No.3-3:ピリピリした街
「ちょいと早いが今日はこの街で休むとしようかの。ここから先は山を越えないといけないからの。ちなみにここは温泉街として有名な街じゃから、身体を休めるには丁度よいぞ」
「おお!それは素敵ですね!宿はグレースさんにお願いしても?」
「うむ、オススメの宿があるのでな。儂に任せておけ」
「うっ、ま、任せた」
馬車で移動を開始して4日。俺たちはオルトロンと呼ばれる街に着いた。ここまでは馬車で一直線で来ることが出来たが、ここから先は山を越えないといけないため徒歩での移動になる。正直馬車の揺れがきつかったので助かった。
グレース曰く温泉街として有名な街らしいので、温泉に入りゆったりしたいところだ。温泉に入ったのは幼い頃に1度入ったきりなので楽しみだ。
「それにしても随分とピリピリした雰囲気ですねぇ」
「確かにな」
馬と馬車を厩舎にあずけてグレースの先導で街を歩いていく。グレースが言っていたように温泉街なのは確かなようで、旅館や銭湯がチラホラと見受けられる。ただ、街を歩く人からはどことなくピリピリとした雰囲気が漂っており、とても街を楽しめるような状況ではなさそうだ。
そうこうしているうちに目的に着いたようだ。場所は裏通りにあるちょっと寂びれた旅館。庭の手入れがされていないようで、草木がボーボーに伸びている。本当に大丈夫なのだろうか?
「ミツタカ!おるかー!?」
とか思っていると、グレースは門を勢いよくあけてこの旅館の主と思われる人を呼んだ。
「おん?グレースかぁ!かっかっか!久しぶりだな!」
すると庭で好き勝手に伸びていた草木が門の前に集まってきて、人の形を成していき、最後には着物を着た黒目黒髪のおっさんへと変身した。庭に伸びていた草木はいつの間にか整えられており、それだけで寂びれた旅館だったのが日本の高級旅館へと変貌した。建物自体は特に変わりないように見えるのに不思議だ。
「うむ、久しぶりじゃの。部屋は空いておるかの?」
「あぁ、もちろんだ!あんたのために空けてあるよ!後ろの3人はお連れさんかい?」
「うむ。儂のパーティメンバーじゃ。よろしく頼む」
「そうかそうか!ついにお前もパーティに入ったか!かっかっか!なら今日のご飯は腕によりをかけて作らんとな!部屋はいつもの所だから好きに使うといい!」
「ありがとう。では皆、入るぞ」
「あ、あぁ……」
そして旅館に入るとこれまた日本の高級旅館と言った雰囲気だ。グレースは勝手知ったる家のようにドンドンと先へと進んでいく。
「ついたぞ。ここじゃ。靴は脱ぐのじゃぞ」
部屋には畳が敷かれていて、靴を脱ぐスタイルの部屋だった。こういった旅館は現実だと非常にお金がかかるので、ゲーム内とはいえ旅館に泊まれるのはかなりテンションが上がる。畳とか初めて見た。不思議な感触だ。
「ほへー、さっきの人はヤマト神国出身の人かい?ここの主人なんだろう?」
「あやつがどこ出身なのかは知らぬ。が、ヤマト神国にゆかりのある人間なのじゃろうな。本人は自身のことを仙人と言っておったがの」
仙人?あれが?仙人と言えば山に引き籠った世捨て人というイメージが強い。が、さっきの人にそんな雰囲気はない。どこにでもいる気のいいおっちゃんといった感じで、仙人のイメージとはかけ離れている。俺以外の皆も同じように思っていたようで、首をかしげていた。
「ま、まぁそれはいいや。とりあえず温泉入ろう。あるんだろう?」
「ふっふっふ!無論じゃ!なんと部屋に温泉がついておる!こっちじゃ!」
グレースが部屋の奥にある引き戸を開けると、その先に洗面所兼脱衣所があり、その先に露店風呂が設置されていた。どういう訳か露天風呂からは街を見下ろせるようになっていて、とてもいい景色が広がっていた。
「おお~、これは凄いですね。温泉も広いですし。ところでこれは転移か何かですか?どう見てもさっきいた場所からはかなり離れてますよね?」
「さぁの。儂にはわからぬが、ここの主人曰く魔法の一種らしい。まぁ気にしても仕方なかろう。先に女性陣から入るとよいぞ。儂とソフィアは後から入るのでな」
「本当ですか!やった!ヘストさん入りますよ!」
「えっ、あっ??お前女かよ!!」
「失礼ですね!女ですよ!さぁさぁ着替えましょう!お二人はさっさと部屋に帰ってください」
そしてシイラとヘストの二人が露天風呂を満喫して戻ってきた後に、俺とソフィアが入れ替わりで露天風呂に入った。グレースがやたらと身体をくっ付けてきたが、そんなことがどうでもよくなるほど温泉は気持ちよかった。是非また入りたいものだ。
「おう、温泉はどうだった?」
「「「「最高!!」」」」
全員の意見は一致した。マジで気持ち良かったからな。
「ふははは!それは何よりだ!今飯を持ってくるからゆっくり食べてくれ!」
そして出てきたのは魚をメインにした懐石料理。刺身に寿司もある。生魚を食べる機会も現実だとほとんどないのでこれは嬉しかった。ひとたび口に入れてからは箸が止まることなく進み、気が付けばあっという間に食べ終わっていた。食事中は誰も一言も発しなかったが、それだけ美味しかったということだ。その証拠にメンバー全員の表情が満足そうだ。
「はぁ~、美味しかったのぉ」
「あぁ、最高だった」
「かっかっか!それは嬉しいね!腕に寄りかけて作った甲斐あるってもんだ!ところでいつここを出ていく予定なんだ?」
「明日出ていく予定じゃ。ちょいと急ぎなのでな。古代大森林まで行かないと行かんのじゃ」
「ということは山を越えるのか?」
「うむ」
「残念だが今は山を越えられないぞ?いや、無理すれば越えられないこともないだろうが色々面倒になるから辞めた方がいい。迂回するか解決するまで待つかした方がいい」
「ぬ?何故じゃ?」
「あの山は今帝国軍が陣取ってるんだよ……」
そうしておっちゃんがもたらした情報は予想外のことだった。まさかもう帝国が動き始めているとは。だからピリピリした雰囲気が漂ってたんだな。納得だ。
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