第8話 人間になるために

「はい、一通りは分かりました。これまで通り別段異常はなさそうだね」


南大病院の二階の病室。

部屋は白塗りの壁で床は大理石。

背もたれのあるゲーム用の椅子に座りながら、目の前のお姉さんがカルテを片手に、もう片方の手でパソコンをいじっている。

パソコンの置かれたデスクにはたくさんの資料がとても奇麗に整理整頓されている。

なんていうか、病院て凄く白い清楚で奇麗なイメージがあるのは俺だけだろうか?まあ、そもそも赤色とかをメインにした病院なんて聞いたこともないけど。


「全くその歳で難儀な事だよ...言葉で伝えにくい事とかあるならこちらから親御さんに伝えてあげるから遠慮なく言いなさい」


そうやって言ってくれるのは、少しやせ気味のわりに強調されたものをお持ちな女性で、昔はこの人のおじいさんが僕の担当をしてくれていたが、途中で変って最近はこの人だ。

おじいさんもとても優しい人だったが、この人も凄く優しくさらに気さくだ、ただそんな人にこうやって嘘をつき騙しているのは少し心苦しいものがある。


『ありがとうございます、それでは』


「今日も、お父さんの所?」


『はい』


「あんまり思い詰めてはダメだよ?」


その気遣いの言葉は、僕を含めた家族に対する慰めの言葉。

もっと早く病気であることに気付いていれば...どうして気づけなかったんだ...という自分達を責めることが無いように、気遣ってくれているのだろう。

僕は、そんな事気にする必要なんてない...もっと責められるべきことが僕にはあるから、その心配は必要のないモノだ。


「医者としてあまり言ってはいけないが、結局私たちがしてるのはあくまで延命措置。死そのものがなくなるわけじゃない、結局私も君も死が早いか遅いかの違いでしかないのさ」


『理解しています、ありがとうございました』


先生の言いたい事は、分かっている。


(きっともう...父さんは...)


罪悪感を二重の意味で背負いながら、重い足取りで部屋を出た。






父は、心疾患だと発覚するまで、いつも通りの父だった。

いつも通りの朝だった、父も母も妹もなんらいつもと変わらない、一緒に朝ごはんを食べて父と母は仕事場に向かい僕と妹は学校に通う。

ただその日、父は顔色が悪く咳が止まらなかった。


「仕事が今忙しくてなぁしばらく休めないんだ...咳くらいほっとけば治るさ」


ずっとサインは出てた、なのにずっと病院に行かなかった。

その結果がこれだ。

きっと仕事場の人に迷惑をかけたくなかったのだろう、父は昔から、僕に口癖のように同じこと言い聞かせてくれた。


『自分が決めた道を貫き通せ、周りの言葉なんて気にすんな。自分が正しいと思った事、それが自分にとって一番正しい道のはずなんだからよ』


僕はその言葉と優しく頭を撫でてくれた父の姿を忘れたことは無い。


けれどその考えは果たして正しかったのだろうか?


父は、僕にとって道のようなものだった。

親鳥の後ろをついていく小鳥のように自分が生きていく道を照らしてくれた人。


「なのに...くそ...」


それが今、自分の行動を縛り付けている。

父との約束が、鎖で僕の体を...声をがんじがらめに縛りつけてくる。

歯をギリッと噛みしめて、183号室の部屋から奥を覗いた。

2人分のベッドがある部屋の片方、そこにはいくつものコードに繋がれた父がベッドの上で寝ていた。


「.....ッ」


何度その姿を見ても、僕は嗚咽のようなものを零しそうになる、涙が零れそうになる。

昔とは違い、明らかにやせ細った腕に身体、頬も痩せこけて。

黒色の髪は、ストレスからか白くなってきている...昔の父との違いに、今にも死んでしまいそうな...折れてしまいそうな父の姿。

呆然と呆けたようにベッド近くの椅子に、倒れ込むようにして座り込むと数十分ほど、昔の父との思い出に浸っていた。


「...ん」


そんな時、ベッドの上からうめき声のようなものが聞こえてきて慌てて立ち上がる。


「とお...」


咄嗟で言葉を口に出しかけて、足元に置いていたバッグから慌てて携帯パッドを取り出す。


「...美幸か?」


『ごめん、起こしたかも』


「いや、最近寝すぎなくらいだ...起こしてくれてありがとな」


そういって、体を起こそうとする父は...体を起こせずベッドに倒れ込む。


「悪いなぁ...なんか力はいんねぇ...」


歳は取りたくねえなぁ..なんて苦笑いを浮かべながら、ぼやく父は力ない瞳で僕を見つめる。

まるで、本当に今にも死んでしまいそうな...


