③ 4月6日(月)・新学期/舞台裏

 4月6日、午前9時。木世津高校で始業式が始まったころ。木世津高校のすぐ傍にある、とある道の曲がり角。そこに設置されている電柱の影に「彼女」は居た。


  ゆらめく炎にも似た赤毛の髪。制服を適度に着崩し、壁に背を預け気だるげにスマートフォンをつつくその姿は何処にでもいる女子高生といった感じだったが、それにしてはおかしな部分がふたつ。

 ひとつは午前9時という時間に学校へ急ぐことも無く足を止めているという点。そしてもうひとつは――琥珀を思わせるその瞳が、殺気混じりの苛立ちに細められているという点だ。

 そんな彼女が不意に桜色の唇を開き、誰にでもなくぽつり呟く。


「……遅くない?」


 トントンとローファーでアスファルトの地面を叩き、怒りに眉を寄せる少女——春咲朱里は、烈火の声でそう言った。彼女の周囲に人影はない。なのに朱里はスマホに目を落としたまま、まるで誰かに愚痴るように言葉を続ける。


「いつまで待たないといけないのコレ。『どれだけ遅くても8時半まで』って話だったじゃない。もう9時なんですけど。学生ってそんなに時間にルーズなの?」

『いや、これは普通に遅刻だな。千里眼による監視班からの報告でも、ターゲットは未だに部屋を出ていない。別陣営の妨害工作の可能性もあるが、まあ十中八九寝坊だろうな』

「何それ。ずいぶんとお気楽な奴なのね、そのターゲット――四季巡、だっけ? はずみでが出ちゃわないか今から不安だわ」

『手はともかく火は遠慮して欲しいな……いや、手も出来れば出さないで欲しいが』


 誰にでもない、虚空に放たれる朱里の声。だがそれには返答があり会話も成り立っていた。朱里は姿なき対話相手と当たり前のように会話を続ける。

 と、そんな朱里の顔、その近くを蝶が飛んだ。春先に現れるモンシロチョウ、白い羽をはためかせ舞うそれは朱里の肩に乗り……ぼっ、と前触れなく炎が蝶を包んだ。小さな虫が火に焼かれ、残骸となって地面に落ちる。

 その様子を見て、ふん、と鼻を鳴らした少女を「声」が諫める。


『おいおい、そんな気安く能力を使うな。誰かに見られでもしたら大変だぞ』


 それは遠距離から届く声。それは口から言葉を吐き空気の振動として相手の耳に届ける声では無く、思念を直接相手の脳に送り込むテレパシー。そんな声の持ち主の浮かべているだろう余裕ありげな表情を想像しながら、朱里はまた虚空に言葉を投げた。


「誰も見てないわよ別に。イラついてんだし、暴発予防って意味でもちょっとくらいなら良いでしょ……ハァ、なんで大手を振って能力使ったらダメなのよ」

『そういう決まりだ。それに非異能者に力が露見してみろ、あっという間に解剖・開頭されてお陀仏だぞ』

「そうなったら全員燃やして逃げてやるわよ。私の超能力――『発火能力』でね」


 再び炎が現れ、今度は蝶の残骸を焼き尽くした。それは自然発火というには余りにも不自然な超常現象――人の感情によって生み出される「超能力」という現象だった。


 ――この世界には「異能者」と呼ばれる存在が居る。

 異能。それは「異なる力」、普通の人間が持ち得ぬ、世間から隠された能力や技術。

 例えば、無から火や電気を生み出す生まれながらの特殊能力。

 または、重力や力学法則を捻じ曲げ文明を揺るがすほどの先進的技術。

 もしくは、魔術や陰陽術を名乗る科学の範疇を超越したオカルト的学問。

 そのような「異なる力」を使う人間を総称して「異能者」と呼ぶのだ。


 表舞台から忘れられ、日陰で生きることを選んだ異能者たち。しかしひとえに異能者と言っても、彼らは決して一枚岩の存在などではない。多くの人類が「国」という単位で利権を争うように、彼ら異能者は扱う能力ごとに分かれたグループである「陣営」にそれぞれ所属し争ってきた。そうして現在、ここ日本で特に大きな力を持つ陣営は3つ。


 一つ目は超能力者の互助会である「全日本超能力者連合」。

 二つ目はオーバーテクノロジーを研究する「冬野グループ・先進科学研究科」。

 三つ目は魔術を研鑽し合う組織、「魔術協会・日本支部」。


 存在の露見を避け、異能者狩りである「異端審問会」からの追及を逃れながら日々お互いを疎み争う彼らはここ最近、とある理由でかなりの緊張状態にあった――。


 そんな異能者、詳しく言えば超能力者であり、全日本超能力者連合――通称「連合」に所属する若手のホープ的発火能力者、春咲朱里は。偽装の為だけに、電源を付けていないスマホを指でつつきながら、つまらなそうに呟いた。


