第9話 動き出すナニカ

銃声の掠れた音。

悲鳴と何かがごうごうと燃える音、場は騒然としていた。


「お前達は既に包囲されているッ!今すぐ人質を解放せよッ!」


アメリカ合衆国、テキサス州・オースティン。

そこの歴史ある議会議事堂にて過激テロ組織による立てこもり事件が発生していた。


「ったく、本当にうるせえ蠅どもだな」


「隊長あいつの頭吹っ飛ばしますか?この角度ならあたるぜ」


そういいながら獲物を構え始める物騒な男を、もう一人の男が止める。


「やめておけ...この作戦の重要性が分からないのか?」


「分かってますがよ、うるせえんですよあいつ...拡声器でぎゃあぎゃあと...」


「殺すならこいつらから選べ」


親指を向けるのは後ろで固まって捕まっている人質。

その言葉の内容に人質たちの表情が強張る。


「2、3人見せしめに殺して来い。我らが本気だという事を証明してくるといい」


「そりゃいいや、我らが求める真の自由の為の礎になってもらうとしよう」


「さーて、誰にする?女か?ガキか?」


恐怖を笑い、げひた笑いが響く部屋の中で...



一方その上空。



三角形上に三つのプロペラが着いた軍用ヘリが空に舞っている。

ボディは白色で欠けた月のマークだけが描かれていて、音一つさせずにゆったりと浮かんでいる。


「ねぇ、本気?」


その言葉をパイロットが呟くと、乗っていた制服姿の女は上空で重低音を響かせながらヘリの扉を開けた。


「本気と書いてマジよ」


「それ日本の勉強してる時に学んだ言葉?」


「...」


「歴史ある建物だから、できるだけ壊すなって上からお達しがきてるからね」


「人命の前なら建物なんか知らないわよ」


何のためらいもなく、風で銀髪をなびかせながら背面から落下した。

左手で腰から小さなボタン型の機械を手にして建物の屋上の上に投げつけると、目を紅桔梗のような怪しい紫色に輝かせる。

ボタンは落下すると同時にありえない程の風が吹き荒れ、不自然なほど落下する彼女を受け止めた。


「なんだお前ッ!?」


「撃て撃てッ!撃ち殺せッ!」


「じゃまッ!」


屋上にいた銃を携帯する男達が、すぐさま落下して来た女に銃を向けるが...

彼女が一度、指をパチッと鳴らすと、彼らの持つ銃が爆ぜた。


「なん、だとッ!?...」


「今、何を...したッ!?」


「ふんッ、神の奇跡に理屈などないわよ」


そう口にして、腰から抜いた拳銃で冷酷に正確に男達の眉間を撃ち抜いた。


「さてと、人質さえいなければぶっ壊して終わりなんだけど...そういうわけにもいかないし...めんどいわね」


そういいながら足に付けた拳銃を手に屋上から下へと下っていく。


「確か二階よね」


二階の扉を音がしないように少しだけ開け隙間から覗く、通路には武装兵が数人立っている。

(5人ね...)

扉の隙間から拳銃だけをねじ込み、瞳を一度閉じてから開き、怪しく輝かせる。

そして無造作に5発の銃弾を乱射した。

その銃弾は壁を跳ね、的確に男達のアサルトライフルを打ち抜く。


「なッ!?」


「ドカンッてね」


言葉通りにライフルの火薬に引火し少し異常なほど爆破した。

爆風の中を悠然と彼女は歩く、瞳の色が紅桔梗色から黄色い瞳に戻っていく。


「ここね」


腰のバッグから無造作に小型の爆弾を握りしめると、扉を思いっきり開けた。


「さよなら」


入ると同時に爆弾を適当にばらまいた。


「な、何ものッ!?」


その声をほとんど気にすることなく、人質がいることすら気にせず、右手の起爆スイッチで爆弾を起爆する。

爆弾は部屋一体を奇麗にぶち壊し、男達を爆破し、壁と床が崩れる、が..

何故か床が抜けず、怪我一つなく無事だった。


「人質は解放したわよ、後は好きになさい」


「協力感謝はする、感謝はするがッ...歴史的な議会がッ!」


小型マイクにそう一方的に告げるとマイクそこら辺に放り投げ、悠然と髪をかき上げて屋上へと昇って行く。

屋上には連絡を受けた、軍用ヘリが近くに近づいてきていた。


「お疲れ様です、リリ様」


「このくらい余裕よ」


「この後どうします?私的には観光したいなぁ~」


「観光はまた今度よ、それより一度本国に戻って、ジェット機拝借して日本に行くわよッ!」


「えっ!なんでまたぁ?...」


とても面倒くさそうに声を上げる運転手の女。


「めんどくさそうな声上げないッ!どうしても調べなきゃいけないことがあるのッ!」


キーキーと甲高い声を上げるリリ様に嫌気がさしたようにしながらも「へいへい」と、もう慣れているとでもいうようにつぶやいた。


(待ってなさいよクソ科学者ッ!必ず尻尾掴んでやるッ!!)


後ろの座席に足を組んで偉そうに座って、ポケットから取り出したのは少し焼けた跡の残る1枚の写真。


そこに映っていたのは...


だらけきった表情でゲーム片手にアメを咥えている高校生の姿だった。

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