(ほぼ)デスゲーム出身のプレイヤーが(比較的)普通のVRMMOをやるとこうなる
雪乃大福
0章:公式デスゲーム『OriginWorld』
No.0-1:最終決戦前
とある世界のとある大陸にある王国が、戦争の末に滅亡を迎えようとしていた。従者の姿はなく、残ったのは200の騎士と100の傭兵のみ。会議の場には女王、宰相、騎士団長、賢者、傭兵団長の5名は最後の会議を行っていた。
「この場も随分寂しくなったもんだ。口うるさいギーク侯爵も、おちゃらけ王子も、商業組合の会長も、従者すらいねぇ」
最初に口を開いたのは傭兵団
「女王陛下の前であっても、あなたの態度は最後まで治りませんでしたな。それにしても随分汚いご様子で。静かだということには同意しますが」
ジークにそう帰したのは宰相のクライス。ジークに比べれば遥かに整えらえた清潔な恰好をしているが、よく見ればほつれがあったり、ボタンが一つ足りてなかったりなど完璧とは程遠い状態である。
「全くだ。随分静かなものよな。外もあれだけ騒がしかったというのに、今ではそれも聞こえぬ」
「儂も随分長く仕えてきたが、最後というのは寂しいものよな」
彼らに続き、騎士団長のハルト、魔法師団長のオキニスも発言した。
「仕方なかろう。それだけ魔族どもが強く、侵攻が激しかったのだ。むしろよくここまで耐えたものよ。皆のもの感謝する」
そして最後に女王グレースが、この場に集まった4名に対して頭を下げる。最後くらいはここにいる者にだけでもとの思いから、女王という立場を捨てて感謝を告げたのだ。
「おいおいよしてくれ。女王が頭を下げるな。感謝するな。ギーク侯爵に見られたら大説教ものだぜ?」
「この戦いが終わったら教育が必要のようですな」
「「「ハッハッハ!」」」
傭兵と宰相は笑った。彼らは仲が良い訳ではない。しかし最後まで生き残った戦友ではある。だからこその光景だ。女王は自分の感謝が笑われたイラつきと、戦いの絆というのを目の前で見ることが出来た嬉しさとで複雑な気分となった。
「ん”ん”っ、して、結局作戦はどうするのです?」
騎士団長が問う。
「作戦なんていらねぇだろ。こっちの兵は300人だけ。しかも3分の2以上は怪我人だぜ?物資も底をついた。なら最後は、ここまでついて来た酔狂な奴らに、花を持たせてやるのが俺らの役目だろ」
「それもそうじゃ。なら、各々が好きに暴れるということでよいかの?」
「同士討ちしないようお願いしますね。まぁ、もう一騎当千の兵しか残ってないですから、心配ないでしょうけどね」
「ハッハッハ、そりゃ違いないな」
「では、作戦は『同士討ちしないように暴れる』ということで。よろしいですかな。女王陛下」
「はぁ~……いいわよ。もう策を弄しても意味がないもの。」
決して作戦とは言えない作戦。もはや死ねと言ってるのと同義であり、女王としては後ろめたくもあるが、次がないのも事実。故に許可した。
「兵を集めなさい。最後の演説を行うわ」
「かしこまりました」
数分後、全ての兵が王城の広場に集まった。
『諸君!よく今まで生き残った!この場にいるのは文字通りこの国最後の生き残りである!友が死に、家族が死んだ。街は奪われ、多くの人が亡くなった。残ったのはもはやこの王城のみ』
『それでもまだ誇りは捨てぬ!奴らの家畜として生きるなど言語道断!断じて許さぬ!命尽き果てるその最後の一瞬まで戦え!魔族のクソ共に教えてやれ。命よりも大事なものがここにあると!我らアレス王国はここにあると!人間の強さを、恐怖を、奴らの身体に叩きこめ!!』
「「「「「オオオオオオオオオオー!!!!」」」」
最後の演説が終わり、兵たちの士気は最高潮にまで上がった。なけなしの食料や酒も全て支給された。文字通りこれが最後であると。ここにいる全員が実感し、そして魔族との戦いを楽しみにしていた。
「あなたたち。後はよろしく頼むわよ。私は最後の花火を打ち上げてくるわ」
