No.0-2:決着

「来たな人間ども。お前ら!身の程をわきまえぬ愚か者に力の差を教えてやれ!」


 城門から出てきた兵を確認した魔族の隊長たちが号令をだす。その号令と共に、大勢の魔族が人間に向かって襲い掛かる。


「フハハハハ!!来た来た来た!!私が来た!!この程度で足りると思うな魔族どもめ!!」


 一番槍を任されたジューダスは一番最初に魔族と接敵。首を切り落とし、心臓を突き刺し、次々と魔族を殺していく。


「おらおらおらぁ!!そんなもんか!?魔族ってーのはその程度かよ!!」


 また別の場所では、身の丈ほどの大きな大剣を持った傭兵が、一振りするたびに魔族を切り裂いていく。


「隊列を乱すな!決して後ろには通すな!!」


「味方に当てるでないぞ!大規模魔法は奥に、対人魔法は味方から少し離れた位置に充てるのじゃ」


 騎士団も魔法師団も続いて魔族との戦闘に入った。そして戦場は泥沼と化していった。



——side.グレース


「始まったようだな」


「えぇ、そのようで」


 一方、王城内にある王の間にてグレースとクライスは最後の儀式を始めており、王の間中央にある魔法陣にグレースとクライスの魔力がどんどん吸われていた。


「クライス。私は最後まで女王であれたか?」


「もちろんですとも。亡くなった民も、あなたのご両親も、最後まで戦い抜いた貴方を褒め称えることでしょう」


「だが多くの人を死なせた」


「仕方ありますまい。『戦って死ぬか、家畜として生きるか』の選択しかなかったのですからな。誰に聞いても前者を選んだことでしょう」


「そうか」


 そして二人の間の会話は途絶える。それでも儀式は止まらない。


「そういえば、ジーク殿の故郷では『輪廻転生』という考えがあるそうで。全ての生物は死んで終わりではなく、何度も転生を繰り返しているのだとか」


「・・・お前は、人の心を読むのが上手いな」


「ほっほっほ。もう何十年と仕えてますからな。これくらい当然です」


「気が楽になった。転生して次も人間だったらお主はどうしたい?」


「そうですなぁ。やはりまた女王陛下に仕えたいですな」


「お前は物好きだな。私は旅をしたいぞ。ジークから聞いた冒険譚は面白そうだったからな」

 

「では、私もお供しましょう。その時はしっかり鍛えておきます故」


「だな。その時はよろしく頼むぞ腹違いの我が兄よ」


——バタン


 そして女王の言葉を聞き届けたのち、魔力が枯れた宰相は倒れた。すでに息はない。しかし、その表情はどこか満足気であった。


「今までご苦労であったなクライス。私ももうすぐそちらへ行くぞ」


 そして数分後、女王も魔力が枯れて亡くなり、アレスの秘宝と呼ばれる魔法が発動した。



——side.ジーク

 

 王国最後の魔法が発動する少し前。ジークも他の者と同じく最前線で暴れまわっていた。


「ハハハハ!弱い弱い!」


 四方八方から飛び来る剣戟の悉くを弾き、的確に首を狩る。頭上から飛んでくる魔法に弓矢は剣圧で吹き飛ばす。魔族が恐れた数少ない戦士の一人であるジークは本来の二つ名である『国士無双』の名に相応しい活躍をしていた。


「ハァッ!」


「あ”あ”っ!?なめんな!」


 しかしいくら強くとも多勢に無勢。ジークの身体に次々と傷が刻まれていく。


「団長!先に逝きます!」


「おう!逝ってこい!!」


——ドン!!


