No.2-5:一旦の解決(グレース視点)

「久しいのデビデ。少し太ったのではないか?運動したほうがよいぞ」

 

 こやつも若い頃は腕っぷしでぶいぶい言わせてた口なんじゃがな。久しく見ない間に随分と太りおったな。


「お久しぶりですグレースさん。最近は忙しくて運動する暇もなくてですね……。ところで今日は何の用でしょうか?わざわざ冒険者ギルドと商会ギルドから紹介状まで貰って来たってことは、緊急の用事なんですよね?」


「うむ。憲兵がこの街に来てたのじゃが、それについて何か情報は入ってるか?」


「憲兵がですが?今週頃から1ヵ月この街に滞在するってのは聞いてますよ?闘技祭開催に当たり治安維持に懸念があるため憲兵もその活動を支援するという話でしたね。いつものことなので気にするようなことではないと思うんですが、その憲兵が何かしたんですか?」


「ヘストを捕まえたそうじゃぞ。副代官を殺したという罪でな」


「えぇっ!?そんな話は聞いてないですよ。」


「やはりそうか。国内で誰か怪しい動きをしてたとか言う話はどうじゃ?」


「うーん、少なくとも私の耳には入ってないですね。領主様に上申しないとですね」


「それはお主の仕事じゃな。儂に逮捕権を渡してくれれば直ぐに動くことはできるぞ」


「出来ればそれは私たちでケリ付けたいんですけどねぇ」


「じゃが今は闘技祭の関係で余力がないじゃろう?」


「そうなんですよねぇ。というかグレースさんの権限のなら好きにできるのはないですか?」

 

「流石にそんな権限は儂にはないぞ。」


「出来そうなものですけどねぇ。はぁ、わかりました。少し待っててください。用意してきますので」


 

 名誉男爵、親衛隊相談役、エイダ神教名誉聖騎士・・・etc。色々な称号を貰ってはいるが、別に儂自身にそんな権限がある訳ではないんじゃがなぁ。まぁ、逮捕権を渡すということは儂がやらかせばその責任が代官に、果ては領主にまで及ぶからの。渡さずに済むならそうしたいんじゃろうな。


 

「はい、こちら特別逮捕権です。なりすましと思わしき相手ならグレースさんの独断で逮捕して構わないことを示すものです。間違っても悪用しないでくださいね。私だけじゃなくて領主の首も飛ぶことになるので」


「わかっとるわ。そのようなことはせん」


 さて、準備するべきことは終わったからいよいよに動くとしよう。まずは鍛冶屋ヘストの店に向かうとするかの。


 

「どうじゃシュロウ。ヘストを追えそうかの?」


 店についた儂はシュロウにヘストの魔力を調べさせてる。どういう理屈かは知らぬが、こやつは追いたい相手の人物像さえ教えれば、数ある魔力からどれがそれに該当するのかを判断して追うことが出来る。元となる魔力があってそれを追うという形はよく見るがそうじゃないからの。半霊半魔じゃから出来るんじゃろうな。


「グルゥ」


 儂が聞いて少ししたのち、シュロウは問題ないというように頷く。・・・いつも思うがこやつ本当に賢いよのぉ。


「では、ヘスト救出と行くとしよう」


 

 そしてシュロウに先導させて街の中を進む。着いた先は南西エリアの旧貴族街にある一つの屋敷。確か今は誰のものでもなかったはずじゃがの。


「シュロウ、先にヘストを連れ出してきてくれんかの?儂は正面から潰してくるのでな」


「グルゥ」

 

 シュロウは完全に透明な姿となり建物内に入っていった。あの状態になると従魔契約をしている儂意外には一切感知できなくなる。本当にズルいと思うぞ。


「さて、では行くとしようかの」


——キンッ!


 双剣で門の鍵を壊して開ける。直後、『ドドドド』という音と共に数多の魔法が飛んで来た。


「全く、街中に仕掛けるのは物騒が過ぎるというものじゃ、なっ!」


 それに対し、転生により得た固有魔法『氷魔ひょうま』を発動させ、飛んできた魔法の全てを凍らせる。形はそのままで、しかし完全に凍り勢いを失ったそれらは地面に落下していき砕け散っていった。


「相変わらずこの力はえげつないのぉ。転生特典というやつじゃったか。この力が千年前にあれば国は残ってたか・・・。いや、少し国の寿命が延びるだけで対して変わらぬか」



 過ぎたことをグチグチいってもしょうがないかの。敵も来たことだし切り替えるとしよう。


「おいおいおい!ガキがこんなところに何のようだぁ!?ここは憲兵様の拠点だぜぇ!?」


「……ププッ……プッ!!!アッハッハ!!!」


 これまた随分とおかしな奴が出て来たのぉ。面白すぎるわい。アハハハ!!


