No.3-4:戦争の影響

「もう動いとるのか?戦争は半年後じゃろう?」


「戦争しにきた訳ではないらしいんだがな。何でも『ここは魔王教の聖地だ!』とか言って占拠しているらしい。武装してる訳ではないし、十中八九帝国の仕業なんだろうが証拠もなくて迂闊に動けないみたいでよ。更に厄介なのが、迷惑だからどいてくれと交渉しに行った奴ら全員があちら側に寝返ってるんだよ」


「ほう、それは来訪者もか?」


「まだこの地に来訪者は来てないよ。仮に来ても怖くていかせたくはないな。不死の軍勢が敵にいるとか恐怖でしかない。まぁそいうこともあって、今じゃぁ誰が裏切り者なのかわからないから街はピリピリしてるんだ」


 なるほどねぇ。帝国側のスパイが紛れ混んでるかもしれないと。ていうかプレイヤーでこの街に来たのは俺らが最初なのか。てっきり攻略組とかそういう類のプレイヤーならいてもおかしくないと思ったんだけど意外だな。


「ふーん、宗教戦争とでも言えばいいのかねぇ。工作が始まってるわけだ。しかしあそこを抑えたところでエイダ聖国としては大した影響はないんじゃないのかい?あの先には大森林を監視するための要塞とサミロ王国とヤマト神国の中継地が少しあるくらいじゃなかったかい?」


「もしかするとサミロ王国とヤマト神国を分断したいのかもしれないな。もっといえば、エイダ聖国との連携も補足したい狙いがあるのかもしれん。そうでなくとも帝国側の拠点が国内にあるというのは避けたいだろう。とにかくだ、そういうこともあるから、大森林に向かうなら迂回していくことをお勧めするぜ」


「だ、そうじゃがどうする?」


「迂回したらどれくらい遠回りになるんだ?」


「二日三日くらいの遠回りかの。まぁ誤差じゃな」


「なら迂回でいいんじゃないか?」


「ですね、僕もそれでいいと思いますよ」


「私もだ」


「じゃぁ迂回ということなじゃな。ミツタカよ。情報感謝なのじゃ」


「かっかっか!いいってことよ!それじゃ、俺は明日の準備をしてくるから、あんたらはゆっくりしてくといい」


 そういって旅館の主であるミツタカは部屋を出ていった。


「では儂等も寝るとしようかの」


 特にすることもないので、俺らは布団を敷いて眠りについた。朝起きたら目の前にグレースの顔があったことに驚いて枕を叩きつけてしまったが、まぁいいだろう。



「では、1日だけじゃったが世話になったの。また来るぞ」


「あぁ、気を付けてな!」


 そして朝食を食べた俺たちは移動を再開した。




「止まれ!ここから先は通行止めだ!」


「む?何故じゃ?」


 オルトロンの街を出て二日後。山を迂回し街道を通って大森林へ向かおうとしたところ、道中の街の手前に駐在していた兵士に止められた。聞けばここでも魔王教と名乗る人間がこの先の街を占拠しているようだった。大森林の方に行くには、山を越えるか、あの街を通る以外の方法がないらしく、それらの通りを魔王教と名乗る者たちが占拠しているらしい。


「むぅ、面倒なことになったのぉ」


「空を飛んでいくんじゃダメか?シュロウに馬車を引いてもらってさ」


「できないこともないが、あれはシュロウにかなり負荷がかかる方法なのでな。あまり使いたくないのじゃ」


「うーん、それにしても随分と強引な手で来ましたねぇ。裏でこそこそするんじゃなくて直接的に占拠しにくるなんて」


「裏は裏で何かやってるんだろうさ。戦争に向けた準備を同時並行で進めてるんだろう。例えば内乱を起こさせたいっていう目的があったり、内通者を作ったりとかな」


 それでいくと内通者は既にかなりの数いそうな気がするぞ。宣戦布告から日が経ってないのにこうも相手側の動きが早いとなると、大分前から準備してきたんだろう。じゃないとこの早さで動いてくるのは考えられない。


