No.2-25:再来

「ヒャハハハ!遅い遅い遅い!『電光切火でんこうせっか』!」

 

 隊長は全身に雷を纏わせ、蛇の怪物に向けて技を放つ。手に持った三叉槍トライデントが蛇の頑丈な鱗を切り裂き、切り口に沿うように火花が上がる。


『シャアアア!!!』

 

「サンダーランス!」「ストーンブレイブ!」「アクアアロー!」


 隙を見つけた騎士団たちは隊長に続けて攻撃を仕掛けていく。


『ブモオオオオ!!』


 しかしそれを庇うようにサイの怪物が騎士団に向けて突進してきた。


「私が防ぎます!『巨人ノ盾』!」


 それにたいし、騎士団の副隊長が魔力で出来た巨大な盾を生成して防ぐ。


「ヒャハハハハ!まだまだ行くぜぇ!」


『オ”、マ”エ”、ジャマ!!』


「グゥッ!」


「隊長!!!」


「カバーします!」


 サイの動きを副隊長を始めとした盾職が防いでる間、神聖騎士団の隊長は蛇の怪物に畳みかけようとしたが、蛇がやけになって振り回した尻尾にぶつかり吹き飛ばされた。直ぐに他の隊員がカバーに入り、治癒術を扱える隊員が隊長の回復に向かった。


「大丈夫ですか!」


「この程度なんてことはねぇ。それより聞こえたか?」


「えぇ、喋りましたよね」


「そうだ。あいつら、この短時間で成長してやがる。しかも片割れを食べてからいきなり戦闘能力が上がりやがった。厄介だぞ。増援は?」


「人型を相手してた冒険者は治療中です。外にいる冒険者も満身創痍でこの戦いに参加できるような状態ではありません。増援が来るのはもう少しかかるかと」


「はぁ……長い戦いになりそうだな。戻るぞ」


 

「ヒャハハハハ!こうもデカいと攻撃しやすくて楽だなおい!」


『ムシ”、ケ”ラ”ガァ”ァ”ァァ!!!』


 蛇の怪物はイラついていた。普通なら歯牙にもかけないような、矮小な生物相手にと感じていたからだ。奴らの攻撃は大したことはなく、いくら受けても問題にならない。だがこちらの攻撃は、先ほど偶然当たったのを除いては一度も当てられていない。まるで『お前なんていつでも倒せるんだぞ』と言われているかのように感じていた。


『ブモオオオオ!!!』

 

 片割れのサイと言えば、バカの一つ覚えのように、地面をひたすらに踏みつけることしかしてない。その立派な角は一体何のためにあるのか。もっと他にないのかと、そう思っていた。


 それは、サイも同じように感じており、蛇のことを、うねうねした身体を振り回すしか能のないバカだと思っていた。


『ブオオオオオ!!!』

『オ”マ”エ”エエエエ!!!』


「あん?また仲間割れかぁ?」


 そして二体の怪物は同じ結論にいたった。先ほど人型の同胞を喰らったら知能が上がり、力が上昇した。ならば横にいるやつを喰らえば更に強くなるのではと。結果、蛇とサイの怪物は、先ほどまで相手していた人間を無視して、互いに互いの身体を喰らい始めた。


「た、隊長、これヤバイんじゃ」


「そんなこたぁわかってる!魔法を使えるやつは何でもいいから大技の準備しとけ!それ以外の奴は今のうちになるべく体力を回復させろ!」


「「「「はい!」」」」





「よしっ、行くか」


「えっ!まだ完治してませんよ!?」


「何だお前新人か?戦闘中に完治するまで治療する余裕なんてないだろ。これだけ治ってりゃぁ十分だ。ほらいくぞ」


「えっ、あっ、えっ??」


 ソフィアは身体の傷が6割ほど回復した時点で、十分だと判断して戦場に戻った。『完治するまで治療する余裕がない』というのはそうだが、それ以上にこの戦いの終幕フィナーレが見えてきたという理由が大きい。一番盛り上がるところに自分が参加できないということを、ソフィアは我慢できなかった。