「はぁ。なんであたしがこんなコト……」


 それを耳ざとく聞いていた「声」が咎める。


『聴こえてるぞ発火能力者パイロキネシスト。任務に不満か?』

「不満に決まってるでしょ。恋愛ゴッコは魅了能力者ファシネイター辺りにやらせとけばいいじゃない。あとは他人の思考を盗聴できるどっかの通信能力者テレパシストとかね」

『知ってるとは思うが、私のテレパシーは基本「返信不可」だよ。おまえの「声」を正確に拾えるのは私とおまえの波長が100人にひとりレベルで特別合うってだけだ。それに』


 テレパシーの声、大人の女性のそれのトーンがひとつ下がる。


『この任務は国内での今後の「連合」の趨勢を決める超重要ミッション――当然他陣営、「科学使い」と「魔術師」共の妨害があるだろう。そうなったときひ弱な精神能力者と、バリバリ武闘派の戦闘系能力者、どちらが任務を成功させられるかは、ほら、「火を見るより明らか」ってヤツだ』


 火を見るより、の所をおどけるように言った声に、朱里は「うざ」と言葉少なく不快感を示す。そして彼女はスマホの電源を付けた。開かれていたアプリは、ひとりの少年の写真を画面に映している。

 それは黒髪黒目の、眼鏡をかけた男子学生。その制服は朱里が身に着けているものとデザインが似ていた。つまり彼も、否、彼は木世津高校に通う学生だという事だ。写真の上に書かれた文字が示す人物の名は「四季巡」。そんな冴えない少年の写真を眺めながら、春咲朱里は呆れたように息を吐いた。


「超重要ミッション、ね……」


 彼女が思うのは、最近の「連合」を取り巻く慌ただしい空気について。


 ……日本にある異能者の各陣営は最近、予知能力や独自の調査によって、同時期に一つの情報を手に入れた。それは日本における各陣営の立場を揺るがしかねない「宝」の存在と、その「鍵」の在処。「宝」の詳細はどんな能力を以てしても分からなかった。ただし「鍵」についてはハッキリしている。


 ――「宝」は四季しきすすむの息子、「四季巡」が父親から受け継ぎ、隠している。それが予知や予言によって突き止めれた、謎の「宝」を導く「鍵」だった。そうして3つの陣営は密かに動き出したのだ。彼らの目的はただ一つ。それは「鍵」である四季巡を篭絡し、彼から「宝」の詳細と所在を聞き出すことである――。


 そんな事情を思い出していた朱里に、テレパシーの声は念を押すように言う。


『気を付けろよ。四季巡との接触は「同じ学校になって仲良くなり情報を聞き出せた」というテイにするんだ。一般人を無理矢理能力で脅したり洗脳したりすれば、「審問会」に攻め込まれる口実を作るからな』


「はいはい。流石に私も審問官は勘弁。アイツら銃とか容赦なく撃ってくるし、すばしっこいし、覚悟決まり過ぎてて引くし……何より数がやたらめったら多くて面倒だしね」


 審問会……正式名称を「異端審問会」。そこに所属する「審問官」たちはほとんどが非異能者だが、全員が高度な訓練を積んでいて、さらに近代兵器を惜しげも無く使う。政府公認の組織であり、秘密裏に異能者から一般人を守る組織――なのだが、当然異能者からすれば自分たちの邪魔をする悪者な訳で。余り考えたくない組織のことを頭から追い出すように、朱里は遠方に潜むテレパシー能力者に問いかける。


「それで? ターゲットに動きは?」

『……いや、まだ目標は沈黙しているらしい。もう9時20分なんだが……まあいい。この時間で作戦のおさらいをしておこう』


 千里眼の能力者と連絡を取ったらしい声は少し疲れたようにそう言って。瞬間、口調をとんでもなく明るく切り替え……楽し気に、弾む声で朱里の脳内を揺らした。


『今回の作戦は名付けて「運命の出会い作戦」! 目標に春咲朱里の存在を強烈に印象付け、後々の親密度・好感度を稼ぎやすくするのが目的だ。具体的な作戦内容は「通学路でぶつかった女の子は転校生!?」という定番展開の再現……今は第一段階、「運命の相手と曲がり角でごっつんこ!?」の待機中だなっ』

「(……作戦名ダサっ。あぁ下らない、もう帰りたいわ……)」


 頭を押さえて溜息をつく朱里。そんな彼女に声は唇を尖らせる。


『おい運命のヒロイン、もうちょっとやる気を出せ。この作戦には我々「連合」の未来がかかっているんだぞ。それに作戦メンバーに申し訳なくないのか? 千里眼サードアイ空間転移テレポーテーション念動力サイコキネシス……「連合」屈指の使い手たちがこの作戦に協力してくれているというのに』


