No.2-21:ヘスト加入
「おっ、薬の効果切れた」
ゲーム内7日後(リアルだと2日と少し)、廃坑ダンジョン前の廃村で休憩していている最中に丁度薬の効果が切れた。やっと元に戻った感じがして安心できるな。
ただメイド服のままなのは納得いかない。しかもミニスカートバージョン。恥ずかしい。罰ゲームは終わったはずなのに。
「んぁ、電話だ。ちょっと出るな」
通話魔石に反応があったので、出てみるとヘストからの連絡だった。依頼が終わったそうだ。俺は二人にヘストを迎えに行くと伝え、一人で始まりの街に戻った。ハンスの護衛と訓練についてはシイラとグレースに任せても大丈夫だろう。
「よっ、久しぶりだな兄ちゃん。その恰好はどうしたんだ?似合ってるぞ」
「久しぶり、それは気にしないでくれ。依頼は終わったのか?」
「おう、無事終わったぞ!報酬として私専用の鍛冶場も貰ってきた。だから今から見に行こう。素材は用意してるんだよな?」
流石公爵。専用鍛冶場を用意するくらいお手の物か。どんな人かしらないけどありがたい。
「あぁ、魔金と聖銀も手に入れたぞ」
「ほんとか!?私に任せてくれるってことでいいんだよな!?」
「あぁ、最初からそのつもりだ」
「っしゃぁ!!」
俺が指定された素材を集めたことを言うと、ヘストはガッツポーズをした。貴重な鉱石を扱うことは鍛冶師にとって嬉しいことなんだな。
「じゃぁ、早速いくぞ!」
そしてそのままのテンションで、公爵からもらったという鍛冶場へ向かった。
「おまっ、えっ、これ……」
「おおおー!!いいねいいね!!太っ腹じゃないかアッハッハ!!」
鍛冶場として指定された場所にあったのは貴族が住んでそうな豪邸だった。まじかよ。最高じゃないか。
「お待ちしておりました。ヘスト様、ソフィア様。中をご案内いたします」
「あぁ頼んだ!」
しかも中に入ると使用人が迎えてくれた。マジで太っ腹だな。案内してもらいながら、この屋敷について色々と説明を受けた。この家は『冒険者パーティCross』の拠点として使用することを目的として建てたらしい。だからこの家の持ち主はパーティーリーダーの俺になってる。これはヘストの希望だそうだ。
「なんで俺に押し付けたんだよ」
「公爵様が鍛冶場だけじゃわりに合わねぇっていってなぁ。ならパーティとしての拠点があればいいんじゃねって思って、とりあえず言ってみたのよ。そしたらこれさ。アッハッハ!」
アッハッハって。お前なぁ。はぁ……、まぁ拠点があるのは嬉しいけど一言伝えてくれればいいのに。
「ところで、他のパーティメンバーの方々はどうなさってるのですか?」
「廃坑ダンジョンで別の依頼をこなしてるところだ。元々はヘストを向こうに連れていく予定だったからな」
「作用でございますか。ではこの後すぐに移動するので?」
「いや、予定を変更して今日はこっちで休む。仲間にも伝えて戻ってきてもらうようにする」
「かしこまりました」
「最後に、こちらが鍛冶場になります」
「おお!めっちゃいいの揃ってるじゃないか。いいねいいね!」
俺の眼では良さがわからないが、鍛冶師のヘストから見ると凄くいいらしい。特に変わった様子は見えないけど、本職の人がいうならそうなんだろう。
「よしっ、早速作るか!持ってる鉱石ここに出してくれ」
やる気満々のヘストがやると言ってるので、言われた通りマジックバックから色々な鉱石を取り出す。使用人は食事の用意をしてくるといって部屋を出ていった。こうなるとわかっていたから鍛冶場を最後にしたのだろう。気の回る奴だ。
「おぉ!精錬済みの魔金と聖銀じゃないか!これ宝箱から手に入れたのか?」
「そうだぞ」
「最高だよあんた!よしっ!まずはその背負ってる大剣を、更にいい物に仕上げてやるから貸しな。直ぐ終わる」
「ん?あぁ、わかった」
大剣をヘストに渡す。ヘストが炉に火を点けると青い炎が燃え上がった。驚くほど真っ青な炎の中に大剣、銀、魔鉄をまとめて入れて熱していく。すると、中にある鉱石は青くなっていった。中々に不思議な光景だ。
そして青くなったそれらを取り出してからはあっという間だった。大剣、銀、魔鉄が瞬く間に混ざりあっていき、気が付けば大剣が出来上がっていた。刀身の色はくすんだ青。それ以外には特に変わったところはないのに、何故か心惹かれる不思議な魅力がその剣にはあった。
「良い感じだな。振ってみてくれ」
「あぁ」
大剣を渡されて試しに素振りする。完璧だ。持ち手も、長さも、重さも何もかもが俺のための剣という感じ。
「魔力の通りはどうだ?
