No.1-3:装備を整える

「あー、直ぐ終わる質問ならいいぞ。それ以外なら悪いが後にしてくれ」


「さっきあなたが見せてたのはなんですか?ギルドの奥で何をしてたんですか?」


「前作のプレイヤーに配布された特典を受付に見せただけだ。別に何もしてねぇよ。詳しいことは運営に聞いてくれ。それじゃぁな」


「あっちょっ」


 面倒だったのでさっさと質問に答えて話を強制的に終わらせてその場から全力で立ち去る。遠くから俺を追ってくる声が聞こえるが、魔力強化を使っての全力疾走なので前作をやり込んだプレイヤーじゃないかぎりは追いつけないだろう。



「ふぅ、撒けたか。協力ありがとなおっちゃん」


「おう、いいってことよ。まぁ、お前の実力なら余計なお世話だったかもしれんがな」


 奴らから逃げている最中、俺の姿を見かけたミズチ道具屋の店主が中に匿ってくれた。おかげで楽に撒くことができた。でっぷりとお腹の出た気の良いおっちゃんで、店名のミズチは自分の名から取ってるんだとか。


「ところでここは服っておいてるのか?あとできれば革鎧もあれば買いたいんだが」


「両方置いてるが鎧はサイズがないな。鎧は腕のいい鍛冶師がやってる鍛冶屋ヘストってところがあるからそこにいくといい。鉄も革も両方扱ってて腕はいいからオススメだぜ。服はうちで買うのか?大したものは置いてないぞ?」


「ありがとう。とりあえず初期衣装を変えれれば何でもいい。来訪者も再生者も全員この恰好だからバレやすいだろう?」


「なるほど。それはそうだ。よし、服を取ってくるからちょっと待ってろ。丁度いいサイズの服がある」


 そういって店主は奥へ行き、ガサゴソと漁る音が聞こえたあと、服一式を持って戻ってきた。

 

「ほれ、これに着替えな。悪いがサイズはそれしかなくてな。着替えはそこでやってくれ」


「構わん。礼を言う」

 

 俺は渡された服に着替えた。膝まである茶色のレザーブーツに、柔らかい革のショートパンツ。上は薄黄色の襟付きシャツ。姿見で自分の姿を確認するが、どう見ても女性にしか見えない。よくこんなアバター作れたな流石AI。


「ありがとう。いくらだ?」


「おう、似合ってるぜ。どうせあまりもんだ。金は要らねぇよ。ついでにこれも持ってきな」


 店主が渡してきたのはシンプルな髪飾り。


「これは?」


「付けてる間、髪色が変わるだけの魔導具だ。色は水色にしかならんし、使用期間も3日間と短いが、ないよりはマシだろう」


「いいのか?金は?」


「素材さえ揃ってれば子供でも作れる単純な魔導具だからな。これもあまりもんだからな」


「そうか。ありがとう。それじゃ遠慮なく」


 髪飾りを付けると聞いた通りに髪色が水色になった。すごいな。


「次来るときは何かお土産持ってくるよ」


「おう、期待してるぜ。このまま武具屋に行くのか?」


「あぁ、防具は欲しいんでな」


「そうか。ならさっきもいったがヘストの所に行ってくるといい。ここから南に真っ直ぐ進めば看板が見えてくるからわかるはずだ」


「わかった。色々ありがとう。それじゃまた」


「おう、またな」


 お世話になったミズチ道具店から出て、店主から聞いた鍛冶屋に向かう。居住区だからか、外にプレイヤーらしき人は見受けられない。


 歩いているうちに鍛冶屋ヘストと書かれた看板を見つけた。外見はボロボロで、看板も錆びていてやっているようには見えない。


「ここ・・・だよな?とりあえず入るか」


 店内は思ったよりもしっかりしているが、オンボロという雰囲気がしっくりくる。ただ、置いてある商品はパッと見た感じしっかりしているようだ。隠れた名店という奴かもしれない。


「なんだ客か?うちにはもう大したものはないぞ?」


 少しすると、レジの奥から酒を片手持った赤髪の女性が出てきて、俺を追い返すような仕草をする。・・・名店ではなかったかもしれない。本当に大丈夫か?