 声が今挙げた能力者たち、それは連合内でも名だたる面子。完全武装の陸軍小隊くらいなら軽くあしらえるだろう能力者たちの名を前に、それと同格の発火能力者は鼻で笑う。


「ハッ、非異能者1人に過剰戦力よ。それにそんなメンバーと『連合』屈指の発火能力者である私を趣味全開のおバカ作戦で振り回してるのはアンタでしょ、この少女漫画オタク」

『ん? すまん、電波が悪くて聞こえなかった、もう一度言ってくれるかな?』


 当然、テレパシーの感度に電波など微塵も関係無い。分かり易い聴こえないフリだ。


「……(マジで燃やそうかな、コイツ)」


 割と本気でそう思い、朱里の髪がゆらりと揺れ出した瞬間。


『おおっと! 目標に動きがあったようだ! 残念だが無駄話はココまでだな』


 絶妙なタイミングで作戦の再開が告げられた。おそらく自分の殺気さえ察知していたであろうおどけた声の主に苛立ちを覚えつつも、春咲朱里は頭を仕事モードに切り替える。若干16歳にして数多の戦場と死線を超えてきた彼女は、現場で指揮に従わないことが何を意味するかを知っているからだ。そんな彼女の脳内に今度こそ真面目になった声が響く。


『顔を出すなよ。タイミングはこちらで指示する』


 朱里は壁に背を当て、呼吸を整える。今回の作戦はどれだけふざけて見えても、彼女含め数多の超能力者が所属する連合の立場を揺るがすものなのだ。失敗は許されない。


 朱里は今の状況について素早く頭の中で整理した。


「(私の現在位置は、道を挟んで木世津高校が、学校北側にある桜の道が見える、学校とは反対側の道の角。ターゲット・四季巡は現在東側の道から北門に向かって、つまりこちらに向かって通学中……私の役目は、曲がり角を通過する瞬間の彼に激突すること)」


 そこまで考えて、朱里はやはり溜息をついた。どう考えても絵面が馬鹿らしい……いや、確かに初対面からインパクトがあるのは大事とか、そんな言葉で説得を受けたし、それに対して「確かに」とも思ったのだが……それにしたって馬鹿げている。正直な話、朱里に上手い代案を思いつく頭と人生経験があればこんな作戦には絶対に従わなかっただろう。だが朱里は代案を出せなかった。故にこんな上司の趣味全開の作戦に従うのも仕方の無いことなのである。

 と、そう自分を納得させていた朱里の思考を遮るように声が響く。


『マズい、緊急事態だ!』


 脳を揺らす、普段纏っている余裕を微塵も感じさせない声。その言葉に朱里は思考のギアを切り替え、すわ敵陣営の妨害かと身構え――、


『目標は学校側の歩道を進んできている!! 春咲、おまえのポジショニングミスだ!』

「……はぁ?」


 すぐに後悔した。緊急事態と聞いて身構えたのに、作戦が漏れて超科学兵器ロボット軍隊に囲まれたわけでも、大魔術を発動されて連合基地が吹き飛ばされたわけでもなく……学校側の歩道? ポジショニングミス?


「えーと……それの何がダメなワケ?」


 朱里の心底呆れた反応はしかし、その100倍くらいの熱量の声にかき消される。


『バカ、このままでは「曲がり角でごっつんこ」ではなく、「謎の女子高生に道の反対側から突進されたんだが」になってしまうんだぞ! それじゃ運命的にならない、ああマズい!!』

「(……あー、もうついてけないわマジで)」


 結局無理だった。どのみちぶつかるのだから、どちらの角から飛び出ようが些事だろう。たとえコレがどれだけ重大な作戦だろうと、朱里には流石に付き合いきれないのだった。


 ただ……そんな感想を抱いたのは春咲朱里だけだったようだが。

 細かい操作を諦め、作戦メンバー全員に送られた鋭い声が朱里の脳を刺す。


『そうだ、「空間転移」だ! 春咲を反対側の曲がり角へ送れ!』


 その言葉と共に、春咲の背後に青年が突如現れた。足音も空気を揺らすことすらなく、1秒前は誰も居なかった場所に青年は立っている。

 それは空間転移、離れた場所に前触れなく現れることが出来る超能力。

 その力を見せた青年は短く言う。


「了解」


 そして彼は春咲の肩に手を当てると、心の中で強く唱えた。

 ――空間転移!!


