第11話 ロビンside



 舞踏会のホールに戻り、エリックの元へ向かう。こちらが声を掛ける前に「もう大丈夫そうだな。」と肩を叩かれる。



 照れ笑いを浮かべ、頬を染めるキャロラインの手を取り、ダンスが始まる。今までと違う、恋心を灯した瞳でキャロラインに見つめられ、自分の仄暗い思いが満たされていくのを感じた。





◇◇◇





 キャロラインは幼い頃から、僕の愛くるしい人だった。



 僕は、本ばかり読んでいる子どもで、友達らしい友達もおらず、敬遠されていた。そんな中、キャロラインだけが「ロビンといる時が一番すき!」と言ってくれた。あの日から、僕の中心はキャロラインとなった。





 キャロラインは勝ち気な容貌と言葉遣いから、誤解されることが多かった。本当は、優しくて家族思いの可愛い女の子なのに。僕だけが、愛くるしさを知っていたら良いと思っていたけれど、キャロラインを傷つける輩が増えて、すぐ一掃した。



 そして、その頃から、外でも僕はキャロラインの騎士のように、護り抜くようになった。変な虫が付かなくなって良かった、と思っていたのに、ある日、王太子妃候補になるかもしれない、と王家からキャロラインの家に通達が来た。




 幼かった僕は、どうにか自分の父とキャロラインの父上に頼み込み、根負けした二人が王家へ、婚約を予定しているので王太子妃候補にはなれないと話をしてくれた。例外中の例外だったようだが、たまたまキャロラインの友人パトリシアと王太子の相性が良かったこともあり、キャロラインは王太子妃候補にはならなかった。




 それからも婚約はしなかった。自分の力で、社交界でもキャロラインを守れるように文官になってからプロポーズしたいと思っていた。しかし、侯爵令嬢のキャロラインには、思った以上に縁談話が舞い込み、僕は進路変更し、エリック殿下の側近となった。




 エリック殿下が、キャロラインへエスコートを申し出たと聞いた時、僕は怒りに塗れた。



「だって、お前の大事な令嬢が、お前の名前を出す度に顔を青くしてるんだ。気になるだろう。」




 エリック殿下はにやりと笑い、そう言った。どうかエスコート役を譲ってくれ、と恥も外聞も捨て、懇願したが「キャロライン嬢に許しを貰ってからだ。」と、殿下は譲らなかった。



 結局、殿下にお膳立てしてもらったようで面白くないと思う部分もあるが、それでも長い長い時間を経て、愛くるしいキャロラインは、漸く僕のものになった。




◇◇◇





「ロビン?疲れちゃった?」



 帰りの馬車の中、キャロラインが心配そうに尋ねる。



「いや、大丈夫だよ。」



 首を振ると安心そうにふにゃりと笑う。そんなキャロラインを見ると、絶対に誰にも見せたくないと、暗い独占欲が湧き上がる。




「キャロライン、もう他の男にエスコートされようなんて考えないで。」



 引き寄せるだけで、照れ笑いを浮かべるキャロラインは愛おしい。




「うん、もう私はロビンのものなんだもんね。」




 幸せそうにそう呟く彼女を見ていると、これからの苦悩が見え、僕は小さく溜め息をついた。








〈おしまい〉



読んで頂きありがとうございました!




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愛くるしい彼女。 たまこ @tamako25

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