「ん……、最高だな。国宝級と言われても文句は言えないな」
言われた通り魔力を通してみると、かなり通りがよかった。何の抵抗もないというべきか。あの一瞬でここまでフィットする剣を作れるのか。流石Sランク鍛冶師。
「ハッハッハ、それはあんたが上を知らないからだ。その程度はまだ序の口よ。今からアンタ専用の最高の剣を作るから、楽しみにしておきな」
「へぇ、そりゃ楽しみだ」
ヘストは本格的に鍛冶の姿勢に入ったので、俺は使用人に一言告げて仲間を迎えに廃坑ダンジョンに向かった。
「おいおい、どうなってんだこりゃぁ」
ダンジョンについて目に映ったのは、ダンジョン前にある廃村で暴れてる巨大なサイクロプス。更にダンジョンからまだ魔物が溢れてきている。今は数多くの冒険者が徒党を組んで対抗しているが、どこまで耐えれるかは時間の問題かもしれない。
「おっ、ソフィアか!お前の仲間が!!」
「落ち着け、何があったんだクラトス」
状況確認のために、廃村の手前に設置されていた防衛拠点に降りると、この一週間で仲良くなったクラトスに話かけられた。見る限り満身創痍といった感じだ。そうとうヤバそうだ。
話を聞くと、ダンジョンの廃坑を全てクリアした直後、大きな揺れが発生し、魔物が大量に押し寄せてきたという。幸いにもCランク以上の高い冒険者が多数いたため、大きな被害が出る前にほとんどの冒険者が撤退できたという。ただし、その中にシイラ、グレース、ハンスがおらず、ダンジョン内でやられたのではとのこと。通話魔石に話かけても反応がない。
「事情はわかった。教えてくれてありがとう。行ってくる」
「行ってくるって、おまっ、おいソフィア!まだ説明は終わってないぞ!」
クラトスの静止を無視して俺はダンジョンに向かう。
「戦場流大剣術『
——ピュンッ!
突然発生した一閃の光。それはソフィアから直線状に伸び、その射線上にいた魔物たちはものの見事に一刀両断となった。それは廃村で大暴れしていたサイクロプスも同じ。周囲で戦っていた冒険者たちは何が起こったのかわからず唖然としたが、魔物はそれでも止まらないため、直ぐに気を取り直して戦いに集中した。
「ハハハハ!こんな楽しいことを俺抜きで始めるんじゃねぇよ!」
そしてソフィアと言えば、完全に戦闘モードに入っていた。満面の笑みを浮かべながら、ダンジョンの中へと姿を消していった。
「ハ、ハハッ、俺、この戦い終わったら冒険者引退しよう。そして彼女と結婚しするんだ、ハハハ」
不幸にもその姿を見ていた何人かの冒険者が自信を無くし、この戦いが無事終わったら引退することを決意した。その中にはAランク冒険者のクラトスも含まれており、後に引退を伝えられたギルドマスターは頭を抱えることとなる。
———あとがき——————
クラトスくん、ドンマイ。
ソフィアちゃん、本音と建前が逆になっとる。さすがに、もう少し取り繕ったほうがいいと思う。
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