「な、ちょ――」


 抗議の声は間に合わず。

 シュン、と2人の姿が掻き消え、反対側の曲がり角の影にそっくりそのまま現れた。超能力により、文字通り「瞬間移動」したのだ。


 そして混乱気味の春咲から手を離した青年は、再び能力を発動してどこかへ転移。残された春咲は、転移による脳を揺らすような不快な感覚に、思わず小声で憤りを吐き出す。


「うっ――バカ、やるなら先に」


 だがその文句すら続く声に黙殺される。


『来るぞ! 321でを言いながら角から飛び出せ!』


 車酔いのような気持ち悪さを現在進行形で感じている朱里は、その声に更に気分が悪くなった。それは文句ひとつ言わせてもらえないクソ指揮官に対してもだが……まさかを本気で言うことになるなんて吐きそうだ、と彼女は素直に思い。


『3...2...1...今だ!』


 迷う事すら許してくれない指示を受け、春咲朱里はもうやけっぱちで道の角から飛び出した。

 馬鹿らしくを叫ぶ声に、隠せない苛立ちを乗せながら。

 そのセリフとは、即ち。


「『いっけなーい遅刻遅刻』ー!」


 道の角から飛び出た先。

 目の前には驚いた顔の、事前に確認した写真と同じ顔の少年。

 だが。少しタイミングがズレたのか、彼の反射神経が良かったのか、朱里は自分が「躱された」ことを悟り。

 ――しかしその心の声を、ムカつく指揮官は”聴き”逃さなかった。


『ケース3だ、念動力で軌道を修正!』


 ぐい、と朱里の背中を不可視の力――遠くにいる能力者が発動した念動力が押し、その軌道を変える。


 そして――衝突。


「——つぅ」

「い、痛ぇっ……」


 勢いよくぶつかった男女は、お互いに弾かれ尻もちをついた。ただ朱里にケガはなかった。アスファルトに手をつく直前、見えない力が彼女を受け止め、優しく地面に降ろしたのだ。


「(……ナイスキャッチ)」


 朱里は自身を受け止めた念力とそれを使う超能力者に心の中で感謝をし、そして目標と向き合った。

 道路に尻もちを付き痛みに顔をしかめる少年。長めの前髪に洒落気のないメガネをかけた、いまいちパッとしない、特徴の薄い男子。

 ――目標の「鍵」、四季巡。当然ながら初対面、写真で見た以外の見覚えも、特別感じるものもない。

 つまり、今はただ……ムカつく指揮官の作戦通りに。


「ちょっと、どこ見て歩いてるのよ!」


 ただ今のセリフには、ちょっとばかり感情が瞳に乗ってしまった気もしたが――いい演技の補強になるだろう、きっと。 ぽかんとしている少年の顔を出来るだけ見ないようにしながら考える。

 そんなわけで用を終えた朱里は早々に立ち上がり、去り際に一言。


「そうだ、遅刻しちゃう!」

 と叫んで、北門を目的地にその場を去った。内心で「もう遅刻はしてるけどね……」と思いながらのセリフだったから、こっちはちょっと大根だったかもしれない。

 小走りでそんなことを思う彼女の頭の中に届く、なぜかテンション高めのねぎらいの声。


『よーし上出来だ春咲! そのまま学校まで走れ』


 脳内で響く憎たらしい上司の言葉を聞きながら、彼女はふと気付く。気付いてしまう。

 そしてとんでもなく微妙な、苦虫を噛み潰したような顔になり……観念したように、作戦責任者へと静かに溢す。


「……ねぇ。例えばの話なんだけど。『左の角から飛び出してぶつかって来て、悪態付きながら左の角に走って行く』、なんてことするヤツが居たらさ。普通、ソイツとは関わりたく無くわよね?」

『ん? まあそれはそうだろう。絶対ヤバい奴じゃんソイツ』


 まだ気づいて無さそうな声に、朱里は嫌な汗を流しながら言う。


「私、その『ヤバい奴』になってんだけど……」

『んん? ……あ”』


 そう。超能力者は気が付いた。あの空間転移の瞬間に、作戦は破綻していたことに。四季巡ターゲットが学校側の歩道を使った時点で、春咲朱里は「遅刻しそうなヒロイン」ではなく「体当たりが趣味の狂人」になるしかなかったという事実に。

 結論。


「はぁ。これでもし失敗したら、全部アンタの責任って報告していいわよね? こんな数ミリの誤差で破綻するクソ作戦を立てたクソ指揮官さん?」

『……ま、まだ失敗したわけでは……』


 16歳にして百戦錬磨の超能力者・春咲朱里は、その震える声に「今回はダメかもね……」と割と本気で思いながら、死んだ目と共に学校への道のりを走った。


 ◆


 そして、2年A組の教室にて。


「あー!! アンタはあの時の!」


 私、春咲朱里はバカみたいに声を張り上げた。クラス中の視線が「教室に入るなり叫んだ転校生」に向けられ、私は羞恥で顔が染まるのを何とか堪える。

 と、そんな私を面白がるような声。


「なんだ、お前ら知り合いか? なら席は隣同士で良さそうだな」


 視線を明後日の方向に逸らした目標、四季巡と私を交互に見ながらニヤつく担任教師。新任だろう若い女性の彼女はしかし、不意に目を細めて超能力を発動する。


『これは「教師役」の私にしかできないナイスアシストだろ春咲朱里。だからその、もし作戦が失敗しても、ある程度は報告に手心をだな……』


 頭の中に響くその声は、先ほど私たちを揶揄った声と同じだった。

 彼女はこの春から学校に紛れ込んだ通信能力者兼、先ほどからずっと念話している作戦指揮官である。まったく、面白そうな顔も必至そうな顔もウザいったらありゃしない。人目が無かったら燃やしてるところよ。