「ミズチのおっさんに紹介されて来たんだが?」


「あのおっさんか。チッ、余計なお世話しやがって」


「あー……見てっていいか?」


「ボロしかないがそれでよけりゃぁな」


「構わないよ。見た感じ作りはしっかりしてるようだしな」


 店内に置いてあるのはシンプルな剣に鎧、弓などだが、よく見ると思った以上に作りがしっかりしていて初心者でも安心できる仕様になっている。あまり長くは使えないだろうが、最初に持つものとしては十分すぎる出来だ。店内が汚く陳列棚も罅が入ったりしてるせいで見た目以上にボロく見えてしまうのがもったいないくらいだ。


「はっ、命を預ける武具をテキトーに作るほど落ちぶれちゃいねぇよ。安心しな」


 随分自分が作った武具の評価が低いが何かあったのだろうか。俺の見る限り技術は相当なものだ。使ってる素材は良くないが、それでも使えるレベルにまで持っていってる。ちゃんとした素材を渡して作って貰えばいい武具を作ってくれそうというのが俺の印象だ。


 

 店内を見回して、革のグローブと鎧を手に取り店員に持ってく。


「この二つを頼む。あとインナーと戦闘用のブーツはあるか?」


「おう、あるぜ。サイズも調整してやるよ」


「頼んだ」


 

——十分後


「おしっ、どうだ。動きにくい部分はないか?」


 サイズの調整が一通り終わった鎧を着て動きを確認する。サイズはぴったしで動きやすい。突っかかるような感じもない。本当にいい腕してる。


「問題ない。いくらだ?」


「全部で1万ゴルでいいぞ」

 

「それは安すぎないか?3万って言われても文句ない出来だと思うが」


「いいんだよ。よそで捨てられた端材を使って無理やり作った奴だし、その端材の元も新人が使うような安物だからな。ある程度は持つだろうが、早めに金貯めて壊れる前に買い替えることをお勧めするぜ」


 端材から出来た奴なのかこれ。ただの安物素材から作った奴と思ってたが、それでこの出来か。ベテランがとまでは言わないが、腕のいい新人が作ったといっても納得できるレベルだぞ。


「わかった。じゃぁ1万ゴル渡すよ」


「おう、ありがとさん」


 最初に言われた通り1万ゴルを店主に渡す。


「ところでオーダーメイドは受け付けてるのか?」

 

「うちみたいなボロ屋じゃなくて、ちゃんとしたところで作って貰えばいいだろう。ここに並んでる商品は全部捨てられたゴミから作ってんだぜ?」


「そのゴミから市場に出せるレベルの物作ってるんだ。ちゃんとした素材渡して作ったら凄い物できるんじゃねぇかって期待するのは当然じゃないか?」


 俺がそういうと店主は驚いたように目をかっぴいた。


「ブッ……ハッハッハ!!!!面白いこという兄ちゃんだ!!なるほど確かにその通りかもな!アッハッハ!!!いいぜ、素材と金が溜まったら持ってきな。つぎはその背に背負ってる剣も含めて作ってやるよ!!」


「そうか。その時は頼んだ。それじゃ、また来る」


「おう!待ってるぜ!」


 そして俺は店を出た。




「はぁー、久しぶりに鍛冶でもするかぁー!!作るぜー!!」


 その日の夜、鍛冶屋ヘストから鉄を打つ音が街に響いた。近所の住民によれば実にだという。果たしてこれが街にどういう影響を与えるのか。今はまだ誰も知らない。


———あとがき—————————

 最近は筆が乗ってるので更新頻度高くなりそう。


 PS.デカい剣背負った男の娘が全力疾走する姿が好き(o´ρ`o)



2023/03/31 転生者→再生者に変更しました。

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