第23話 責任


責任を取る。


この言葉は色々な事情に使われる言葉だ、けれどどんな事情だろうとこの言葉の示す意味は一つ。


何かしらの結果によって伴った責務を自らが被り、何かしらで償うと言う事。


例えば借金の返済責任、男が女性を孕ませてしまった責任、会社や事業の失敗の責任...まあ考えれば色々と思いつくと思う。


じゃあ、人を殺した責任はどうやって償えばいいだろうか?


借金や事業の失敗に関する責任はその分の金を支払うか労働で支払えばいい、女性に関する事も...まあ養うなり結婚するなり教育費を払うなり...まあ色々と解決法はあるだろう。


じゃあ人殺しの責任は?


日本においては犯罪として一生の内の大事な時間というもので代償を支払わされる。

けれど僕は、一般的に犯罪として認知されていない、いやそもそも僕が喋ったから人が死にましたなんて、誰も信じないだろう。


だったら僕は聞くべきなのだ、殺してしまった人達に...どうすれば償いになるのかを。


そして彼らの望みがどんなモノであろうとも聞き叶える義務がある。


彼等は最初は困惑しながら「そんな畏れ多い!!」「誰が貴方様が殺したなどと世迷言を!?」なんて言っていて、どんなに言葉にしても、筆舌に尽くしても聞く耳を持ってくれなかった。


だから


「じゃあ今から僕が自殺するけど、それでいい?」


と、脅した。


本当の事を言えるように、願いを口にできるように...そんな彼等幸節家が出した結論は...


「ーーー」


その願いに僕は胸がキュッと締めつけられるような感じがした。


※※※※※


「美幸様、もう少しで着くそうです」


『うん、ありがとう』


僕は今龍星くんが用意してくれた黒塗りの座る場所が長い高級車に乗っていた。

何故龍星君がこんな凄い車を用意できたのか少し謎だけど...

 

結局あの後、僕達は話し合った。

 

どうすれば僕が殺した人達への償いになるのか?

 

そしてどうすれば玲香達を助ける事ができるのか?と言う話。

 

『僕が神になればいいんだよね』

 

話し合いをする時最初に僕はそう言った。

最初の部屋は襖が外され奥行きのある広い部屋となっていてその場に集められた幸節家の人がざわついたのを覚えている。


「美幸様が神になっていただけるのか!?」


「そうなればなんと心強いことか!」


「時透家との争いも最早意味を持たなくなるぞ!」


感極まったような声が聞こえる中、一番前幸節家の代表として座る義則は苦々しく目を伏せていた。


「それは...おすすめできないね」


待ったをかけるように話に割って来たのはネム。


「神になると言う事は、神の力を使えるようになりはするだろうが逆に言えば人にできる事ができなくなるという事でもある」


「.....」


「神は常に理由を付けないと動けないという誓約に縛られる、誰かを助けるのにも誰かと遊ぶ事にも、学校に行くのにさえ理由がいる」


はっきりとネムは言った。


「人と違い、神には自由なんてものはない」


「.....」


「誰かの願いに左右され、常に人の為に生きる...そこに君自身の感情という理論は存在しない」


「.....」


「君が生かしたい、と思っている相手を今後の世界をより良くする為に殺さないといけなくなるかもしれない、それだけじゃない、神になった時点で人が絶対的に囚われている寿命から解放される」


「.....」


「神に死は存在するが老衰は存在しない、君のことを大事だと言ってくれた人達が、君を知っている人達が年老いて死んでいく、君を独り残して」


「ネム殿」


「神は孤独の体現者だよ、そしていずれ壊れていくんだ、感情を捨てただの世界の為に尽くすだけの機械へと身を落とす」


「ネム殿ッ!」


「君あまりにも理解が足りない!君が必死に知らない事を補おうと努力して考えたのは理解できる!けどね、今まで耐えてきた幸節家に希望をくれだましをするような真似はッー!」


「ネム殿ッ!!いささか言葉が過ぎますぞ!!」


「美幸様に対する礼儀を考えろ殺されたいのか?」


怒鳴るような声音にネムが口を閉ざす。

ネムだって分かっているんだ、僕が神になれば全て一瞬で肩がつく、けれどそれは僕の人生全てを賭けた決断、そんな軽々しく口にするものじゃないという事だろう。


『別にいいよ、あいつらがいないくらいなら僕の人生くらい安いものだから』


「安いわけないだろう!君は彼らを助けてももう2度と彼等と会う事ができないかもしれないんだぞ!?」


「それは...」


嫌だよ、と言う言葉を静かに飲み込む。

覚悟は決めてきたはずなのに、いざ口にしようとすれば今までの思い出が頭によぎる。

もう二度と笑い合えないかもしれない、そう思うだけで僕は...いかに軽く神になると口にしたのかよく分かる。

けど、それ以上に例え笑い合えなくなったとしても、あいつらがいなくなる方が辛いから、


だったら僕がするべき選択はー


「美幸様、一つご提案がございます」


「提案...」


「美幸様が神にならず、玲香様方も助けて我ら幸節家への償いにもなるかと思われます提案がー」


「そんな、都合のいい答えがあるのかな?」


「ええ、ありますとも...それは」


その義則の提案に対して僕は静かに頷き、受け入れた。

そして僕は生涯続く、取り返しのつかない契約を行った。


※※※※※


この世界には神がいる、神は実在する。

ほとんどの人間が、内心存在する訳がないと決めつけているのだろう。

形だけでも何かに縋っていたいのが人間というものだ、それが例え空想上の存在だとしてもいざ自分に絶望や不幸が起きた時縋れる存在を欲している、弱く儚く傲慢な生物。

けれど人々は知らない、本当に神が存在していると言う事実を。

知らないからこそ縋るだけで済んでいる、とも言えるのかもしれないけれど。

そんな愚かな人達が私は嫌いじゃない、というかぶっちゃけ神なんている訳ないだろ?と無駄に達観してる奴らより困って私に縋ってくる人間の方がよほど可愛げがあるとは思えないだろうか?


「はてさて、今日はどんな人と出会えるかな」


東京都浅草寺のさらに奥、関係者以外立ち入り禁止の母屋の中、御仏前座布団であぐらをかきながら私はため息混じりにつぶやいた。

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