『父さん、俺に構わず寝てていいから』


「そうか?...すまねえなぁ」


そういいながら視線が手元、パッドに向かう。

それを見て、父さんは僕の黒いマスクを見た。


「美幸、ごめんな」


『?』


「結局...お前の声、戻してやれなかったなぁ...」


苦し気で優しいその言葉が、まるで刃のように僕の胸中を切りつける。


「なんか悩んでたんだよな?...お前は生まれつきお兄ちゃん体質だったからなぁ...俺らに心配かけないように、黙ってるんだろ?...ふがいない親父ですまねぇな」


『そんなこ』


「...ッ!」


そんなことない、そう書こうとして、手からペンが転げ落ちた。

手が震えていた、それは罪悪感からだろうか。

慌てて、転げ落ちたペンに手を伸ばす。


「出来ることなら美幸の結婚式見たかったなぁ...美幸が選んだ人見たかったぁ...孫とも遊びたかったし...母さんも一人にして申し訳ねぇ...玲香は...お前がいるから大丈夫だろ...あいつも結構ため込むタイプだ、母さんに似てなぁ...だからちょくちょく話を聞いてやってくれ...それから―」


(なんだよそれッ...)


ベッドの下の転げ落ちたペンを強く握りしめながら、強い苛立ちを覚えていた。

まるで今すぐ死ぬみたいなことを言う父に怒りを覚えて...そんなことを言うなッ!なんて、そんな苛立ちの言葉を口にする事さえもできない自分に。

その後父は、しばらく口を動かしていつの間にか眠っていた。


(結局今日も...一言もしゃべれなかった...)


今日も、会話が出来なかった。


いつもそうだ、何度も何度も何度も何度も...


何度ここに足を運んでも僕は憶病で何も喋れない。


...普通の一般人にもし叶えたい願いがあって、その為に何をするべきかと聞かれるなら。


それは今、自分に出来る限りの事を必死にやるべき、それが普通だ。


けど、僕は普通じゃない。


僕が今、この先も父が生きてくれることを望んで、その為にできる事をする、となると...僕は口を開くことになる。


けどそれは...本当に人として許されることなのか?


僕は自分の望むことだけを叶えるなんて、そんな利己主義な事をするなんてとてもずるい事だと思うし、かといって誰の望みでも叶えるような神になるつもりなんてない。

ならどうすればいい?...


(いや、分かってる...僕はこの力を使わないと決めてるんだから...)


自分が決めたことを貫き通す、その通りに僕は父の為に能力を使わない、使えない。

もし使うのなら僕は...この世界の人達に申し訳が立たない。

僕以外の何人もの人達が、こんな風に親や恋人、友人との別れを経験しているだろう、それは自然の摂理だ。


そんな中僕だけが、そんな思いをしない。


果たしてそれは、正しい行いなのだろうか。

それが納得できない僕は父を救えない...だからって...


(納得できるわけないだろッ...)


自分をずっと育ててくれた肉親を、自分には救える手段があるのに見捨てるのか。

自分に生き方を示してくれた人が死んでいくのを黙ってみているのか...

今すぐにでも、言葉を喉からひねり出してしまいたい。

なのに、僕は心の底では思っている、この世界では何人も同じような思いをしている人がいるのに、自分だけ恵まれてていいのか?って。

癌で死んでしまうなんてこの世界ではありふれたことだろう、その中で一人自分だけがそんな流れを無視するのか?

いうなればこれは人間の伝統のような、ルールのようなものだ。

それを僕は破るのか?...と、自分勝手な意見を持つ自分に嫌悪感を抱く自分がいる。

それが僕の声を縛り付ける。


(何なんだ...僕は...)


助けたいのに、助けてはいけない...助けたくない。

大きな矛盾をはらんだ自分に押しつぶされそうで...

気づけば僕は病院を出て、駅の改札機を通り過ぎていた。

虚ろな、まるで病んだように階段を下りて駅のホームに降りていく..と...


「きゃーッ!!」


人がごった返す駅のホームには、悲鳴が響いていた。


♯5♯


(なんでこんなことになるのッ!?)

