No.2-16:決着

「こっから全開でいくからよぉ。簡単に死んでくれるなよ?」


「ははっ、望むとこrぐぅっ!!」


 その直後、いつの間にか後ろにいたジークソフィアから攻撃をくらう。ジークソフィアとの距離は20mほど離れており、常に視界に入れていたはずだった。気を抜いたわけでもない。にも拘わらず後ろを取られたことに驚いたが、すぐさま気を取り直して反撃する。


「かぁっ!」


 グレースは咄嗟に後ろにいるジークソフィア目掛けて数多の氷の刃を放つ。


「遅い遅い!」


 しかしその抵抗も虚しく、難なく後ろを取られて再びの斬撃を喰らう。


「くぅっ!」


「ハハハ!!まだまだこれからだろう!?」



 この戦いを観ている観客たちは、先ほどまでとは明らかに違うソフィアの姿に恐怖した。


「おいおい、再生者ってあんな強いのか?グレースに勝ちそうだぞ」


「知らねぇよ。とにかくあいつが化け物ってことは間違いねぇだろ。こんな離れてるのにとてつもねぇ殺気を感じる。震えが止まんねぇよ」


「ははっ……ばっ化け物……」


「お、おいあんた。大丈夫か?……ちっ、失神してやがる。おいお前ら!気失ってる奴いたら後ろまで運んでやれ!気の弱い奴は離れとけ!怪我するぞ!」


 戦いの圧は観客にまで影響を及ぼした。経験の浅い冒険者や一般人は気を失い、ベテランでも鳥肌が立ち、身体が震えるほどの恐怖。それは住人NPCもプレイヤーも同様であった。ただ一つ幸いだったのは、プレイヤーの多くはゲームモードであったため、システムによる補正により鳥肌が立つ程度の恐怖に収まっていたことだろう。それでも恐ろしいことに変わりはないのだが。



「ハハハハ!どうしたどうしたぁ??そんなものかぁ?」


 グレースは完全に後手に回っており、攻撃を受けるので精いっぱいの状態で苦しそうであった。しかしその苦しそうな状況の割に、グレースからはどこか恍惚とした雰囲気が漂っていた。


(これがかつて国士無双と呼ばれた男!んー、最高!なんて心地よい殺気!これをこんな間近で体験できるなんて!!私は運がいい!!転生して頑張って良かった!!)

 

「くぅっ!」


——ドオオン!


 憧れの戦士との戦いを愉しんでいたグレースではあったが、ジーク《ソフィア》の激しい攻撃を受けきることができず、ついに攻撃がクリーンヒットし壁に叩きつけられた。


「おお、今ので死んでないのか。やるじゃねぇか」


「はぁ、はぁ。これで終わっては、余りにも呆気なかろう」


「それもそうだ。だがその傷で何が出来るんだ?」


 先ほどの攻撃により、グレースは右肩から反対の脇下まで深い切り傷を負っていた。傷口を凍らせてはいるもののダメージは深刻で息も絶え絶えであった。


「はぁ、なに、まだ儂には魔法があるぞ。これが今の儂にできる全身全霊の魔法じゃ!受けてみよ!『氷龍ノ咆哮アイスドラゴンブレス!』」


 グレースが放った全身全霊の魔法。それは文字通りドラゴンの咆哮のようであり、多量の氷で出来た津波がジーク《ソフィア》に襲いかかる。


「ほう、なら俺もそれ相応の技で返礼しないとな。戦場流大剣術『破槌はつい』」

 

——バリンッ!