 そうやって怒りを堪えていると、彼女は誤魔化すように、


「まあそれは置いておいて。とりあえず自己紹介をしてくれるか転校生。名前を黒板に書いて……あとはそうだな、転校の理由でも言ってくれ。ダメなら新しい学校での抱負でもいいぞ」


 と自己紹介を促して来た。やめろそのウインク、ウザい。


 私は改めて作り笑いを張り付けた。自分の性格は好戦的だと自負しているが、これで面の皮の厚さには自信がある。なにせ連合で出世するには、「上」の老人におべっかを使うのが近道だからだ。今回も要領は同じ、任務に貢献し私自身が組織の「上」へと昇るため、使えるものは嘘でも容姿でも何でも使う。


「えー、こほん。はじめまして、私は春咲朱里って言います」


 目を細める。口角を上げるのを意識。渾身の笑顔を作りながら、更に身を揺らして親しみやすさを出す。


「木世津高校には親の都合で転校してきました」


 本当は「連合」の都合だけど……はぁ、好感度のために四季巡に笑いかけておくか。朝の件のイメージダウンを少しでも覆さないと……ってこっち見てないし。

 怒りが顔に出そうになるけど必死で我慢。


「この学校での抱負は……真面目に頑張る、かな。皆、よろしくねっ」


 崩れかけた表情を腰を折ることで隠す。改めて笑顔を作り顔を上げ、笑いながら手を小さく振った。ぶりっ子にでもなった気分だが我慢する。全ては私の評価のため。


『やるじゃないか美少女転校生』

「(黙れ無能指揮官。いや悪趣味担任教師?)」


 ウザったい揶揄にもつとめて笑顔は崩さない。

 演技の甲斐あってか、私に向けられる温かい拍手。これでクラスにはかなりいい感じに受け入れられた。問題は……ぼーっとしながらぞんざいに拍手をしている窓際最後尾の間抜けヅラ、四季巡である。なんというか、協調性というのを感じない。クラスをりんごの箱で例えるなら、りんごの中に混じった余りものの梨のような……教壇の横で俯瞰する限り、彼のポジションはそんな感じだと読み取れた。


「(流石に『鍵』、他人を警戒して人間関係を絞っているってことなのかしらね)」


 そんな感想を抱きながら教壇から下り、用意されていたターゲットの隣の席へ。当然これも偶然では無く、学校に潜入していた偽担任の仕込みである。

 私は彼の隣の席に座って、今度こそ親しげに笑いかけた。

 だが。

 つい、と視線を逸らされる。俯きがちのその顔とは目が合わない。


「(警戒されてる? やはり朝の件が原因? ……それでも接触するしかない、か)」


 仕方ない、と割り切って気合を入れる。

 どこから来たのと質問してきた前の席の女子に断りをいれ、精いっぱいの演技で四季巡ターゲットにアクションをしかけた。


「――ねえ、朝の事なんだけど」


 声をかければ、流石に顔が此方を向く。

 少し伸びた黒い前髪の下、眼鏡の奥の瞳と目が合った、気がした。

 逃がさないためにすかさず言葉で引き留める。


「ありがと、こっち向いてくれて。その、朝のことはゴメンね。ぶつかったのに酷い態度取っちゃって。遅刻しそうで気が立ってたんだ。それを謝りたくて……えーと、名前、なんて言うの?」


 まずは謝罪。自然な会話の切り口だし、頭を下げられる良識をアピールできる。既に知っている名前を尋ねたのは怪しまれないことと返答してもらうことを優先したものだ。ついでとばかりに小首をかしげ、可愛らしい女子生徒を演じる。

 さあ、四季巡の反応は――。


「あ、えーと……」


 声ちっさ。


「あ、えーと……お、俺は四季巡。朝のことはその、まあなんていうか、気にしなくていいよ、うん。俺も別に全然気にしてないし。……じゃ、そういうことで」


 会話自体に慣れていないような、もたついた舌回し。うーん、まだ判断できないけど、警戒されている訳ではなさそうかな……ん?


「(今、会話切られた?)」


 余りに自然すぎて気付かなかったが、気付けば会話は終了していた。


「(どういう文脈よ……っ)」


 若干焦りつつも、すぐさま会話の流れをリカバリーする。


「そ、そんな訳にもいかないって言うか、そっちが気にしなくてもこっちが気にするっていうか……」

「あー、その、ごめん。あの時は俺も注意散漫だったと思うし、俺が悪いよな、うん。じゃ、そういうことで」


 ……は?

