No.2-4:情報収集(グレース視点)

「では行ってくる。お主らは好きにしててよいぞ」


「おう、任せた」


「はーい。気を付けてくださいねー」


 さて、まずは冒険者ギルドのハゲに会いにいくとしよう。




「失礼、ハゲはいるかの?」


「あっ、グレースさん。先ほどぶりです。マスターに用事ですか?」

 

「おいガキ!!どけっ!」


「おっと」


 何じゃぁこいつ?割り込みしおって。変な奴じゃのぉ。ん?この恰好もしかして来訪者かの。気分悪いのぉ。


「お主、来訪者かの?」


「あ”あ”!?だから何だよ?NPCは黙ってプレイヤー様に従えや!!」


「ほう?ほうほうほう??面白いことをいうんじゃな。この世界において赤子同然のお主がよりにもよって儂にそういうことを言うとは」


 周りのあきれた者を見る視線にも気づかぬとは飛んだ間抜けじゃ。赤子の方がまだ賢いかもしれんの。


「あ”あ”!?何バカなこといってんだてめぇ。大体誰だてめぇ!」


 しかし随分とうるさいのぉ。一旦両足両腕を切り落としておこう。


——ザンッ!


「いっ・・・!?!?!?だあ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」


「頭が高いぞ小童。赤子なら赤子らしく地に這いつくばるところから始めるんじゃな。そして儂が誰かじゃったか。儂にも色々と立場はあるのじゃが、強いて言うならぁ・・・そうじゃのぉ。『エイダ神聖騎士団 第十天使部隊 隊長、グレース・アンジェリック』。とでも名乗っておこうかの。お主のようなアホな来訪者・再生者を取り締まるのが仕事じゃ。しばしの間に送る故、そこで頭を冷やしてくるがよい」


 そしてお仕置き部屋という名の拷問部屋に繋がるを使うと、彼奴の下に異空間に繋がる穴が開き吸い込まれていく。あの先は神々の領域らしいからどうなってるかは知らんがの。


 ちょいと不愉快ではあったが、来訪者諸君に対するいいデモンストレーションにもなったじゃろう。行き過ぎた行為はこうなるんと見せつける丁度いい機会じゃったな。第十天使部隊の立場を最初に使うのが儂じゃとは思わんかったがの。


「失礼、少々うるさくしてしまったようじゃ。馬鹿者は始末した故、安心するがよい」


 と、いったものの流石に動揺は大きいようじゃな。この場にいた来訪者諸君は特に驚いているようで、冒険者ギルドとは思えぬほど随分と静かになってしまったの。


「アレがいわゆる神界の門ってやつか?恐ろしいな」


 そんな静かな空間の中、ひと際目立つ大きな声を発した奴がいたのでそちらをみればギルドマスターがおった。相変わらず綺麗なハゲ頭じゃの。


「おぉ、クソハゲ。久しぶりじゃな。お主も行ってみるか?」


「ハゲじゃなくてザッチだ。いい加減に名前覚えてくれ。俺に話があるんだろう?奥で話そう」


「そうしようかの。ここで話すようなことではないしの」




「はぁ、早速問題が起こったか。お前も煽ることせずにパッと終わらせてくれれば良かっただろう?相変わらずガキだな」


「はて?借金を建て替えたのは誰じゃったかの?強権を発動してもいいんじゃが……。妻と子がいるというのに返せというのは少し心苦しいのぉ。じゃが返す気がないのなら仕方ないのかもしれんの」


「待て待て待て、それは本当に悪かった。まじで感謝してる。頼むから辞めてくれ。いろいろ融通してやるからよ。とにかく話があるんだろう?座ってくれ。茶を入れるから」


「うむ、茶はヤマト神国の玉露で頼むぞ。」


「この我儘ジジイめ(ボソッ)」


「なんか言ったかの?」

 

「いいや、何もいってねぇよ」


 全く、生意気なハゲじゃのぉ。


 

「で、話って?ダンジョンの話なら既に聞いたが?」


「憲兵がこの街に来たというのは知っとるか?」


「来てたのか?」


「つい先ほどな。人づてに聞いた話じゃが、鍛冶屋ヘストの店主が街の副代官を殺した容疑で連行されたらしい。その様子だとギルマスの耳にも入っとらんか」


「あぁ、すまんな。しかしその事件は領主の身内による犯行ってことで、処分は下したが公にはしないことになっただろう。何で噂とはいえその話が上がるんだ?うちも情報管理はちゃんとしてたはずなんだがな」


「まさにそれじゃ。憲兵が何の連絡もなく突然街に現れるというのは稀にあるが、この噂は許容できん。どこかに内通者がおるとみていいじゃろうな。幸い領主の信用を落とすのが目的ではなさそうなのはラッキーという他ないが」


「だがその相手が最悪だろう。元Sランク鍛冶師だろう?どこのバカがそんなことやんだよ」


「一番ありえそうなのは西のヒューマ帝国じゃが、今の時期は大陸中から人が集まるからのぉ。来訪者、再生者の件もある。そっちの可能性だってなくはないじゃろう」


「もし来訪者・再生者なら面倒だな。お前みたいに権限を持つ奴がいるといっても結局奴らは死なないからなぁ。追放しても数日で戻ってくるらしいし」


「じゃの。まぁとにかくそういうことでな。儂は代官に今の話が本当かどうか確認しにいく。紹介状を頼む」


「紹介状とか必要か?この国の名誉男爵の立場もあっただろお前」

 

