No.2-23:怪物の産声


「ハハハハ!なんだお前ら。随分面白い姿してんじゃねぇか。俺を愉しませろぉ!」


 たった一人でダンジョンの中に入ったソフィア。彼の眼に映った魔物たちはダンジョンの外にいた魔物とは違い異形であった。ゴブリンは二回りも大きく筋骨隆々になり、ゴーレムはゴムのような柔らかさを持っていた。オークは通常の5倍も分厚い肉を付け、それでいながら通常種の倍速で動けるようになっていた。そして全ての魔物は、真っ黒な血管が全身に浮かび上がっていた。


「ハハハ!いいねいいね!久しぶりのは最高だな!」


 ソフィア一人に対して、エリア一帯を埋め尽くすほどの魔物が襲い掛かる。彼が剣を振るたびに、周囲の魔物は切り刻まれて倒れていく。しかし倒すペースよりも襲い来る魔物の方が多く、中々先に進めないでいた。


「グ、ガァアェ!」


「あ”あ”っ”、うるせぇ!」


 更に首を落とし、心臓を貫いても、他の魔物の死体とくっついて再び動き出す。それを何度も何度も繰り返し、もはや元が何の魔物だったのかわからない魔物が、次々と生まれていった。


「おいおい、随分としぶてぇな。消え失せろ。戦場流大剣術『撫切なでぎりめつ』」


 ソフィアが剣技を発動させると、半径3メートル以内にいる全ての魔物が、一瞬にして細切れになり、更にその破片が発火して完全に燃えて消え去った。しかしそれでもなお、ダンジョン内の魔物は多く残っており、戦いは長期戦となっていく。



——30分後


「アーハッハッハ!楽しい!楽しいぞお前らぁ!!!」


 未だソフィアの体力に衰えは見えず、それどころかさらに勢いを増している。しかしダンジョン内にいる魔物もまた一向に減る気配がなく、ついに空を飛ぶ魔物まで現れた。既に千匹は殺しているだろうに一向に先に進めない。しかしソフィアは、この終わりの見えない戦いを愉しんでいた。



——くそっ!なんだこいつら!切っても切っても起き上がってくるぞ!

——助けは必ずくる!やけになるな!耐えるんだ!

——気ぃ張ってけお前らぁ!


 そんな中、遠くから誰かが戦っている声がソフィアの耳に入った。


「生き残りがいたか。行けるか?」


 魔物の頭上を飛び越えようにも、空を飛ぶ魔物も多数いる中を飛ぶのは流石のソフィアでも無謀である。


「さて、困ったな。折角の愉しい戦いが冷めちまう。どうしたものか」


 『ドオオオン!』


 生き残りをどう助けるか悩んでいたら、ダンジョン入り口付近で大爆発が起こった。


 ――ヒャハハハ!来た来た来たあああ!俺が来たぞ!!かかってきやがれ魔物どもおおお!

 ――皆の物!隊長に続けえええ!!!

 ――ウオオオオオ!!!


「援軍か。これなら行けるな」

 

 新たにダンジョンに入ってきた者たちは、かなりの実力者の持つようで、通常より遥かに強い魔物を次々と殺していった。これにより魔物のヘイトが新たにダンジョンに入ってきた集団に向き、ソフィアと生き残りの冒険者の周囲にいる魔物の数が減った。


「戦場流大剣術『閃刃せんじんめつ』」


 そのタイミングで、ソフィアは中で救助を待っている冒険者のいる方向に向けて技を放つ。直線状にいた魔物は一瞬にして細切れになり、燃えて灰となり消えた。それにより、孤立していた冒険者パーティに続く道が一瞬できた。その道を全力で駆け抜け、冒険者の居るところまで向かう。


「死にたくなけりゃぁ頭下げろ!戦場流大剣術『撫切なでぎりめつ』」


 ソフィアは冒険者パーティに攻撃が当たらないように、周囲の魔物を一掃した。


「はぁはぁ、助けに来てくれたのか。ありがとう」


 冒険者パーティは満身創痍、どころか既に死んでいてもおかしくないほどの怪我を負っている。ある人は右腕がなく、あるものは両目が潰れ、ある物は脇腹が抉れていた。よくこれで戦い続けれたものだと、ソフィアは関心した。