「あぁ、任された」
「奴らの血の一滴とて、この地には残しません」
「うむ」
「クライス。行くわよ。」
「はっ!」
そしてグレースとクライスは城の奥にある王の間へ。ジーク、ハルト、オキニスの三人はそれぞれが率いる隊の元へと移動した。
——side.ジーク
「団長~、その恰好もう少しどうにかならなかったんですかい?あの並びに入るにはみすぼらしすぎましたぜ」
「たしかに、完全に浮いてたよな~」
「騎士の奴らももはや慣れたもんだけど、最後くらいはなぁ~って目で見てたぜ~」
傭兵団が集まる場にジークが突くと、団員たちは次々と軽口を掛ける。
「はっ、いいんだよ俺はこれで。いちいち着替えるのは面倒だ。んなことよりお前らに大事な大事な作戦を伝える」
その一言で団員は静かになる。
「作戦名は『同士討ちに気を付けて暴れる』だ!」
「「「「……ブアッハッハッハ!!!!」」」」
少しシーンとした後、ドッと笑いが起きる。
「何ですかそりゃぁ。そりゃぁ作戦って言いませんぜ。玉砕とか特攻っていってくださいよ」
「そうっすよ!名付けて特攻玉砕大作戦!とかね」
「はっ、おめぇらにそんな上品な言葉は似合わねぇよ。教養もねぇ、金もねぇ、ただ目先の小銭目当てに好き好んで人殺しになった奴らにそんな上品は不要だろ」
「ハハハハ!!そりゃぁちげぇねぇ。で、団長。一番槍は誰が行くんです?」
団員の一人がそう問うと再び場は静まり変える。
「そりゃぁ、俺……」
「「「はぁぁ~~」」」
と、ジークがいうと、途端にため息を吐いて白けた目をしだす団員達。
「ったく、わかったわかった。じゃんけんだ。じゃんけんで決めるぞ。俺と全員でジャンケンして最後まで残った奴が一番槍だ」
「「「しゃあああ!!!!」」」
そして盛り上がる一同。ジャンケンをして最後まで残ったのは若手の天才戦士であるジューダス。彼は両手を上げて雄叫びを上げた。
「じゃぁジューダス。お前に先頭は任せる。俺は最後尾でお前らの戦いを見届けてやらぁ」
「先走らないでくださいよ団長!」
「そうだそうだ!ちゃんと我慢してくださいね!」
「団長が見届けるとか似合わねぇ~」
「魔族をして『戦闘狂』と呼ばせた団長が見届ける~?これほど似合わねぇ言葉はねぇっすよ」
「「「「ハッハッハッハ!!!!」」」」
「ったくお前ら、散々な言い方しやがって。わかったよ。俺もお前らと一緒に戦ってやらぁ」
「つまりいつも通りってことですね」
「なるほどな」
「団長が一番槍じゃねぇってだけか」
「それもそうだな」
そんな感じで傭兵団が談笑していると、騎士団長のハルトがやってくる。
「そろそろ出るがそちらの準備はいいか?」
「おう、いつでもいけるぜ。一番槍はいつも通り俺らでいいか?」
「あぁ、君たちが攻めて、我々が後ろを守り、賢者殿が魔法で援護する。いつもの形だ」
「了解した。これが最後だ。奴らに思い知らせてやろうぜ。俺らの強さをよ」
「ふっ、そうだな。思い知らせてやらねばなるまい。アレスの神髄を」
ジークはハルトに向けて拳を出す。ハルトもそれに応え、二人は拳を合わせた。
そして城門前。この先は魔族の領域。一歩出れば魔族が次々と襲ってくる、人間にとっての死地である。
「お前ら!準備はいいな!最後の戦だ!最っ高に綺麗な真っ赤な花ぁ咲かせてやろうぜ!!野郎ども!!突撃いいいいい!!!!」
「騎士の皆さま。最後の戦です!我らアレス王国の底力を見せてやりましょう!!」
「英知を極めし魔法師たちよ。最後の戦じゃ。人類が作り、極めた魔法。魔族に見せつけてやろうぞ」
「「「「オオオオオオオオオ!!!!」」」」
傭兵団、騎士団、魔法師団のそれぞれのトップが号令を上げ、それと共に門が開く。最後の戦いが始まった。
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