No.2-15:模擬戦

「報告ありがとうございます。こちらが報酬になります。」


 シイラを担いでダンジョンから街に戻り、そのままの足でギルドに報告をした。無事に報酬を受け取り、ついでにランクもF→Dに上がった。グレースから俺ら二人のランクを上げるよう推薦があったようで、今回の依頼はその試験も兼ねてのことだったとか。Cに上がるには実績を積み重ねる必要があるとのことなので、ランクが上がるのはしばらく先になりそうだ。ちなみに報酬は30万ゴルだった。




「ぬ、帰ったか」


「おう、帰ったにゃ」


「???」


「罰ゲームで3日間語尾ににゃん付けろっていう奴にゃ。特に気にするにゃ」


「???そ、そうか。わかった。猫耳と尻尾とても似合っているぞ」


 グレースが頭に宇宙猫を浮かべている。知り合いが突然猫耳と尻尾を付けて語尾にゃんで話してたらそりゃそうなるよな。でも罰ゲームだし仕方ない。


「ところで今は暇かの?」


「みゃ、暇だにゃ。シイラも今はぐったりしてるからにゃ」


「なら儂と手合わせしてくれんか?この辺の魔物は弱くてつまらなかろう?腕も鈍ってるんのではないか?」


「おっ、いいにゃそれ。ダンジョンでそこそこ強い奴とやりあったけど戦いの感覚を忘れてて結構無理したからにゃ。ついでにグレースがどれくらいやるのかも知りたいにゃ」


「ほう、お主がそこそこ強いという腕の持ち主か。気にはなるのぉ」


「移動中に話すにゃ。どこでやるのにゃ?」


「ギルドに訓練場があるからそこでやろう。古代遺物アーティファクト付きだから全力で戦っても大丈夫じゃ」

 

 アーティファクト??何じゃそりゃ。


「む、古代遺物アーティファクトを知らんか。端的に言えば人魔大戦以前に作られた神器じゃよ。ギルド訓練場にあるのは指定した範囲内を特殊な空間にする機能があっての。その範囲内ではどれだけ暴れても外部には影響が出ず、更にダンジョン内で死んでも復活出来るという機能付きじゃ。闘技祭でも同じものが使われる。機能は闘技祭会場の方が色々あるがの」


「全力で殺し合いが出来るっていうわけだにゃ」


「うむ、儂もお主を全力で殺しにいくのでな。あまり怠けてるようでは直ぐに終わってしまうかもしれんぞ?」


「面白いことをいうにゃぁ。本気で俺に勝てると思うのかにゃ??」


「戦えばわかることじゃ。ほれ、さっさと行くぞ。ついでにダンジョンの話を聞かせてくれるかの?」


 ということで俺らは冒険者ギルドに向かった。道中、ダンジョンで会ったことを話した。研究者風の男と、途中で割り込んできた男について話すと、『まだ他にもいたのか』と頭を抱えていたが何だろう?ヘストの件と繋がるんだろうか?まぁ、自分一人でやると大見え切ってたから気にしなくていいか。



「おっ、面白そうなことやるじゃねぇか。再生者の実力を見れるとは楽しみだな」


「なんじゃハゲ、仕事はいいのか?」


「うるせぇ、ザッチだって言ってるだろ!名前で呼べ!将来有望な冒険者の実力を把握するのも俺の仕事だよ」


 冒険者ギルドに着き訓練場の使用を申請してるとギルドマスターが奥から出て来た。この二人は軽口を言い合えるくらいには仲がいいようだ。


「えっと、今は空いてるので大丈夫ですよ。今から使いますか?」


「あぁ、よろしく頼むにゃ」


「???」

 

「気にするにゃ。罰ゲームだにゃ」


「は……はい。」


 受付嬢にも同じように不思議に思われた。罰ゲームが思った以上に重たい。3日過ぎた後も色々言われそうこれ。ま、まぁ、いいや。気にしないでおこう。




「さて、じゃぁやるにゃ」


「うむ、早速始めるとしよう」


 グレースは双剣を構え、対するソフィアも大剣を構える。Aランク冒険者のグレース、配信者として人気が出て来たソフィア。この二人が戦うということもあり、現地人NPC、プレイヤー問わず多くの人が観戦しに来ていた。


「ハアア!!」


「オリャァ!!」


——ガキンッ!


