⑦-1 4月8日(水)・新たなる日常

「——来たんじゃね、モテ期」


 4月8日・水曜日の朝。一睡もできなかった俺、四季巡はベッドの上で呟いた。キャラがブレていた。人間関係はクソとか言ってた頃の俺は遠いどこかに消え去っていた。


 状況を整理しよう。俺の名前は四季巡。高校2年生。友達も恋人も未だゼロだが、なぜか最近周りに女の子が集まりだしている。それも幼馴染(かもしれない女子)、妹(っぽい隣人)、先輩(急に部活に来出した美人)の豪華ラインナップだ。全員まだ知り合って数日も経たないということを除けば、今俺が置かれている状況はそこらのアニメの主人公よりも恵まれてると言ってもいい。

 しかし、しかしだ。ここに大きな謎がある。それは当然、「なぜこんな急に、俺と仲良くしてくれる女子が3人も現れたのか?」ということだ。そう。一晩寝ずに考えていたのはそのことだ。まあ謎すぎて寝れなかったというのが正しいが。


 俺は最近出会った3人の異性のことを考える。

 春咲朱里。冬野理沙。夏目優乃。全員美人で可愛い女子。これほど都合のいい出会いが短期間に重なるのは異常だ。俺がいくら人間関係という分野に不得手とはいえ、流石にそれくらいは分かる。なぜならば、16年生きてきてこんな事初めてなのだから。


 まず前提として、俺がモテてるのはかなり謎だ。勉強は微妙。運動は体育欠席常連。顔が良い訳でも……残念ながらない。そしてに至ってはマイナスである。だって誰も俺と関わってくれないからね。キラキラ系の空気を打ち消すって意味のならあると思うんだが……まあそんなの要りませんよね、ハイ。


 そして最近変わったこともない。ダイエットしたとか、イメチェンに成功したとか、困ってる女の子助けたとかそういうのも一切ない。そう。もうお分かりだろうが、客観的に見て俺には女子にモテる要素がひとつも無いのである。


 まあそんな感じで結論。つまり俺は今モテ期である。周りに理由なく女の子が寄ってくる時期なのである! ドン!やったね巡クン、女の子とイチャイチャできるよ!


「……って喜べたら良かったんだけど、なぁ」


 上げた諸手がベッドに落ちた。

 鳥の声が聴こえる。窓の外はとっくに明るくなっていた。

 体が重い。

 関係という名の糸が、全身に絡まっている光景を幻視した。


「どうしろってんだ、今更」


 呟く。

 ブレていたキャラが戻っていく。ありきたりにモテたい欲望が、孤独を拗らせた心に鎮火される。浮かれていた自分が冷静になるのを心のどこかで感じる。

 簡単な話。周りの環境が変わったところで、俺自身の性格が変わるわけではなく……一時はしゃいで気が大きくなったって、最終的には元の自分に帰結するということだ。


 ——人と関わるのは億劫だ。話すと疲れる。黙ると気まずい。知らないと気になる。知ると巻き込まれる。知られてないと悲しい。でも、知られるのは怖い。


 そう。俺は怖いんだ。

 春咲朱里は「幼馴染」と言ったけど、本当は違うかもしれない。そのとき彼女が俺をどう思うか。面白くも凄くもない俺を、彼女が嫌いにならない保証は。

 冬野理沙は「妹」を名乗ったけど、それは本物の関係じゃない。俺は彼女の兄で居られるほど正しくも賢くもない。俺の間違いが彼女を歪めてしまったとき、俺はどう償えば。

 夏目優乃は「先輩」になったけど、そんなの部活が同じだけだ。後輩だからって理由で尊重され続けるのを夢見るなんてバカげてる。俺の底の浅さが露見したら、きっと笑い合うだけの関係は。