 また終わった!? コイツ、人と話す気ゼロか!? とにかく会話を終わらせるわけにはいかないと思いながら必死に言葉を組み立てる。


「そんなことないよ! 私が不注意だったっていうか、だからその……」

「いや気にしてないからいいよ謝らなくて。じゃ、そういうことで」

「いや、あの……」

「大丈夫気にしてないから。じゃ、そういうことで」


 取り付く島もないとはこのことだった。


「……えーと、そんなあからさまに避けられると、そっちの方が困るっていうか……」


 困った顔で情を揺さぶろうとしたものの、既にあらぬ方向を見ていた四季巡から、もう言葉は返ってこなかった。


「(やっぱり警戒されてる? ムリに会話を切ってきたのは不信の意思表示? クソ、コイツが何考えてるか分からない、テレパシストじゃないのよこちとら!)」

『呼んだか?』

「(ちょっとアンタ、腐ってもテレパシストなら目標の思考を読みなさいよ!)」

『いや無理だな。案の定ターゲットと私の波長は合わなかった。そもそも本来の私の能力は「送信専門」だからな。よって当初の予定通り、彼との会話はおまえに一任するぞ~』

「(この役立たず! 死ね!)」


 己の意に反して髪がゆらりと揺れる。周囲の空気が乾くのを感じ、私は慌てて腿を抓った。痛みが辛うじて燃え上がりそうだった怒りを抑える。


 ――超能力。それは先天的に脳に宿る異能力の総称。

 その最も重要な特徴として、、というものがある。超能力者が特定の感情を抱いたときに、それをトリガーとして超能力は発動するのだ。

 私の場合、トリガーとなる感情は「怒り」。怒りが頂点に達すると、炎は私の意思に関わらず周りを襲う。

 無能な味方のせいで溢れそうになった炎をなんとか押さえながら、私は賭けに出ることにした。結局いつもそう、肝心な時に味方は頼れなくて、だから重要なことは私が1人でやるしかない。

 私は炎を抑え切り、再び四季巡の方を向き直った。


「その、だから……」


 声で顔を向けさせる。顎を引いて上目遣い。怒りでうるんだ瞳と紅潮した頬も利用する。これでダメならもう私にできることは無い。


「お詫びも兼ねてさ、今日一緒に帰らない? メグルくん」


 語尾は不安気に揺らした。前傾姿勢で精一杯距離を縮めた。さあどうなる、やはりこれだけでは厳しいか――。


「あっハイ……あ” 」


 しかし彼の答えは即答だった。考える前に出たって感じだった。

 その答えが出た経緯までは分からないまでも、兎に角安堵が心を満たす。


「よかった、それじゃ放課後ね!」


 はぁ……本当に良かった、首の皮一枚繋がった……。

 任務の失敗がようやく遠のき、思わず大きく息をつく。私は自分の貢献度の高さを少し誇り、その後ちらりと横を見た。


「(それよりも、コイツ……)」


 隣に座っている四季巡は、なんか呆然としているというか、何とも読みにくい表情をしていた。そんな横顔を見ながら考える。


「(なんで私の提案が許可されたのか、結局分からない。あの顔は魅了されてくれたとかそんな感じには見えないし。警戒されてるのかどうかも……はぁ、めんどくさ。そもそもこんなチマチマした作戦、どう考えても私向きじゃないのよ。敵を燃やせば解決する戦場の方がずっと簡単だわ)」


 あと正直に言って、今回の目標は特別めんどくさかった。協調性が低く、自分本位で、独自の思考回路を持っているタイプ。言ってしまえば、余り関わり合いになりたくない――クラスで浮いているのが納得の性格だ。

