第8話



 エリックは小さく息を吐き、肩を竦めると、諌めるようにロビンへ声を掛けた。



「ロビン。この部屋は貸してあげるよ。ちゃんと、拗れたものを修復してからホールにおいで。」



 そして、キャロラインに「大丈夫だよ。」と笑顔を見せ、退室していった。ロビンは、エリックが退室するのを見届けると、キャロラインを抱き締める腕に、更に力を込めた。




「ちょっと•••!ロビン!」



「•••エスコート、エリック殿下の方が良かった?」



「そうじゃなくて!離してちょうだい。」



 自分は、ロビンの婚約者にはなれないから。こんな風に、ロビンの熱を知ってしまったら、余計離れられなくなるから。いつか他の誰かがロビンの熱を知るのだと、いつかロビン以外の誰かに抱き締められるのだと、そう自覚させられて、涙が迫り上がる。




「なんで、離れようとするの?この間からそうだよね?」



「だって、私は•••そろそろ誰かと婚約しないと。」



 責めるように低い、ロビンの声に対して、ロビンと密着しているのは許されないことだと必死に訴える。





「だから、その婚約って何?」



 明らかに怒っているロビンの声色に、びくりと、身体を硬直させてしまう。ロビンは感情の起伏が乏しい人間だ、キャロラインに対して、憤ることなんて無かった。





「•••キャロラインは、僕とずっと一緒にいてくれるんじゃないの?」





「な、なんで。」





「キャロラインがそう言ったんだ。」



 悲しそうに絞り出された一言。それは幼い頃の感情に任せた一言で、私にとっては大事な気持ちで。だけど、まさかロビンが覚えているなんて思わなかった。



「•••ロビン、私たちずっと一緒にいる為には婚約しないといけないのよ。」




「そうだよ。」



「そうだよって!ロビンが、私と婚約したくないって言ったんじゃない•••!だから、私、ロビンと離れないとって、思って!」




 胸の奥底に仕舞い込んだ気持ちは、涙と共に決壊し、止めどなく溢れてきた。ロビンは、丁寧に涙を拭い、気持ちが収まるまで根気強く待ってくれていた。幼い頃と全く同じように。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る