「うーん、とりあえず来訪者・再生者の方々に協力を仰ぎましょう。どっちみち魔王教とかいう連中をどうにかしないといけないですからね。掲示板で協力者募集してみますね」


「確かにのぉ。儂も教会やらギルドやらに連絡を入れておくかの。既に動いているじゃろうが一応な」


 グレースは通話魔石を使用してどこかへと連絡し、シイラは掲示板に魔王教について書き込みを行い始めた。


「あぁ、そういえばジュウ・ダズウェルって男から儀礼剣を貰ってるんだが、これ何かに使えたりしないか?」


 ふと、ダンジョンで共闘した男を思い出したのでグレースに聞いてみた。ダズウェル家の地位によってはあの関所を抜けられるかもしれない。


「えぇーっと、確か神聖騎士団 第八天使部隊 隊長の名じゃったよな。知り合いじゃったのか?」


「前にダンジョンの氾濫があっただろ?その時に共闘したんだよ。昔俺が率いてた傭兵部隊の隊員の一人が、そいつの先祖だったらしい」


「ほう、あの時の血がまだ残っておったのか。何というか感慨深いのぉ。少しその儀礼剣を見せてもらえるかの?」


「あぁ、いいぞ」


「ふむ……」


 そしてグレースは儀礼剣をじっくりと見つめて何かを考え始めた。


「なぁ、ヘストからは協力してくれそうな人っていないのか?」


「残念ながらいないねぇ。私の人脈は鍛冶関連しかなくてね。その人脈も鍛冶ギルドを追放されてからは使えないのさ。すまないね。まぁ、古代遺跡についてはそこそこ知識があるからその時に役に立てるよう頑張るよ」


 何となくそうだろうなとは思ってたけどやっぱりか。あまり期待もしてなかったからいいんだけど。


「ふむ、このセンスのなさは紛れもなくダズウェル家のものじゃな。家紋も彫られておる。ダズウェル家に見せれば協力を得られるじゃろう。お主はどう使うつもりだったのじゃ?」


「いや、関所の騎士に見せれば通れないかなぁって思って」


「うぅむ、厳しいじゃろうな。あそこにいる騎士たちは王家直属の騎士たちじゃからなぁ。これが地方領主の手の物なら使えたじゃろうけどの」


「そうか。残念」


 というかさらっと流したけど、センスのなさで本物と判断される儀礼剣とかちょっとあれだな。逆にセンス良くしたら本物認定されなさそうで可哀想だ。


「じゃぁ空を飛んでいくのかい?」


「そうするしかなさそうじゃのぉ」


「とりあえず魔王教については来訪者の方々に連絡しましたので、動いてくれるはずです。どれくらい頼りになるかは不明ですけどね」


「今欲しいのは質より量じゃろうから大丈夫じゃろ。さて、本当は街で宿を取る予定じゃったが、残念ながら今日は野営じゃな」


「だな、日も暮れてきたし準備するか」


 そして俺たちは街道近くに拠点を構えて野営を行った。野営とはいうが、シイラとヘストが瞬く間に快適なコテージを建ててしまったので、野営という雰囲気はなかった。シイラの生産はチートだなと常々思っていたがヘストも大概だ。


 寝室は男女で分けられ男側のベッドは当たり前のように大きいのが1つだけ。一体どこで買って来たのか、何故かゴムまで用意されていた。流石に捨てた。グレースに気づかれる前で良かった。気づかれてたら絶対面倒なことになってた。



「ソフィアよ。これは何に使うんじゃ?」


 ご飯中、グレースは水の入ったゴムを手に持って俺に聞いてきた。様子をみるにマジで知らなそうだ。どこから持って来たとか、何で水を入れたとか、そもそも何で知らないんだよとか聞きたいことは色々あるが、ぐっと飲み込んで頭を撫でてやろう。お前はそのままでいてくれ。




———あとがき——————

 誰しも一度はゴムに水を入れて遊んだことあるはず。意外と頑丈で割れないんですよね。

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