツ、コスプレイヤーかなんか? それとも、病院から脱走してきた“自分は神です”とか言う類の、頭の可哀想な人なの?)


柔らかそうな長い金髪に、純白の長衣ローブ。…翼こそなかったが天使を髣髴させる出で立ちに、思わず眉間に皺が寄る。


「なにが…? つーか誰?」


出た声は存外に低く多分に険が含まれたもので、目の前の人物の表情が強張るくらいだから、相当のインパクトだったのだろう。

 

《私は、この世界を管轄する神だ。まだ寿命ではないそなたを、手違いで死なせてしまい…本当に済まない。本来ならば、駆け込み乗車をした彼女が転落死する定めだったのだ…》


「…それで? こんな今頃、謝りに来たんすか? 神様とやら」


《そうだ》


逸らしもせずに、真直ぐ見つめてくる自称神。

誠意の滲む、真摯な眼差しだった。

れど、だからこそ逆に腹が立った。


「でも、私は死んだ。もう取り返しがつかないことくらい、貴方が一番よく知ってるんじゃないの?」


平謝りする金髪を、昔とった杵柄の名残で睨みつければ、彼はビクンと震えて居住まいを正した。


《“この世界”ではムリだ、そなたの肉体は既に荼毘に付されているゆえ…だから、ここではない別の世界に命を与えてそなたを移そうと思うのだが…どうだろう?》


おどおど…そんな擬音がぴったりな仕種でこちらを窺う様子に、コイツが本当に神で大丈夫なのか本気で不安になった。

 

「アンタ神なんでしょ。手違いとかどういうコトよ!? 2~3注文つけさして貰わなきゃ気が済まないわねッ」


《な、なんなりと言ってくれ。できる限り手を尽くそう》


「私を移す予定のその世界って、どんな所?」


《現代のように文明は発達していないが、そこそこ住みやすい…》


「はああ!? とか言って、変な僻地に送ったりしたら承知しないわよッ」


変な汗をかいている金髪の様子からも判るように、多分コイツは嘘を吐いている。

彼が嘘を吐いていることを嗅ぎ取ったリサは、ぎろりと自称神様を再び睨みつけた。

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