 人間関係は糸のようなもの。


 それを求めて、目の前に漂って来た糸を思い切り引っ張って……糸が切れたり、相手を締め付け傷つけてしまったりしたら。

 俺は、それがどうしようもなく怖いんだ。

 それならいっそ、求めたくない。望んだりなんかしない。肯定の甘さを欲さなければ、拒絶の苦味も知らなくて済む。

 それが、俺が選んだ孤独の道。


「学校……行かないと、なあ」


 今から心が重かった。

 俺はどうするのだろう。どうなるのだろう。何も見通せない通学が、学校生活が……彼女たちが入り込んできた新しい日常が、怖い。

 起き上がる。半ば無意識のまま支度を済ます。

 寝不足で朝食も摂らないまま、遅刻しないよう玄関の扉を開けて――。


「や、やっほーメグルくんっ。ムカエニキタヨ」

「お、おはようお兄ちゃん。いっしょに学校いこ、う」

「や、やあ四季くん。どうだい? 部活の話をしながら登校でも」


 ——3人居た。昨日から1人増えていた。

 予想外の状況に、ほとんど思考を挟む余地なく挨拶を返す。


「……おはよう、ゴザイマス」


 朝日がやけに頭を突き刺す。寝不足だからだろうか。俺の口は許可も取らず勝手に笑いやがっていた。


「みんなで学校、行く?」


 そんな言葉まで吐きやがる。一晩悩んだのは何だったんだ。

 それでも彼女らの顔を見ると、なんだかそれが正解な気がして。


 結局俺は、俺の提案に頷いてくれた彼女らを拒絶することはしなかった。

 そうして、また少し新しくなった1日が始まった。

 ただその前に疑問がひとつ。


「……ていうかこの辺、なんか焦げ臭くね?」

「「「(ギクッ)」」」


 ……1日が始まった。


 ◆


 木世津きせつ高校、2年A組。

 3限目の授業は古文。

 生徒たちは真面目に授業に取り組んでいた……窓際後ろの席の2人以外は。


 四季巡と春咲朱里。彼らはなんだかぎこちない表情と動きで、出鱈目に板書を取っていた。


「(……古文の担当は。この時間に『仕掛ける』のね)」


 朱里がチラリと横を見ると……巡と視線がぶつかった。すぐさま目を逸らされる。


「(今見られてた? 作戦が読まれて……いや、どうせ偶然でしょ)」


 溜息をつく朱里。彼女の中ではすっかり諜報対象への評価が落ちていた。

 対して巡はというと。


「(……なんか見られてたんですけど。もしかして俺の事——いやいやしっかりしろ俺! ブレない期待しない勘違いしない、そんな強い心を取り戻すんだ!)」


 なんか煩悩を頭から追い払おうと頑張っていた。


 そんな巡の机の上、何の変哲もない消しゴムが、ピクリと小さく身じろぐように動く。

 持ち主である巡も気付けないだろうその異常を目ざとく確認した朱里の頭に、慣れ親しんだ「声」が響く。


『念動力者スタンバイ完了。春咲、準備はいいな?』

「(やっとか。こっちもとっくに準備完了)」

『オッケー、それでは作戦開始ー!』


 そんな、授業中堂々と行われた教師と生徒の秘密のやりとりに気付けるはずもない巡は、ノートに書いた落書きを消して板書を取ろうと消しゴムに手を伸ばし……。

 ぐい、と。消しゴムが何者かに引っ張られるように机の端に動き出した。

 朱里の脳内でテレパシー指示が興奮気味に炸裂する。


『今回の作戦は「落とした消しゴムを拾おうとしたら隣のあのコと手が触れて」だ! 思わせぶりな態度で存分に優しさをアピールしろ!』


 見えない力・念力の超能力によって、消しゴムは床へと落下し――。


「あぶねっ」


 ぱし、と。巡の手が落下中の消しゴムを掴んだ。

 この男、存外反応が早かった。


「(ふぅ、あやうく消しゴム落とすトコだった~。でもなんか今、ひとりでに消しゴムが机の端側に滑っていったような……)」


 消しゴムの裏面に何か付いてないかなどを確認する巡に、教壇から声がかかる。わざとらしく嗜めるような声の主は、作戦指揮官にして木世津高校に潜り込んだテレパシー能力者の担任教師。