駅内は酷く混乱して、薄っすらと香る血の匂い。

少し前までは、はたして美幸君を私に説得できるだろうか?約30分ほど電車で揺られながらずっとその事を考えていたのに。


「ねぇ君?超いけてんじゃん、どう?俺と遊ばねぇ?」


「いえ、これから用事があるので困ります」


うざったいクソ金髪、ピアス野郎のナンパを我慢してたのに。

駅に着いた時の少し気の抜けるようなメロディーを聴いてようやく逃げれる、なんてほっとしたのも束の間。

電車から降りた瞬間...


「きゃーッ!!」


目的地に着いた途端これだ。

女性の甲高い声悲鳴が駅のホームに響き渡る。

(なに?痴漢とか?)

なんて思いながら少し背伸びをして遠くを見てみようとすると...


「殺人鬼だッ!!」


「逃げろッ!!」


「殺されるッ!?」


「いたッ!?」


「ちょッ押さないでよ!?」


逃げ惑う人たちにもみくちゃにされて、転んでしまった。

あいにく蹴られるようなことは無かった...その人ごみの隙間から見えたのは遠くで血まみれのナイフを手にしている男の人と、血だまりの中に沈む男性と女性。


「違う...俺じゃない...俺は悪くない...悪くないんだッ!」


ナイフを持った男性が何か言っているが...『1番ホームにご注意ください。車両が通過いたします』というアナウンスにさえぎられた。


流石美幸君、美幸君関係は事件が絶えない。


(ナンパから逃げれたのはいいけど...あの人たちあのままだと死んじゃうよね...)


ポケットのスマホに手を伸ばそうとするが人の波が邪魔でスマホを取り出せない。


(もう邪魔ッ!どこか人のいない場所、あっちの隅とか...ん?え...あれって...)


ありきたりな黒髪、服も目立ったようなものではないけど。

その黒いマスクを付けたその姿を、無数にいる人の中はっきりと見つけてしまった。


「美幸君...?」



♯6♯



悲鳴が聞こえた。


どうでもよかった。


人込みに体を叩きつけられる。


どうでもよかった。


身体が痛い。


どうでもよかった。


...どんなことも眼中にない、意識の中に入っていかない。

今頭の中にあるのは、ただひたすらに父を助けるための、見捨てるための言い訳づくり。

保身のための誤魔化しをただ頭の中で並べ立てている。


(...馬鹿みたいだ...)


目の前の焦り、焦燥感溢れる表情で走る人間達に、視線を向けた時だった。


「邪魔だどけッ!!」


一人の青年だっただろうか、金髪に耳にピアスをしているその青年は焦りながら僕を力の限り突き飛ばした。

何も身構えていなかった僕は、簡単に駅のホームから投げ出され、線路の上に背中から落ちて...


音がした。


響く電車の音、今にもこの場所を通り過ぎようとしている圧倒的重量感のある存在を...


足は動かない。


僕は、死ぬのか。


(ああ、聞こえてくる...)


死の直前、時間がゆっくりに感じるって...本当にあるんだ。

そう思いながら電車の音を聞き、僕は...


―どこか安堵していた。


(そうだ...いっその事死ねばよかったんだ)


それが一番正しい。

一番いい判断だったんだ。

これで今まで通り、普通の人間しかいない普通の世界に戻るのだから。

そもそも、こんな力を持って生まれなければこんなに悩むこともなかったんだろうか...


僕も幸せに...生きられた、のだろうか。


「美幸君ッ!?」


聞き覚えのある声に、視点動かすと目の前にはこっちに手を伸ばして駆けてきている玲香の姿。

いつから僕に気付いていたんだろう。


「動くな...」


「ッ!な..ん.で...」


(動けないッ!)


(もういいんだ...)


もし僕が本当にこの世界の主人公だとするのなら。

主人公がこんな風に死ぬのは、物語としてよくない、駄作もいい所の最低で最悪な結末。


けど、これでいいと思うんだ。


これで、この世界の誰もが僕に振り回されず生きていける。


「じゃあな」


最後の一言を告げて目をつむる。

だけど、納得していない奴が一人いた。

ギリッと歯を噛みしめた玲香は、まるで何かに縛り付けられたように固まったその体を...


「邪魔を...するなぁッ!」


一喝。


縛り付ける何かを引きちぎるようにして、駅のホームを蹴り突っ込むみたいに飛び込んできた。


「ぐはッ!」


「うっ...!」


玲香の体が美幸にタックルをかまし、転がりながら安全用の鉄網に大きな音を立てながらダイレクトにぶつかった。


玲香の体が腹部にめり込んで、背中を思いきり打ち付け呼吸が苦しい。


(玲香は..)