 なんだか見ているのも嫌になり、私は四季巡から視線を外した。


「(ま、コイツのことは放課後まで忘れよう。そろそろクラスメイトの質問をかわすのも限界だし……作戦期間が未知数な以上、クラスに溶け込んでおいて損はないでしょ)」


 そう考え、私はクラスメイトとの交流を始めた。視界の端の四季巡は窓の方を向き不干渉を示していたし、何より炎が暴発しかねないので、それ以上そちらは向かなかった。

 クラスメイトと表向き楽しげに話す私の頭の中に、こちらに視線を向ける教師の声が届く。


『よくやった春咲朱里。「運命の出会い作戦」第二段階、「一緒に帰る約束しちゃった!?」は終了だ。この調子で第三段階も……』

「(分かってる。ここまでやったんだし、もう第三でも第四でもやってやるわよ)」


 約束は取り付けた、問題の「第三段階」は後からでいい。

 そうして私は、クラスの中で「純情可憐な春咲朱里」のポジションを築くべく、再び自慢の作り笑いを張り付けた。


 ◆


 そんなこんなで放課後。

 隣り合い歩く春咲朱里わたしと四季巡……2人の間の空気は死んでいた。


「……えーと、その……い、いい天気だね……」

「……いや、曇ってるし……。その、話題がないなら解散ってことで……」

「い、いやあそういう訳には……」

「は、はあ……」


 曇天の下、全く会話は弾まない。なんか下手なナンパのようだと他人事のように思う。

 ちなみに引き留めてる方が私だった。なんか凄く惨めな気分だった。


「(クッソ、初対面相手に対して話題とかあるワケないでしょ!? あのクソ担任指揮官は『スタミナ切れ』とか言い出すし、こういう時くらい役に立てっつーの!)」


 『いやー朝から複数人とテレパシーして疲れちゃった。私今日はもう能力使えないからあとガンバって☆』と脳内に直接伝えられた時は流石にあの役立たずの前髪を焦がしてしまったが……正直自制した方だと思う。なんならもう2、3回くらい殴っても妥当だろう。つーか殴らせろ。

 溢れそうになるいかりを抑えつつ、私はチラリと隣を見る。


「(……バカのアドバイスでも今は欲しいわ……コイツが何考えてるかなんか分んねーわよ私)」


 四季巡はこちらと目を合わさず、曇天の空を見ながら歩いていた。それはただぼーっとしているだけなのか気まずさから逃げるためなのか、それとも。ただ確かなのは、今それを確かめる方法は私には無いことと、四季巡の方から会話を振ってくる気は無さそうだという事だった。


「(あーもう、話しかけて来いよ! 私外面はそこそこ良いでしょ! そりゃ誘ったのは私だし嫌われても仕方ないレベルの奇行をかましたのも不本意ながら私だけどさ、こう、なんか気を使えよ! だからクラスで浮いてんだよ多分!)」


 なんだか脳内で滅茶苦茶言い出した私をよそに、四季巡はこちらを向かず歩き続けていた。足は止まらず、朝ひと悶着あった例の角を曲がる。つまりタイムリミットは近かった。


「(マズい、このままだとホントに失敗する! こんな重要な作戦のメインポストで結果を出せなかったら「上」の連中にどう思われるか……ッ! あの通信能力者に責任を被せても、何年も積み重ねてきた私の評価が揺らぎかねない……それだけは、それだけは!!)」


 だが焦りに反して良案は生まれず、私たちは寮の前に辿り着いてしまう。


「あー……それじゃ、俺住んでるのここだから。もう解散ってことで……」

「(失敗それだけは――!)」


 もう自棄だった。


「ま、待って!」


 私は四季巡の腕を掴み、彼と目を合わせる。

 驚いたように見開かれる眼鏡の奥の黒い瞳。それを見て、もう後には引けないことを悟る。

 だから、せめてもの渾身の演技で用意していたセリフを放つ。


「あの……っ! 私達、昔会ったことがあるの! メグルくんは、その……憶えて、る?」


 ざあ、と桜の花びらが不自然に舞い、雲間が開いて私たちの周囲だけ陽光が射す。千里眼能力者と連動した念動力者による、少しでも雰囲気をよくするためのサポートだろう。内心で彼らに再度の礼を言いつつ、私は今の発言の意図を整理する。


 これが作戦の第三段階、バカ風に言えば「運命の再会!? 転校生は幼馴染!!」……もちろん命名は私では無い。

 それはともかく。

 共有された情報によると、四季巡は引っ越しの多い幼少期を送ったらしい。だからこの段階では「成りすます」。彼が過去関わっただろう異性に。

 名前も容姿も――最悪性別も、薄れた幼少期の記憶ならば問題ない。確証はなくともなんとなく「そういえば居たかもなこんな子」と思わせれば良い……要するにオレオレ詐欺の要領だ。ただ電話越しの詐欺と違い、実際に対面している人間の言葉を疑う人間はそう居ないだろう。多分。

 メリットは初対面よりは早く信頼されるだろうことと……バカ曰く「幼馴染は特別」らしい。だから幼馴染に成りすますのだと。正直その辺は疑っているが、こちらも代案を出せていないので従うしかない。

 そんな、苦し紛れとも反撃の一手とも言える私の言葉に……四季巡は。


「……えーと、多分人違いです……」

「——は?」


 滅茶苦茶申し訳なさそうにそう言った。

 彼はその気まずそうな表情と仕草を前面に押し出しながら続ける。


「俺、春咲さんのこと知らないし……あー、誰かと間違えてると思うんだけど。ほ、ほら、俺って結構凡庸だし、その人が俺に似てるなら間違えても仕方ないっていうか……」


 正直言って、予想外の反応だった。

 何かを思い出すそぶりも記憶を洗う時間もなく、ただ1足す1を2というように「人違い」と断じる。そんなターゲットの態度に作戦失敗の文字が過り、私は慌てて言葉を組み立てる。


「い、いやその、ホントに会ったことあって! ほ、ほら居なかった? 昔仲良かった友達とか……」


 誰でもいいから思い出せって! という私の心の叫びは、そのあまりにも悲壮漂う返答によって打ち消された。


「居なかった」


 へ?