「ごほん、四季巡くん。消しゴムなんか熱心に眺めて、センセイの授業をちゃんと聞いてるのかな?」

「え、あっすいません」


 集まるクラスじゅうの視線に身を竦める巡。

 授業が再開されてもまだ釈然としない様子の巡の机の上、再び消しゴムが揺れた。


『意外と反射神経があることは分かった。今度は落下中に念力を足して落下速度を上げてやれ!』


 消しゴムが滑り出し――今度は机から落ちる前に掴まれた。


「(……なんか滑るなぁ。机が斜めってんのか?)」


 机の歪みを気にしだした巡に対し、再びイラついた声が降る。


「四季巡くん。さっきから机をガタガタして。授業を聞く気はあるのかね……?」

「あ、いやその……さっきから消しゴムが落ちそうになってて、原因を調べようと」

「言い訳は良い!」

「……す、すんません」


 クラスの皆にクスクスと笑われながら、古文教師(実は通信能力者)をちゃんと嫌いになる巡。

 そんな巡を春咲だけが胡乱な目で見ていた。


「(理不尽なこと言われてるわね……それにしても、事前調査では『運動が苦手で体育もサボりがち』ってことだったけど、意外と動けるのか。『宝』が関係してるのかしら)」


 隣の席ということもあり巡の動きを観察しやすい彼女には、彼の動きが何度も返り討ちにした異端審問者たちのように鋭く見えた。やはり「超常殺し」四季進の息子、もしかしたらその優れた身体能力が遺伝しているのかもしれない。

 朱里がそんな風にまた彼の評価を上下させていると、頭の中で大声が響いた。


『ああもう最大出力だ! 私がリアルタイムで映像を送る、今度こそ消しゴムを床に落とせ念動力者!!』


 うるさいわよバカ指揮官、と春咲が思う暇もなく、消しゴムが再び動く。


「(またかよっ)」


 巡が手を伸ばす――だが消しゴムはその手をすり抜けるように90°軌道を変えた。


「なぁ!?」


 巡は小さな驚愕の声を漏らしつつも、腕の軌道を修正。机の端に先回りして待ち受けるようにポジショニング。


『曲げろ!』


 するとまた消しゴムが軌道を変え、それに巡が反応し……気付いたときには、なんかとんでもないハイスピードバトルが机の上で繰り広げられていた。

 消しゴムがダッシュし、スライドし、机の外目掛けて鋭角なカーブと見事な加速を決めてみせる。だが巡るもそれに反応、手を鞭のようにしならせて消しゴムが床に落ちるのを間一髪で阻止し続ける。

 そのどう考えても異常な光景に朱里は仰天する。


「(ちょ、やりすぎでしょバカ!?)」


 だが彼女の焦ったような思考は、教壇の上の興奮した指揮官には届かない。


『これでトドメだ!!』


 ぶおっ、と消しゴムが

 ジャンプするように空を舞い、流石に反応できなかった巡が驚きの表情で見つめる中——ぽて、と消しゴムは遂に床に落下した。1秒遅れて、朱里の脳内で響く勝ち鬨。


『やった、我々の勝ちだーー!』

「(『勝ちだ』じゃないでしょバカ!! どう誤魔化すのよコレ!!)」

『はっ! しまった!』


 大声のツッコミ相当の感情は流石に聴こえたのか、冷静さを取り戻す教壇の上の通信能力者。

 そんな彼女らの陰謀をしるよしもない巡は、今しがた落ちた消しゴムに思いを馳せていた。


「(消しゴム落ちた、拾わねーと……って思えるワケねーだろ! 何が起こってたんだ今の!? 幻覚!? 幽霊!? 怖すぎる、まさか女の子3人と知り合うという幸運の代償に、とんでもない悪霊に呪われでもしたのか!?)」