 戦いに限界を迎えた兵たちは、自身に掛けて置いた自爆魔法を発動させ魔族を巻き込んで散っていく。戦場のいたるところで限界を迎えた兵たちが自爆していき、一番槍を務めたジューダスも自爆していた。そして数十分後、残っていた騎士団長と魔法師団長も自爆し、最後に戦場に立っていたのはジークだけとなった。


「ったくよぉ。最後に残ったのが傭兵の俺ってどういうことだぁ?人間が弱いっつてももう少し鍛えようがあったろうが」


 そういうジークもまた、身体中から血を流しておりまさに満身創痍。されどその目には強い光が宿っている。ジークの周りには魔族の死体が大量に転がっており、その中には中級魔族と呼ばれる隊長格も多く含まれていた。


「それはお前が常識外れなだけであろう。貴様レベルの人間が数多くいたのなら、もっと戦えていただろうな」


 ジークがこぼした愚痴に答えたのは、この地に攻め込んだ魔族の将軍。上級魔族であり、その姿は角が生えている以外は殆ど人間と同じ。しかし中身は全くの別物で、魔力も身体能力も何もかもが人類の上を行く。かつて人類最強と名高かった剣聖でも上級魔族には勝てなかったと言われている。


「はっ。将軍様が俺のような雑兵の前にお出ましとはな。酔狂だなお前」


「ふんっ。下級魔族ならともかく、中級魔族ですら難なく殺したお前が雑兵な訳あるまい。なればこそ、上級魔族である私が来たのだ。感謝するがよい」


「おーおー、ありがてぇ話だな。俺の名はジーク。お前の首を狩る男の名だ。覚えとけ!」

 

 ジークは名乗りを上げると共に、敵の将軍に襲い掛かる。


「我は南方軍将軍ジ・ラオ!貴様に殺された亡き同胞のため、貴様をここで討つ!」


 そして魔族の将軍もまた名乗りを上げて迎えうつ。二人の間で激しい剣戟が繰り広げられる。そのスピードが早すぎて、周囲の魔族はついていけず援護することもできない。


「ハハハハ!強い!強いな貴様!かつて相対した剣聖とやらよりも遥かにいいぞ!」


「くっ、そうかい。なら一発喰らい当たってくれてもいいんじゃねぇのっ・・かよ!」

 

 技術はジークの方がわずかに上。しかし純粋な身体能力で負けていて、魔力量も将軍の方が上だ。そのため一見互角のように見えるがジークはジリジリと押されており、その証拠に将軍が一振りするごとにジークから血しぶきが上がっている。


「ふんっ!」


「おらぁっ!!」


——ザンッ!


 そして二人の剣が交差し、ジークの剣が折れてそのまま深々と斬られた。その瞬間、将軍は勝ちを確信した。このまま倒れると思った。だが、最後の最後まで戦うことを辞めなかったジークは。ここにきて生涯で一番の剣撃を放った。その一撃を将軍は避けきれず、右目を深々と切り裂いた。


「グアッ!」


「ゴフッ!」


 結果としては打ち分け。しかし今の傷が初めてである将軍と、それまでに幾度となく傷を受けていたジークの間には決定的な差があり、ジークはもう立ち上がることができなかった。


「よもや、私に傷を負わせるとはな。恐ろしい人間よ。万全であったのなら、私と刺し違えることも出来たかもしれんな。」


「はー、はー、これは戦争だぞ。んな都合のいい展開なんざねぇよ。」


「それもそうであるな。最後に言い残すことはあるか」


「はっ、んなもん……残す相手がいねぇわボケ……。ゴハッ……、ハァ。まぁ、何だ……楽しい戦いだった。」


「そうか。ではさらばだ」


「じょ……あ……は……」


——ザンッ!


 最後に将軍が剣を振り下ろし、ジークの首が飛ぶ。


「ふぅ、これでおわ……」


——ドオオオン!!!!


 戦いが終わり、将軍が気を抜いた直後、王城から途方もない魔力が噴き出し、それと共に大爆発が発生する。その爆発は、その戦場すべてを吹き飛ばすに飽き足らず、大陸の5分の1を更地にしてしまう。これにより、魔族の多くも死ぬこととなり、魔族にも大きな被害が残る結果となった。

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