No.2-36:改造

「よっ、ほっ!」


 奥から次から次へと湧いてくる鎧を着た兵士たち。俺らは四人はそれぞれで自由に倒していく。数はいるが拍子抜けするほど弱い。なんだこれ。


「んー、何か変ですね。全員目が虚ろで変な感じですねぇ。よっと」


「全くじゃのぉ。というか数が多くて一向に進めないんじゃが。面倒じゃから魔法で一掃してもええかの?よっ」


「確かに。そうするのが良さそうであるな」


「じゃぁグレースよろしく」


「うむ、任された『氷之世界ニブルヘイム』」


 あまりに数が多いので、グレースの魔法で一掃することにした。グレースが使用したのは、先日の道程との戦いで使用した、あらゆる物が凍る風を発生させる魔法。それは人も例外ではなく、施設の中にいた人の多くは氷像となり砕け散っていった。


「よしっ、大分掃除できたんじゃないか?」


「おぉ、凄いですね。ところで今回の依頼って攫われた子供を助けるんですよね?こんな大規模に攻撃して大丈夫です?」


「うむ、その辺も抜かりないぞ!ちゃんとシュロウの透視能力を借りて使ったからの!この魔法が届く範囲にはおらんかったから大丈夫じゃ!さて、先に進むぞ!」


 シュロウってそんなことも出来るの?お前まじで凄いな。ひとまずこれ以上は敵が湧いてこないようだし、俺も中に入ろうか。


「うぅ~、寒いですね」


「まぁ、これだけ凍ってたらなぁ」


 施設の中はグレースの魔法のせいでかなり寒い。メリルは寒いのが苦手なのかとても寒そうにしている。発動したグレースと、道程は割と平気そうだ?俺?おれはさっきの戦いで身体が暖まってるから特に問題ない。


「で、本当にこっちであってるのか?」


「うむ、シュロウがそう言ってるから問題ないぞ」


「ところでずっと気になってたんですけど、その狼君って何者なんですか?身体のサイズを自在に変えることが出来て、空を飛べて、透視も出来て、そんな生物聞いたことないですよ?」


「儂も詳しくは知らぬ。専門家曰く、半分幽霊半分魔物の半霊半魔デミゴーストと言う種族らしいぞ」


「へぇ~、珍しい生き物なんですね。あっ、モフモフしてて暖かい」


「グルゥ……」


 メリルは余程寒かったのか、シュロウに身体をうずめながら歩きだした。というかほぼシュロウに乗っかってるような状態だ。シュロウも不思議な状況に困惑している。


「ぐるっ」


「えっ、乗せてくれるんですか?わーい、ありがとうございます!」


 そんな中途半端な状況に嫌気がさしたのか、シュロウはメリルを背中に乗せた。




「なんと……」


「これはまずいかもしれんのぉ。ハンスは大丈夫かのぉ」


 シュロウの案内についていくと、大きな部屋に出た。そこには緑色の液体で満たされた大きな筒が数多く設置されており、筒の中には辛うじて人間とわかる程度に改造された人が浮かんでいた。完全な怪物ではなく、あくまでも元は人間だとわかるレベルで弄られているのは本当に質がわるい。


「ぐるぅ……」


「どうしたんじゃシュロウ?ハンスは無事のように見えるがの」


 ハンスもまたその筒の中に入っていたが、特に改造されたような様子もなく、外見は元のままであった。しかしシュロウは何やらハンスに対して怯えている。


「これをどうします?これ壊しちゃって大丈夫なんですかね?」


「おやおやおや?それは困りますよ。貴重な資料を破壊されるのは研究者として見過ごせませんね」


 その問いに答えたのは、いつの間にか部屋にいた研究者の男性。以前廃坑ダンジョンで戦った研究者と同じだ。


「おや、おやおやおや。あなたでしたか。その節はお世話になりました。あなたのおかげで計画は狂ってしまいましたよ。また邪魔しにきたのですか?」


「別に邪魔しに来たつもりは無いんだがな。どうも不思議と縁があるようだ」


「えぇえぇ、それは本当にそうですね。えぇ、厄介な縁があったものです。それでどうしますか?」


「こいつを解放してくれりゃぁ俺らとしては文句ないんだが、解放してくれないか?」


「そうですか。では解放してあげましょう」


 するとハンスが浮かんでいた筒の水が抜けて筒が開いた。支えるものがなくなり倒れてきたハンスをグレースが支え、シュロウの背に乗せる。


「何を企んでいるんですか?」


「特に何も。ところで、?」


「あああああ!!!!」


「!?」


「ぐぅっ!?」


 突如、ハンスが暴れ出してグレースに襲い掛かった。今までとは想像できないほどの力でパンチを繰り出し、その攻撃を受けたグレースは、途中にある筒を割りながら壁まで一直線に吹き飛ばされる。


「ああああ!!!」


「ぬぅ!これは本気で対応しなければまずいぞ!」


「私も援護します!」


「あぁもう、勘弁してくれやまじで!」


 その後もハンスは暴れ続け、それに対して俺らはハンスを殺さないよう気をつけつつ戦う。だが、今のハンスは上級魔族に匹敵するくらいの強さがありそうだ。本気でやらねぇとこっちが殺されそうだ。最悪だよマジで。


『ふふふ、実験は成功ですね。さて、では他の子たちも解放してあげましょう。それでは侵入者の皆さん、頑張ってくださいね。命があればまたお会いましょう』


 どこかに仕掛けらていたスピーカーから先ほどの研究者の声が響き、同時に筒は開き改造された人たちが全員解放された。研究者はいつの間にか姿を消していた。いつの間に居なくなったんだ?戦いに集中してて気がつかなかったな。


「おいおいおい、勘弁してくれよ。これ全部相手にしねぇといけないのか?」


 改造されているとはいえ元は人間だ。被害者のこいつらをどうにかしねぇといけないとはいえモチベーション上がらねぇな。かといって最低でも下級魔族程度の力はありそうなんだよなぁ。ハァ……こういう戦いはおれ嫌いなんだよ。勘弁してくれよ。


「ソフィアよ。テンションが上がらないのはわかるが、気を抜いたら死ぬのはお主ぞ」


 いつの間にか回復していたグレースがこちらに戻り、ハンスを含めた改造人間の対応を進めていく。


「わぁってるよ。気分悪い戦いはさっさと終わらせるに限る」


 はぁ、仕方ねぇか。死なないことを祈りつつ、本気でやるとするかぁ。


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