 不気味な影が背中に取り付いているのを想像し、恐怖と困惑の形相でオロオロしだした巡。その様子を一番近くで見ていた朱里は決意した。


「(ちっ、このままだと超能力者の存在に気付かれる……私がどうにかして誤魔化さないと!)」


 周囲を見回す。しかし朱里の能力は発火、今は授業中で席を立つこともできない。

 ――超能力者の能力は、原則として1人ひとつ。そしてその能力は有無から種類まで全て遺伝で決まり、意思によって身に付けたり使う能力を変えたりすることは出来ない。

 つまり春咲朱里は、発火能力のみでこの状況を解決しなければならないということだ。


「(ただ、あんまり派手な炎は出せない。この場を焼き尽くすことはできるけど、それじゃなんの解決策にもならないし……)」


 もうダメかと諦めかけたところで……朱里はを見つけた。


「(!! これなら……)」


 そして作戦のまとまった朱里は、床に落ちた消しゴムを当初の予定通り拾って隣の席へ体を向ける。


「メグルくん」


 小声で呼びかけると、巡はビクッと肩を跳ねさせて振り向いた。彼は青ざめた顔で。


「な、なんだ春咲か。悪霊かと……」


 私を何と間違えてんだ、と少しイラつきつつも顔に出さず消しゴムを差し出す。


「消しゴム、落としたよ」


「あ、ありがとう……でもその、それ呪われてるっぽくて。できればそのまま捨てて欲しいというか……」


 怯えすぎて異性を意識する余裕もない巡は震えた声で続ける。


「その消しゴム、ひ、ひとりでに動くんだ。やややっぱりこれは悪霊の仕業だと――」


 チラリ、と、朱里が裏付けるように、朱里が持つ消しゴムの裏に何かが見えた。彼女が差し出して来た消しゴムの「下」。そこに何かがもぞもぞと蠢いている。


「(ま、まさかッ――)」


 ぶわッ!! と巡の全身から汗が噴き出た。体が警戒からか激しく強張る。震えながらも視線は消しゴムを注視していた。


「(悪霊が来たのか!? 俺を殺しに現れちまったのでは!?)」


 朱里は消しゴムを渡そうと巡の方へ近付けてくる。善意しかなさそうなその仕草が今は恨めしい。授業中ゆえ声も出せず祈るように念じる。


「(俺のそばに近寄るなあああああああああああ!!)」


 果たして、そこに居たのは――。


「——む、虫?」


 大きさ5cmほどの虫が、消しゴムの裏にくっついていた。虫の名は「カナブン」。日本全域に生息している昆虫だ。夏の虫だが、近年の異常気象で春に成虫となることは充分に考えられるので、この場に居るのは決して不自然なことではない。

 朱里はその存在に気付いたのか、消しゴムからカナブンを優しく引きはがした。


「あー、悪霊とかは多分勘違いだよメグルくん。きっとこのコが消しゴムを動かしてたんじゃないかな」

「……そう、なのかな? まあ悪霊とか非現実的だもんな」


 人間、自分の理解を超えた現象に悩んでいる時に「ありえそうな理由」を聞いてしまうと妙に納得してしまうものである。それが冷静に考えるとありえなそうなものだとしても、恐怖から目を逸らすため、心が無意識に騙されることを選ぶのだ。

 なーんだ虫が動かしてたのか、とすっかり騙された巡を見ながら、朱里は笑顔の裏で舌を出した。


「(ホントは悪霊でも虫でもなく超能力だけどね)」


 そして今しがた苦境を切り抜けたのもまた、超能力という異能の力だ。


「(火の『明るさ』は虫をおびき寄せる。誘蛾灯のように『温かく弱い炎』を自在に操れるならば……それは虫の進む方向を操るのと同じことよ)」


 飛んで火に居る夏の虫、という言葉がある。それは虫の「光に寄ってくる」という性質から生まれた言葉。

 今回朱里はそれを利用した。教室の天井にとまっている虫を見つけた朱里は、周囲に気付かれない程度の小さな火を発生させることで、虫を自身の手元に誘導したのだ。そうして捕まえた虫を、消しゴムを拾う際に裏にくっつけた。