「礼を言うのはまだ早いだろ。それはこれを脱してからだ。入り口付近まで道を作る。走れるか?」


「当り前だ。こんだけ頑張って死ねるかよ」

「そうだぜ、あんちゃん」

「私たちはまだ死ねねぇよ!」


「そうか。なら行くぞ。戦場流大剣術『生道せいどう』」


 ダンジョン入り口まで伸びる一筋の光。その光は魔物を押しのけ、入り口まで道を作った。


「ありがとう!」

「感謝するぜぇ!」

「助かった!」


 ソフィアの合図を待たず、3人は走り出した。そして彼らはあっという間に入り口付近の冒険者と合流した。その直後に魔物によって道が閉ざされた。


「ふぃー、さてシイラたちは何処にいるんだかな。少し萎えちまった。早いとこ見つけないとな。よっと」


「グガガサッ!?」


 先ほどまでの覇気は消えたが、既にこのエリアの魔物に慣れたソフィアは息をするように魔物を次々と屠っていった。


 

——更に30分後

 

「んっ?」


 魔物の数も少しずつ減り始めたころ、魔物は突然、何かに惹き付けられるようにエリア中央へ集まり出した。多くの魔物が一か所を目指して集まった結果、中央付近の魔物は外側から押され次々と潰れていくが、お構いなしに次々と魔物が集まり積み重なっていく。


「なんだありゃ」


 そして出来上がったのは巨大な肉の球。黒い血管のようなものが球全体を覆いつくし、脈動しているその姿は中々に気色の悪いものだった。


 

「ま、魔物もいなくなったことだし今のうちにシイラたちを探しますか」


「グルゥ」


「おっと、シュロウか。何があった?ハンスはどうした?」


 ソフィアがパーティメンバーを探しにいこうとしたタイミングで、大きくなったシュロウがやってきた。その背中には、ぐったりとしたシイラとグレースがいた。幸い気を失ってるだけで、死んではいなさそうだ。


「グル、グルル、グルゥ」


「ん?何々、攫われたって?全身を真っ黒なローブで覆った男に?」


「グルゥ」


 シュロウは地面に絵を描くことで、ハンスが攫われたということをソフィアに伝えた。ソフィアもとても驚いたが、そんなことを言ってる場合ではないので、追及するのは止めた。



——オ”オ”オ”オ”オ”ッ!!!!!


「うっるさ!!何だよ」


 とりあえず外に行こうと提案しようとしたとき、ダンジョン内に気色の悪い咆哮が響いた。その発生元を見れば、肉の塊となった魔物の残骸に口のようなものが生えていた。かと思えば、肉の球は分裂を始め、直ぐに3つの肉塊へと分裂した。その肉塊は徐々に姿を変え、何かになろうとしていた。


「シュロウ、急いでその二人を連れてダンジョンから出ろ。そして近くの街までいって応援を呼んで来い。わかったな」


「グルゥ」


 嫌な気配を察知したソフィアは、シュロウに急いでダンジョンから出るように指示し、シュロウもそれに従った。


 そして、変形が完全に終わった肉塊はそれぞれ強力な怪物の姿へと変形していた。


 一体はサイをベースにした魔物で、10mを超える巨体に異常発達した筋肉を持ち、漆黒に染まった天使の羽と立派な二本の角を持つ魔物の姿。


 一体は蛇をベースとした魔物で、こちらも10mを超える巨体を持つ。全身を覆う真っ青に輝く鱗と、羽の形をしたヒレを持ち、頭から生えた王冠のような形をしている角が特徴的な魔物の姿。


 そして最後の一体は


 ――ガキンッ!!


「ハハハハ!!よぉ、久しぶりだなおい。1000年ぶりと言えばいいか?」


「グガアアアア!!!」


「おいおい、久しぶり過ぎて言葉も忘れちまったか!!」


 千年前、ジークとして最後に戦った魔族軍の将軍、ジ・ラオであった。

 



———あとがき—————

 イメージとしてはサイがベヒモス、蛇がリヴァイアサンです。こういう過去作の敵が出てくる展開はかなり好き。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る