第9話



「キャロラインは、どうしてそう思ったの?」


 先程の怒った声や悲しい声では無く、いつもの穏やかな声色で、ロビンは尋ねた。




「•••ロビンが貴方のお父様や、私のお父様と話しているのを聞いてしまったの。そこでロビンが、私との婚約の話は無かったことにって。」



「ああ。それでか。」



 ロビンは何でもないことのように相槌を打った。




「それでか、って•••!それを聞いて、私悲しくて•••。」



「悲しくて?それでキャロラインはどう思ったの?」



「う•••。」



「教えて?」



 ロビンの優しい瞳に見つめられると、私は嘘がつけなくなってしまう。





「•••たくさん落ち込んで、それでやっと気が付いたの。私、小さい頃からロビンに迷惑ばかり掛けてきたことに。だから、もうロビンには迷惑かけてはいけないって、近づいてはいけないって。それで、ちゃんと社交を頑張って、婚約者を見つけようと思ったの。」



「昔から、社交嫌いなのに?」



「•••それでもこれ以上、ロビンに嫌われたくなかったの。だからちゃんと一人で立てるようにと思って。」




 はぁ、と大きく息を吐いたロビンは、私の顔を覗き込む。眉を寄せ、不機嫌さを隠さない表情に思わず驚いてしまう。



「•••ロビン、怒っているの?」




「そうだよ。」




「どうして?」



「僕はずっと、キャロラインのことだけ想っていたのに、キャロラインには全く伝わっていないどころか、他の男を探しているんだからさ。」



 我慢なんかするんじゃなかった、と獣のような瞳に見つめられ、額にロビンの唇が幾度と無く触れる。ロビンが触れた部分が熱を持つ。




「ロ、ロビン!」



 抗議するように言うと、ロビンはふわりと笑った。







「好きだよ。もうずっと前から、僕の人生はキャロラインだけのものなんだ。」

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