「(超能力者は生まれつき具わったひとつの能力しか使えない。。生まれ持った肉体を変えられないアスリートのように、ひとつの剣と流派を磨き続ける剣士のように……自分の能力に一生向き合って応用の方法を考え、それが実現できるよう能力を鍛え、創意工夫して可能性を広げていくから)」


 通信能力者の「夢操作」などもこの考え方の産物だ。音声・映像の送信に特化したテレパシーを研ぎ澄ますことで、まるで実際に体験しているかのような夢をつくることが出来る。

 何も不思議なことではない。普通の剣だってただ敵を切るだけでなく、調理に使ったり柄で打撃したり、なんなら遠くのものを引っ張ってくる棒として使うこともできるはずだ。超能力もそれと同じ。全ては使用者の発想力と努力なのである。


「(っと、忘れるところだった)」


 朱里はカナブンを放り捨て、巡に消しゴムを手渡そうとする。

 しかし正気に戻った巡は再び異性や信念を意識しだし、少しの戸惑いで触れそうな手から消しゴムを受け取りあぐねていた。


「(……これ、逆にチャンスか。はぁ、気が乗らないけど仕方ない、これも私の評価のためだ)」


 朱里は何かを思いつくと、羞恥や迷いを振り払って決意を固めた。

 そして消しゴムを持っていなかった方の手で巡の手を掴み、強引に引っ張る。

 距離の縮まった顔にできるだけ柔らかく笑いかけ。


「ほら、ちゃんと受け取ってよ」


 ぽす、と消しゴムが巡の手に納まった時には、彼の顔は真っ赤に染まっていた。


「ぁ、りがとう」


 半ば呆然と呟かれた言葉に対し、こちらも渾身の「どういたしまして」を返そうとしたところで……事前に受けていたとある指示を思い出した。タイミング良く、いや悪く、頭の中にテレパシーが届く。


『そこだ春咲! 教えた奴をやってやれ!』


 その心底楽しそうな声に苛立ちつつ……毒を喰らわば、と彼女は意を決して、巡へとその言葉を放つ。


「……べ、別にアンタの為じゃないんだから。勘違いしないでよねっ」


 事実、ほんとに巡の為じゃないので照れ隠しにもなんにもなっていないのだった。

 そうして朱里は手を離すと教室の黒板方向に向き直り、授業中に好き勝手していたのにこちらを全く注意してこない(客観的に見たら)転校生贔屓の教師を半目で睨む。


「(これでいいんでしょ)」

『そうそうソレだ、そのツンデレが見たかった! やっぱおまえはツンデレが似合うと思ってたんだよなあ私は。心は読めんが、四季巡もきっとおまえのツンデレに魅了されているハズ。よくやった春咲朱里! 作戦は概ね成功と言っていいだろう』

「(『ほとんど私のおかげで』概ね成功、ね)」


 超能力者がこっそりと作戦成功を感じている横で、巡は掴まれていた手を持て余しながら、がつんと頭を机にぶつけた。


「(また! 俺は! 流された!!)」


 理想は間違いなく「落ちた消しゴムを自分で素早く拾う」だった。敗因は「虫」に混乱させられたこともあるが、やはり異性に弱いハートと意志薄弱な精神力だろう。


「(しっかりしろ四季巡。優しくされたことの嬉しさや異性への欲は、いずれ来る拒絶されたときの痛みを増やすだけだ。俺は極力関わらないように、縁が自然消滅するように振舞わなければ……)」


 彼はまだ熱を持つ手をぎゅっと握った。


「(次だ! 次こそは我が信念貫き通す!! 俺は硬派キャラで行くんだ!)」


 そんなよくわからない決意をしながら、巡は板書を取るために動かなくなった消しゴムを手に取った。

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