「一応あった方が良いじゃろう。冒険者ギルドも関わってるという証拠になるからの」

 

「そうか」


 この国から名誉男爵の地位を貰ってはいるが、あまり貴族としての立場は使いたくないというのもあるしの。今だからこそわかるが、あのかたっ苦しい恰好をするのは嫌じゃな。冒険者や傭兵が正装を嫌う理由がよくわかる。



「ほれ。紹介状だ。うちの冒険者は必要か?」

 

「いてもいなくても変わらんがの。とりあえず動いたという実績だけ残しておけばいいんではないか?」


 実際儂一人でもなんとでもなるじゃろうしな。


「それならうちに来る必要なんてないだろう」


「筋を通すのは大事じゃろう。儂も冒険者ギルドの一員じゃし」


「はぁ、まぁそういうことにしておこう」


 


 さて、商会ギルドの方にも一応話しておくかの。商会ギルドは・・・あっちじゃったか。武器を新調する際に世話になって以来じゃな。久しぶりすぎて場所を忘れてたの。


「失礼、ギルド長はおるかの」


「お久しぶりですグレースさん。えぇ、いま呼んできますね」

 

「うむ、頼む」


 

 ではその辺の席で少し待つとしようかの。どうせ10分くらい待たされるじゃろうしな。


「やぁグレース。久しぶりだね。何の用だい?」


「久しぶりじゃなジェイムズ。今日は来るのが早いのぉ」


 ロン毛男にしては珍しい。いつも10分くらい待たされるんじゃがな。


「そりゃAランク冒険者様を待たせるわけにはいかないでしょう。それにに入れられる被害者が増えても可哀想じゃない?それで、憲兵の件かい?」


「さすが商会ギルドの長じゃな。相変わらず耳が早い。憲兵の話はあのハゲの耳には入ってなかったぞ」


「ははは、商人にとって情報は一番重要だからね。脳筋と比べないで」


「そりゃすまん。本題に戻るが憲兵の件でな。憲兵が街に入ったという情報はあったのか?」


「ここ1ヵ月遡ったけどなかったわ。街中に突然現れたみたいね。十中八九なりすましよ。誰が何の目的なのかは今調べてるところね」


「そうか。あとは裏ルートからというのは『ないわよ』そ、そうか」


 いつも思うが、情報を集めて行動するまでが本当に早いのぉ。もう情報屋を名乗ればいいのにと思うぞ。


「調査が終わったらあなたに連絡すればいいかしら?」


「別になくても困らんがの」


「そう?まぁ調査が終わったら連絡するわ。それにしてもあなたの人脈っておかしいわよね。ギルドマスター二人を顎で使い、街の代官様にも意見できる。噂じゃ領主とも仲がいいとか、実は聖王陛下の血縁だとか。あぁ、神様から直接に指名されたという噂もあったわね?一体どこまで本当なのかしら?」


「そうか?別に顎で使ってるつもりはないがの。儂からしたらお主の持つ情報量の方がおかしいと思うがの。それに人脈という点でもお主の方が広かろう」


「でもその中で権力ある人は少ないし、ましてやお貴族様と自分の都合で面会するとかできないわよ」

  

「そうかの?大抵の貴族なんぞ簡単に手玉に取れるがの。教えてやろうか?」


「別にいいわ。私には私のやり方があるもの。それにあなたのやり方はあなたしか使えなさそうだし」


 別に大したことはしてないんじゃがの。単に相手を褒めたり脅したりして貸しを作ってるだけなんじゃが。


「ま、とにかくそういうことじゃ」


「わかったわ。ヘストが助かったら私から武器作成依頼ださせてもらうわね?はい紹介状ね。ちゃんと見せてね」


「うむ、ヘスト当人が受けるかどうかは知らんがの」


 最後の最後に商人らしいとこ出してきおったの。Sランク鍛冶師の技術で作られる物の価値は高いからのぉ。それが手に入るかもしれないチャンスを見逃さないのは流石の商会ギルドの長といったところじゃな。何も言わずに紹介状持たせるのもしっかりしとる。ギルドやるなら貴族との関りは大事じゃからな。


 さて、最後は代官のデビデの所に話を通しにいくとしよう。




———あとがき————————

 情報収集は大事。特に今回の場合まかり間違って本物だった場合とても厄介なことになりますからね。あとNPC側にもプレイヤーを処罰する権限はあるんだよということで、少し挟ませてもらいました。お仕置き部屋の彼が今後登場することはないでしょう。





 運営『毎回毎回プレイヤーが通報して、その後に対応では運営も面倒だしテンポも悪いですからね。各NPCにある程度の権限を持たせて対処させたら楽じゃねってことでこうなりました。決して面倒だったというわけではないですよ。』


 そういった彼の眼には深い隈が入っていたという。何とも恐ろしい話である。


 

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