「な、なにがおかしい!!!」


「いやなに、お主の用なバカで頭の悪い憲兵がどこにいるのかと思ってのぉ。もし本当にお主がどこぞの国の憲兵なら、その国は余程の人材不足なんじゃろうな!!アッハッハ!あぁ、そうじゃ。儂はお主らを逮捕する権利を持っとるから、大人しく従うとよい。」


 どうやら典型的な阿呆のようじゃな。一見この国の憲兵のように見えるが、ぶら下げている剣がヒューマ帝国で作られた剣じゃ。剣についてる装飾がヒューマ帝国の装飾じゃからの。更に着ている鎧も鉄で出来た奴を白で塗装しただけの安物。実物を見たことがある人間相手には直ぐにバレるような、あまりにも雑な変装。本当に阿呆なようじゃ。こんなに面白いことはない・・・ププッ。


「こっ、このっ!てめぇ!!好き放題言いやがって!!お前らぁ!帝国の名に懸けてこの不届きものをやっちまえ!」


 こいつ自ら帝国って名乗りおったわ。本当にバカじゃの。人の話も聞かぬバカか。帝国はこんなにバカだったかのう?


「オラァ!」


「ほれっ。遅い遅い。そんなんでは儂に傷一つ付けられぬぞ?」


「グハァッ!」


「ほれほれほれー。どうした?その程度かの?弱い。弱すぎるぞお主ら」


 次々と襲いかかってくる偽憲兵たち。儂を囲んで前後左右から袋叩きにしようとしているようじゃが、あくびが出るほどに動きが遅いのぉ。そんな腕を振り上げてよいのかの?脇ががら空きじゃぞ。ほれほれ、足元に気を付けい。下から剣が生えておるぞ。



 実際は偽憲兵が遅いのではなく、グレースが速すぎるだけなのだが、そんなことをつっこめる人間はこの場には一人としていなかった。グレースの素早い動きに誰一人としてついていくことができず、攻撃しようとするたびに何故か偽憲兵の側が切られて血しぶきが舞うという不思議な光景がその場に広がる。あまりの実力差に恐怖した何人かは逃げ出そうとしたが、それよりも早くグレースが切りつけてしまったため逃げることすら出来なかった。


——ザンッ!!


「ギャア”ア”ア”ア”ア”!!!」


「おっとすまん。少々浅かったようじゃ。たった今首を落としたので許してくれるかの?あぁ、聞こえとらぬか」


 さて、あと残ってるのは一切の指示もださずただ顔を真っ赤にしてプルプル震えるだけの無能な隊長のみじゃの。こんなトマトが隊長とは部下も大変じゃの。


「て、てめぇ。よくも俺の部下を!こうなったら俺がやってやる!部下の分まで戦ってやる!!帝国万歳!帝王陛下万歳!!!!」


 隊長と思しき人物は懐から注射器を取り出し自らに突き刺した。すると身体に緑色の血管が浮かびあがり、それが徐々に身体中を侵食していく。その侵食と同時に身体がモリモリと膨らんでいき、最後には4mくらいの巨人となっていた。


『フハハハハ!!!ドウダ!コレガ、テイコク、ノ、チカラ、ダアアアアア!!!』


——ドオオオオン!!!!

 

 巨人が儂に向けて拳を振り下ろしてきたので軽く避ける。その後も何度も攻撃してくるが、動きが遅く避けるのは簡単じゃ。代わりに周囲の物がドンドン破壊されているがな。


 幸いにもここの区画は再開発中の区画のため人命に影響はないし、壊れて問題になるような物もない。だからと言っていつまでも好き勝手暴れられても困るのじゃがな。もう少し様子見をしてどういう力なのか見定めたいところでもあるが、いつまでも暴れさせるわけにもいかぬか。さっさ終わらせるとしようかの。


『ハハハハハ!ドウダ!コムシメ!テモアシモデナイカ!!!』


 知能も下がっている・・・下がっているよな?元がバカすぎて下がってるかどうかすらもわからぬが・・・。わからぬものは仕方ないかの。これ以上被害が大きくなるまえに終わらせよう。


『フハハ・・・ハッ?ナン、ダ。コレ、ハ。ウ、ゴケナイ、ダト』


「ふむ、魔法は通常通り効くのじゃな」


『ナ・・ナニヲ・・・シタ』


「これから死ぬ輩に教える必要もないじゃろう。では、さらばじゃ」


 固有魔法”氷魔”で各関節を凍らせて動きを封じた後、双剣で首を飛ばし、脳と心臓を貫いた。何を使ったのかは知らぬが、流石にここまでやれば生き返ることはないじゃろう。ついでに死体は完全に凍結させておくとしよう。鮮度の良い死体は調査に必須じゃからの。


 ……しかし殺し過ぎたかのぉ?十人くらい残したつもりだったんじゃが、息のあるものが数人しかおらん。想像以上に弱かったようじゃ。儂もまだまだよの。


「グルゥ」


「おう、シュロウ。戻ったか。背中に乗せてるのがヘストじゃな?」


「グルゥ」


 儂の戦いが丁度終わったころにシュロウが戻ってきた。シュロウは身体を大きくさせ、ヘストを背中に乗せた状態じゃ。当のヘストは気を失っているようじゃが、命に別状はなさそうじゃの。


「さて、あとは報告を済ませて一旦終わりじゃな。戻るぞシュロウ」


「グルゥ」




———あとがき————————

 戦闘シーンもう少しかっこよく書きたかった。今回出した固有魔法については、どこかのタイミングで説明する回を設ける予定です。


 次回からソフィア視点に戻ります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る