第10話



 ロビンの熱い瞳に見つめられ、キャロラインはうっとりしてしまいそうになるが、その瞬間ロビンの冷たい言葉が頭をよぎり、冷静になる。



「う、嘘よ!じゃあ、何故あの時、婚約の話を断ったのよ!」



「キャロライン、あの時、最後まで話を聞いていないだろう。」



「へ?」



「キャロラインのお父上は、キャロラインにたくさん婚約話が来ているが、出来れば仲の良い僕と婚約させたいと言ったんだ。だが、僕とキャロラインでは爵位の差があるから、持っている爵位を僕に譲ると提案してきた。」



 私たちの国では、上位貴族になると爵位を複数持っていることがある。お父様も、其の内の一つをロビンに渡そうとしたのだ。



「それを断ったんだよ。」



「•••どうして。」



「どうしても、僕の力で婚約したかったから。だから文官になって、役職に就けば、キャロラインを守れるだけの力を持てると思ってた。」



「それで、勉強も頑張っていたの?」



「ああ。だけど、キャロラインへの婚約話があまりに多くて、早く婚約を決めないといけないようだった。だから、僕が就職するのは待てないと思って、前から話のあった殿下の側近の話を受けたんだ。殿下の側近なら、文句を言う人も少ない筈だから。」



「そんな•••。」



「不安にさせてごめんね。」



 優しく抱き直され、ふるふると首を振る。



「僕がキャロラインのこと、好きだって伝わった?」






「•••美しくない、って言ったのは?」





 最後に引っかかっていたことを、恐る恐る尋ねるとロビンはキョトンとした表情を浮かべた。



「だって、キャロラインは美しい、なんて言葉では言い表せないだろう?」



「ん?」



「キャロラインは、可愛いとか、美しいとか、そんな言葉では足りな過ぎるんだよ。キャロラインは僕の、愛くるしい人なんだから。」



 ロビンはキャロラインの言葉を待つこともなく、キャロラインの唇を奪った。





◇◇◇




 何度も激しく口付けられ、息も絶え絶えになったキャロラインが落ち着くのを待ち、「名残惜しいけれど、そろそろ行かないとね。」と、キャロラインの身嗜みを整えてくれる。



「あ、あのね、ロビン。」



「うん?」






「私、ロビンのこと好きよ。ずっと好きだったの。」




 散々口付けられた後だが、キャロラインは自分の気持ちを伝えていないことに気付き、どうしても伝えたいと勇気を振り絞り伝えた。


 しかし、ロビンはそっぽを向き「ふうん。」と答えただけだった。キャロラインは一瞬寂しさを覚えたが、ロビンのその横顔には見覚えがあった。



(あの時だわ。幼い頃、私がロビンと一緒にいるのが一番好きだと言った、あの時と同じ顔。)



 あの時も、興味なさそうに本を読んでいた。だが、ロビンはあの時も今も、本当は嬉しく思ってくれていたのではないか。長い間、想われていたことに漸く実感が湧き、キャロラインはじわじわと満たされていくのを感じた。


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