 対するジークソフィアは襲い来る氷の津波に合わせてただ思いっきり剣を振り下ろした。それだけにも関わらず、グレースが放った氷の津波はただの一撃で粉々になった。


「なっ!」


「楽しい勝負だったぜ。戦場流大剣術『首落とし』」


——スパンッ


 最後はグレースの首が斬り落とされ戦いは終了した。それと共にソフィアから放たれていた荒々しい殺気も収まり、いつもの状態に戻った。


「「「「お……おおおおおお!!!」」」」


 少しして、状況を理解した観客たちは歓声を上げた。滅多に見れないレベルの戦いを運よく見れたことを彼らは喜び興奮していた。



「あ”あ”~、気持ちい~~」

 

 戦いが終わった後、ギルドマスターから『うち温泉あるから入ってけ』と勧められたので温泉に入った。温泉があるギルドって何だよ。最高か。


——ガラララ


「全く容赦のない奴じゃな。まさか本当に殺されるとは思わなかった」


 そうしてゆっくりしてるとグレースが入ってきた。


「殺しても大丈夫っていったのお前だろう?」


「そうじゃが、復活しないとは思わなかったのかの?」


「そん時はシイラに頼んで蘇生薬でも作ってもらうさ。作れるか知らんけど」


「お主という奴は相変わらず雑じゃのぉ。(ふおおお!!ソフィアの裸!ジークのような分厚い筋肉ではないけど、細く引き締まったいい身体!そして顔!可愛い!!最高!!男に産まれて良かったー!)」


「どうした?顔赤いぞ?」


「あぁ、いや、何でもない。気にするな」


 ???よくわからないけど、本人が言うなら気にしないでおこう。


 そしてある程度ゆっくりしたのち、風呂から出て着替える。脱衣所から出るとギルドマスターに「ちょっと良いか」と言われたのでマスターと共に応接室に入る。



「で、話ってなんだ?」


「さっきの戦いを偶然観てたお偉いさんから冒険者パーティCrossに指名依頼が入った。内容は闘技祭までの期間、息子を預けるので鍛えて欲しいっていう依頼だ」


「シンプルに強くしてほしいっていう意味でいいんだよな?ちなみに誰からの依頼だ?」


「あぁ、その認識であってる。悪いが依頼主の名前は言えない」


「言えないなんてあるのか?」


「お忍びで来てる貴族なんかじゃとあるぞ。昔も良くあったろう」


「あぁ~確かに」


 貴族って面倒だよなぁ。正式な手続きを踏まずに来たらそれだけで問題になるし。・・・よく考えたら今も一緒か。パスポート無しで入国するようなものだもんな。面倒なことに変わりはなさそうだけど。


「グレースはどう思う?受けていいと思うか?」

 

「報酬は何じゃ?」


300万ゴル。追加報酬については要相談だ」


 おお、めっちゃいい報酬じゃないか。


「うーん……。安いのぉ」


「えっ、安いのか?」


「そりゃそうじゃろう。お偉いさんからの依頼で依頼主の名を伏せるということは、訳アリ貴族の可能性が高い。そして闘技祭は3ヵ月後。その期間中のも兼ねてると考えると安すぎる。その内容なら最低一千万ゴルは欲しいところじゃ」


「なるほどなぁ。まぁ受けていいんじゃねぇの?報酬が大したことなくても、成功させればこの先大きな依頼に繋がるかもしれないだろう?それに俺とシイラは活動始めたばかりでランクも低いしな」


「む、それもそうじゃな。なら受けていいだろう」


「ということだ。その依頼、受けよう」


「ふぅ、ありがてぇ。じゃぁこれ依頼票だ。依頼主の息子は明日の朝7時に冒険者ギルドに来るから、お前らも遅れずに来てくれよ」


「わかった」「了解じゃ」


 そして依頼を受け終わった俺らは冒険者ギルドを出た。



———あとがき——————

 ちなみにギルマスが何で温泉に入るよう勧めたかというと、ご機嫌取りのためです。指名依頼の内容がソフィアちゃんにとっての地雷で、機嫌悪くされでもしたら最悪ですからね。あとは変な野次馬がソフィアちゃんの機嫌を損ねないようにするとかそういう意味合いもあったりなかったり。

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