No.2-24:化物vs怪物

 かつて敗北した強敵の姿を視認し、真っ先に襲い掛かったソフィア。そのままソフィアとジ・ラオ(偽)の激しい戦いが始まった。


『グガガガア”ア”ア”!!』


 ジ・ラオ(偽)は何処からか取り出した漆黒の剣を振るい、ソフィアに攻撃をしかけていく。意思を持たない怪物はただ力任せに振るうだけだ。にも拘わらず、その一撃一撃は、地面を割り、遠くの壁に傷がつくほど威力がある斬撃であった。


「ハハハハ!!なってねぇか?おい!」


『グガアアアア!!!』


 どれだけ威力があろうと当たらなければ無意味。ソフィアはそれを実践し、怪物の腕を切り落とした。


『グガガガガ!ガァ!!!!』


「おいおい、どんな再生力だよ!」


 かと思えば、その切り落とした腕は一瞬で再生し、すぐさま攻撃を仕掛けてきた。その後もソフィアは足を切り、首を落とし、心臓を貫いたが、常軌を逸した回復力で瞬時に再生するため、怪物の動きが止まることはなかった。


『ッグガウ”ッ”』


「くっ!」


 それどころか、切られれば切られるほど、戦えば戦うほど怪物の動きは洗練されていった。それはまるで、千年前の戦い方を思い出しているようであり、徐々に本物に近づいてきていた。



「ハハハハ!最高だ!最高だなあ!おい!!」

 

『グガガガガ!!!』


 ソフィアに答えるかのように、怪物も声を上げる。最初にあった実力差は徐々に埋まっていき、気が付けばソフィアの身体には小さな切り傷ができ始め、怪物が攻撃を受ける回数は少なくなっていった。


『グガァ”!!』


「ガハッ」


——ドオオオン!


 そしてついに力関係が逆転し、ソフィアが吹き飛ばされた。ソフィアは地面に倒れており追撃のチャンスなのだが、怪物は追撃せず、その場に佇みじっと倒れたソフィアを眺めていた。



「……かぁ~、効いたぜ。やればできるじゃねぇかおい」


 ソフィアは何事も無かったかのように起き上がる。しかしその身体に受けた傷は深く、多量の血を流していた。にもかかわらず、その覇気は衰えず、むしろ増していた。この明らかな異常に、怪物は感じないはずの恐怖を僅かながらに感じていた。


「続きをやろうぜ。なぁおい!」


『グガウッ!』


 そして戦いは再び始まった。幾たびもぶつかり合う互いの剣戟。互いに本気の殺し合い。攻撃を受ける回数はソフィアの方が多く、どちらが優勢かと言えば怪物の方だ。しかし、押しているのはソフィアの方であった。


『グア”ア”ア”』


「ハハハハハハ!!!これだ!これこそがだ!もっとだ。もっと俺を楽しませろお!」

 

 何度切っても倒れない。切っても切っても向かってくる。重症のはずだ。こちらはいくら攻撃を受けたところで再生するから問題ないハズだ。なのに何故こんなにも恐怖を覚えるのか。


——何故、なんで、どうして、どういうことだ、よくわからない、何だこれは。


 戦いは確かに怪物が優勢のハズだった。なのになぜこんなにも押されてるのか。産まれたばかりの怪物には気が付くことが出来なかった。気持ちで負けているということに。


「アハハハハ!!戦場流大剣術!『花吹雪』!」


『グギャガア”ア”ア”ア”!?!?!?』


 そしてソフィアの技が怪物に入った。直後、切られた場所を中心に外側に向けて少しずつ身体が削られていき、花弁の如く真っ赤で細かな肉片が宙を舞っていった。


『グガァ!?ググガ!』


 その様子に怪物はパニックを起こす。実際は削られた傍から回復しているため、大した影響はないのだが、内側から外側に向けて削られるという痛みと恐怖に負け、自身の状況を正確に把握できなかった。


『グガァ!』


「戦場流大剣術『灰滅かいめつ』」

 

 冷静さを失い、がむしゃらに攻撃してきた怪物に対し、ソフィアはカウンターを一閃。首を落とされた怪物は、切り口から徐々に灰となり消えていく。本来なら再生するハズのそれが再生せず、怪物は困惑していた。


『グッ!?グギャッ!?』


「おいおい、しぶとすぎるだろ。文字通り灰になるほど細切れにしたハズなんだけどな。何で原型留めてるんだよ。意味がわからねぇよ」

 

『グガァ!!』


——ガキンッ!


「マジかよ……。逃げやがった」





 怪物は殺されまいと、手にしていた剣をソフィアにぶん投げ、その隙に頭を持って逃げた。死の恐怖から逃れるためにひたすら走った。かつて同じ肉塊だった同胞の元へ。


 同胞が戦ている姿が見えた。今なお身体は徐々に消えていっている。しかし同胞を喰らえば再び復活するだろう。怪物は本能でそう感じていた。そして同胞に襲い掛かった。


『グッ?ガァ?』


——バリッ、ガリッ……ゴクン


『ゴオ”オ”オ”オ”オ”!!!』


 しかし、怪物は、同胞である蛇の怪物に喰われてしまった。何故喰われたのか、何故喰ったのか、それは喰った張本人である蛇にもわからなかった。ただなんとなく、本能が喰えと言ったから喰った。それ以外の理由を、産まれたばかりである蛇の怪物が考えることはできなかった。



「ヒャハハハハ!!なんだなんだぁ!?同士討ちかぁ!?なんか圧が増してねぇかぁ!?面白いじゃねぇかおい!」


 サイと蛇の怪物2体を相手していたのは、真っ先に援軍に来たエイダ神聖騎士団。その数10名。彼らは全員がAランク冒険者に匹敵する強者であり、隊長副隊長に至ってはSランク相当と言われている。経験豊富で実力十分な彼らは怪物2体同時に相手しながらも、誰も怪我することなく安定した戦いを続けていた。



「た、隊長。サイの方も何かヤバい雰囲気です」


「ヒャハハハ!!最高じゃねぇか!おいヒイラ!あの戦士を回復してこっちに連れてこい!」


「かっ、かしこまりました!」


 指示を受けた治癒術師は、ソフィアの元へ向かう。


「ヒャハハハ!おいお前らぁ!一体は既に倒されたぞ!たった一人の男に神聖騎士団が負けていいのか!?否だろう!!気張ってけよお前らヒャハハハハ!!」


「いや、別に争ってないですし、てか連れてこいっていいませんでした?」


「それはそれ、これはこれだろ!」


「えぇ……」


 隊長の矛盾する言い分に、首をかしげる隊員たち。


「はいはい!気を緩めないでください!来ますよ!」


「「「「「はい!」」」」」


 それを副隊長が引き締め、再び怪物を相手に戦いを再開した。





「……なんかあいつ見たことあるような?誰かに似てるんだよなぁ」(ボソッ


「えっ?」


「何でもない。治療頼む」


「はっ、はい!」



———あとがき———————

 あと2、3話くらい戦闘シーンが続く見込み。


 PS.戦闘シーンが長いと胃もたれするのって私だけでしょうか?かといって少ないと、それはそれで物足りない……ってなるんですけど。この塩梅が難しい。

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