「居なかった。俺、友達とか出来たことないし」

「えと、その……凄い昔の、ホントにちょっとの期間だったから憶えてないんだと……あれ? 今なんて」

「俺は今まで一人も友達が出来たことがない。大昔も幼少期も、ちょっとの間の友達すら居なかった。俺の人生に『友人』も『恋人』も存在しない、ましてや『幼馴染』なんてどこ捲ったって居ないんだ。たとえ数時間だけだとしても、俺が深く関わった人を忘れるわけない。だって……今までそんな人、1人も居なかったんだから……」

「……え、えーと……」


 なんか何も言えなかった。いたたまれない、というのか……そんな感じだった。ただどんよりと目を曇らせて悲しい半生を語る四季巡が哀れで、一瞬目的すら頭からすっぽ抜けてしまった。


「(はッ! そうだ幼馴染設定……ってココからどうすんのよ!?)」


 なんとか目的は取り戻したものの、正直詰みだった。この状況から居もしない知人に成りすますことなど、四季巡の頭に洗脳系の超能力を直接ぶち込まない限り不可能だ。そしてその手段は、審問会の介入を恐れた「上」が禁じている。

 ガラガラと音を立てて、私は自分が積み上げたキャリアが崩れていくのを幻視する。冷静に考えて、作戦は失敗。この第三段階はどうあがいても成功しないだろう。もう打つ手はない。だから。


「で、でも――」


 だから、半分諦めた私の口がそれでも足掻くように動いたことに、私自身驚いていた。


「で、でも私達がその、『幼馴染』なのはホントなの。お願いだから信じて欲しいな……っ」


 嘘でしかないセリフを、無意味かもしれない言葉を、それでも紡ぐ。喉元にまで迫った失敗から目を背けるように。

 だがやはりというべきか、そんなスカスカの言葉で目の前の男を説得できるハズも無くて。


「いや、だから有り得ないって……俺みたいなアリンコと春咲みたいなキラキラ系が幼馴染なんて……」


 ここまでか、そう項垂れた思考の裏で、一筋の電流が閃いた。


 ――そういえば。彼は教室でなぜ、私の言葉に頷いた?


 気付けば体は動いていた。四季巡の手を取り、引き寄せる。

 目が、合う。驚いた様に見開かれる眼鏡の奥の瞳に、自分の顔が映っている。

 諦めかけて潤んだ瞳、必死で赤らんだ頬と縋るような表情を、射した陽光を反射してきらめく赤毛が彩る。そんな自分の姿がどこか他人のように感じながら、私は言った。


「お願い。信じて」


 目の前の少年の顔が、赤く染まっていく。握った手が熱くなる。表情が崩れる。伝わる鼓動が熱を持って走り出す。そんな相手に隙を逃さぬよう追撃。


「信じて、くれる?」


 斯くして――四季巡は、目を回しながらも頷いた。

 それは冷静になって考えれば、大した意味を持たない肯定の強要。けれど私は首の皮1枚繋がったという確信と、新たに産まれた感情によってそれを理解することは無かった。


「うん、ありがとう」


 完璧に纏い直した外面えがおで、お礼をひとつ。


「……あー、それじゃ、また学校で!」


 そうして私はその場を後にした。小走りであてもなく道を行きながら、私の心は……外面で完璧に隠した内心は、地獄の釜の如く茹っていた。

 理由は単純。今しがた別れた、否、共に居ることが耐えられなくなったターゲットのせい。


 四季巡――彼はただの少年だった。「鍵」である自覚も警戒もない。友人が居ないことに悩み、異性に顔を赤くする、異能など持っていないだろう普通の高校生。

 それがどうしようもなく、癇に障る。


「(ふざけんな)」


 私はどこかで自分を納得させようとしていた。

 「連合」の趨勢を左右する作戦。私がそのキーマンとして抜擢されたのは、「私でなければならなかった」のだと。ふざけた指示に従わなければならないのは、『上』に私の実力を必要とされている」からなのだと。

 けれど違った。私は一般人の機嫌を取るという誰でもできるような任務に、能力でも実績でもなく、「顔と年齢」をあてに駆り出されたのだ。

 その事実が、私の中の怒りに薪をくべる。


「(ふざけんな、ふざけんなふざけんな! 私は「連合」屈指の発火能力者、春咲朱里なのよ! 若手の最高戦力なのよ!! それなのに、こんなおふざけに付き合わされるなんて――!!)」


 傷ついたプライドの隙間から溢れそうになる炎を必死に抑えながら、私は走った。

 私に割り当てられた過去最低のターゲット、四季巡から離れるように。

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