「ふぅ、終幕フィナーレには間に合ったか。治療ありがとな」


「あっ、いえ。私はこれくらいしかできないので」


「よぉ、あんたも協力してくれるのかい?」


 ソフィアと騎士団の治癒術師の二人が、未だ同士討ちをしている怪物の近くにつくと、隊長がソフィアに声をかけてきた。


「集団戦はあまり得意じゃないがな。それでいいなら」


「ヒャハッ、あの怪物の1体とタイマン張れるほど強いなら大した問題ねぇよ。俺は、エイダ神聖騎士団 第八天使部隊 隊長 ジュウ・ダズウェル。あんたの名は?」


「俺はソフィア。ただの冒険者だよ。再生者だからこの世界のことには疎い。よろしく」


「ヒャハハ、お前さんほど強けりゃぁ名を上げるのは直ぐだろうよ。それより、あんたあれについてどう思う?」


「どうと言われてもなぁ。まるでウロボロスみたいだとしか」


 怪物2体は互いに喰らい合うも、どちらも非常に高い再生能力をもつため傷つく傍から再生し、一向に決着がつかない状態になっていた。どちらかが先ほどより強い力で噛みつけば、噛みつかれた方は更に強い力で喰らい付く。それが延々となされていき、怪物の喰い合いはどんどんと激しさを増していった。


「それより、増援は10人だけなのか?運よく抑えられてはいるが、これ外に出たら大惨事だろ」


「外も結構な地獄だったけどな。まぁ、今は時期が悪かった。3か月後に大きな祭りが控えてるせいで、動かせる人員が少ねぇ。更にこの場で戦うならAランク冒険者程度の実力は欲しいが、それだけの人材が一か所に集まることなんてないしな。10人、いやお前含めて11人もいるだけ運がいいほうさ」


 ふーん、そういうものか。なら仕方ない……のか?まぁ考えても仕方ない。いないものはいない。今いる人間だけでどうにかしないとな。


「ところでソフィア。お前の使ってた技は何処で覚えた?」


「見てたのか?」


「あんなん嫌でも目に入る。戦場流だろあれ。数ある流派の中で、最も習得難易度が高く、現代で使いこなせる奴はいないって言われてるやつじゃなかったか」


「知らん。俺はだからな。当時の師匠に教わったんだよ」


「……なるほど。そういうこともあるのか」



 二人が雑談をしているうちに、怪物の喰い合いは引き分けという形で決着がついた。2体の怪物は、最終的に一つの肉の塊へと戻り、巨大な卵へと形を変えた。


「気味の悪い卵だな」


「全くだ。で、どうするんだ?」


「とりあえず破壊を試みる。お前らぁ!余力のあるやつはこの気味悪い卵を破壊するの手伝えぇ!」


「「「「はいっ!」」」」


 騎士団の隊員たちは、各々が卵相手に攻撃をし始める。しかし、卵の再生能力は先ほどよりも更に上がっていた。手に伝わる感触は確かに切っているのに、そう思った時には既に再生されている。何をすればダメージが入るのかわからないほどであった。


「ヒャハ!『雷突』!」


 隊長のジュウが放った突きが卵に当たり、卵全体に稲妻が走る。しかし、それ以外に何も変化は起こらず、あっという間に再生されていた。


「まじでふざけてるな」


「だな」




 は考えていた。何が最適なのか。どうすればより高みに到達できるのか。産まれた時から強者であったはずの怪物は、自らと同じ強者と対峙したことで更に上があることを知った。


 どうすれば、何が足りない。真似ればいいのか?本当にそれでいいのか。もっと何かないのか。そして色々考えた末に。なぜ忘れていたのだろう。あんなにも充実した日々を、あの美しい戦場を――そうだ、私は、我は。


「我が名は南方軍将軍ジ・ラオ。弱き人よ、我ら魔族の支配下に下るがよい」


 かつて人魔大戦で人類が負けた相手が、千年の時を超え、再び人類の前に現れた。


———あとがき————————

 投稿遅くなりすみませんm(_ _"m)

 

 

 

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