 二人はほぼ同時に動き出し訓練場の中心でぶつかり合う。そして激しい応酬が始まった。グレースは素早い動きと圧倒的な手数で攻撃し、対するソフィアも尋常じゃない反応速度でさばいていく。一般人からすれば何をしているのかわからないほど速い打ち合いだ。しかし見る者が見ればそのすごさもわかるというもの。


「なぁ、あのグレースと戦ってるのは誰だ?」


「再生者らしいぞ」


「まじかよすげぇな。あいつもAランク相当あるのか?」


「さぁな。Aランクの全力なんざ見る機会自体ないからなぁ。まぁ、Bランクはあるとみていいだろ」


 観客のNPCには冒険者が多く、彼らは常日頃から魔物と戦っているため目で追うことは出来ていた。そのため二人の戦いがどれほどの凄いことなのか、ある程度把握できていた。


「ちょっと配信付けるか」


「録画しようぜ録画」


「ひえぇ、配信を見たことはあったけど生で見るとより化け物だぁ」

 

「速すぎて視えねぇ……」


 対して観客のプレイヤーたちはそのほとんどを目で追えておらず、何か凄く速く動いてるくらいにしかわからなかった。まるでアニメの如く動く二人を見た彼らは戦いに魅了され、ある人はじっと眺め、ある人は、配信や録画をしはじめた。



——キンッ!


 十数秒の打ち合いののち、二人は互いに距離を取った。互いに傷はないものの、武器の差が出ており、ソフィアの剣は今にも折れそうなほどボロボロであった。


「獲物に差があるようじゃが大丈夫かの?」


「はっ、むしろこっからだろうが!」


「むっ!?」


 ソフィアは先ほどよりも更に速い動きでグレースに攻撃を仕掛ける。グレースもそれに対応しようとギアを上げるが、どんどん速くなっていくソフィアの動きについていけず、受けるので精いっぱいになっていた。


「おいおい。あいつやべぇな」


「あぁ、過剰魔力オーバードーズ状態での身体強化。更に武具強化エンチャントも併用か。しかもちゃんと制御してやがる。えげつないな」


 今のソフィアの身体からは陽炎が発生しており、これのせいでソフィアの動きを外から正確に把握するのは難しい状態となった。


「くぅっ!」


「オラオラオラァ!!」


 それは相対するグレースも同様であり、陽炎によりソフィアが歪んで見えるため攻撃を正確に把握できず、徐々に身体に傷が増えていった。


「くっ!」


「ハハハハッ!オラァ!」


 攻撃を受けきれず、グレースが態勢を崩した。誰もがこれで決まったと思ったその瞬間、グレースが消え、代わりに人のサイズ程のある氷塊がその場に現れた。


——バリン!


「んぁ?」


 突然目の前に現れた氷。ソフィアに一瞬のスキが出来た。


「こっちじゃ!」


「はっ!」


——ザクッ!


 その隙を縫ってグレースがソフィアの背後から双剣で攻撃。グレースは直ぐに振り向いて双剣の攻撃を弾く。だがその直後、ソフィアの背中に氷の刃が刺さった。


「グゥッ!?」


「アハハハハ!ほれほれほれ!どんどん行くぞ!『氷旋風ひょうせんぷう』!」


 そしてソフィア目掛けて次々と氷の刃が降り注ぐ。その中をグレース自身も尽き進み、更なる攻撃を仕掛けていく。四方八方から来る氷の刃と、正面から攻撃してくるグレース。流石のソフィアでもそのすべてを受けきることはできず、ソフィアの身体には傷が増えていった。


「固有魔法をあそこまで使いこなすか。流石Aランク冒険者だな。それを受け流すソフィアも凄いがこのままじゃジリ貧だな。どうする?」


 その戦いを観ていたギルドマスターのザッチはそう呟いた。彼もまたこの戦いに魅了された一人であり、仕事のことは既に頭から抜けていた。


「アハハハハ!ほれほれほれ!先ほどまでの勢いはどうしたんじゃ?その程度かっ!」


 口ではそういいつつも、かつて『国士無双』とまで呼ばれたソフィアジークがこの程度で終わる訳がないとグレースは確信していた。


戦場流大剣術いくさばりゅうたいけんじゅつ『爆裂・斬円ざんえん』」


 グレースのその期待に応えるかのように、ソフィアはを繰り出す。それは使用者を中心として円状に斬撃を飛ばし、飛ばした斬撃を途中で爆発させるという技。爆発によりソフィアに向けて飛んでくる全ての氷刃は弾かれる。さらに爆発した斬撃の破片が周囲一帯に飛び散るためグレース本人も近づくことが出来なかった。


「はっ、やるじゃねぇか。楽しくなってきたなぁ。お前もそう思うだろ???」


「っっ!!」


 爆発の中心から出て来たソフィア。その雰囲気は先ほどまでと明らかに違っていた。それはかつて『国士無双』の二つ名で呼ばれていた頃の、まるでドラゴンのような恐ろしい空気を発していた頃と同じ雰囲気であった。そしてその姿はグレースが密かに憧れ、片思いしていた時のジークソフィアそのものであった。



———あとがき————————

 これってBLになるんだろうか・・・?

 前世は男×女、外見は女×男、肉体は男×男。んー、ややこしい!


PS. 語尾にゃんを忘れたソフィアちゃんには追加の罰ゲームが課せられることでしょう。(無慈悲)

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