自分の体よりものしかかっている玲香の体に視線を送る、特に怪我をしている様子は見られない。

少し、自分の体を持ち上げて鉄網に背中を預けるようにして気道を確保する。


(...効かなかった?)


不思議でしょうがない、今までこんな事一度たりともなかったのに...不思議そうに彼女を見ていると、ふと顔を上げた。

彼女は、目尻を吊り上げ確かに怒っていた。


「どういうつもりなの!?私の邪魔してッ!」


あまりに圧倒された怒気に、つい素直に


「ご..ごめん、なさい...」


謝罪の言葉漏れた。


「ちゃんと説明してッ!」


「あ、え...その...」


パッドは...バックがない。

病室に置いてきた?違う、多分何処かで落とした。

(人込みの中か?...どうしよう...)

この状態で一体どうやって...喋らないと。


「ぼ、僕は...」


何年ぶりかの会話に緊張していた、喉が張り付いて上手く言葉が出てこなくて...


「死にたかった...」


能力発動をしないように、適切な言葉を選んでいく。


「こんな能力があるから..他の人より選択肢が増えて、こんなに苦しいのなら...死んでしまいたかった...能力と一緒に消えたかった」


影響を及ぼさないように怯えながら言葉を口にしていく。

怯えたそんな僕を...目の前の彼女は優しくひっぱたいた。


「甘えないでよッ!...」


「.....」


「その能力が何よ、私は羨ましいのに嫌いって死ぬって...私には才能がある人が嫌味を言っているようにしか聞こえないよ!」


「...僕の能力は、才能なんて高尚なものじゃなくて...人を、世界を変えてしまうような...」


まるで核兵器の起爆スイッチを持たされたようなもので。

そのスイッチを間違って押さないようにびくびくして生きてきて...

(もういっその事...そのスイッチを押してしまえたら...)

どんなに楽だろうって、考えてる僕は人としてダメなんじゃないかって...

だから、もう僕が人じゃなくなる前に死んでしまえば...


「美幸君、君は神様じゃないよ...」


気づけば流れていたその涙を、まるで抑えるように玲香はそっとその体を優しく抱きしめてくれる。


「どうして君はそのスイッチを押さないの?自分の欲望の為に押しちゃえばいいんだよ、それが普通の人間だよ。なのに君は、ずっと他人を、世界を気にして、気遣って力を使う事を我慢して...君はまるで本当に、全てに平等な神様みたいだよ?」


普通の人間がもし願いを叶える力を持ったらそれを自分の為に役立てる、欲望のために使うだろう。

好きな子を振り向かせたり、嫌いな子を痛めつけたり、宝くじとか当ててみたり...いっその事世界征服とか...そんな順風満帆の人生を歩んでいくはずなんだ。

確かにそれは褒められたことじゃないのかもしれないけれど...それが力を持ってしまった普通の人間のすることだと思う。

なのに美幸君は、世界を変えないように力を隠して、世界の為と自分の将来や未来さえも閉ざして...そんな人を人間だと言えるだろうか。

あまりに化け物じみた理性、いや神様的在り方が過ぎる。

まるで人類に影響を与えないように世界を見守る神様そのものだ。


「君は、そのスイッチを押すべきだよ...神様になるためじゃなくて、人間になるために!...」


そうなのだろうか...今僕は人じゃないのだろうか。

この世界に影響を及ぼさないように、自分の人生を捨ててこの能力と心中するのは人間として正しい行動じゃないのだろうか。

そんな僕は...間違っているのだろうか...いや、間違っててほしいと思っている自分がいる。

そうすれば僕は...


「ねぇ神様、君は人に戻るために最初に何がしたい?」


僕は...能力を使う事が人として正しい行為なのなら...

もし、自分の好きなように能力を使っていいのなら...


「...父さんを...救いたい...」


掠れた声で僕は...

願いという名の、起爆スイッチを押したんだ。


「じゃあ行こうッ!」


彼女は、こんな僕を引っ張っていく。




気づけば僕は病院に居て、いつの間にか父さんの病室の前にいた。

ここから一歩でも前に出れば、僕はこの能力を自分勝手に使うだろう。

それは本当に許されていい行為なのか?

ここが最後の引き返し地点だぞ、と心の中のもう一人の僕が口にする。

そんな僕を彼女は鬱陶しそうに突飛ばす。


「うじうじしないでよ、美幸君は助けたいの?助けたくないの?どっち!」


「...助けたい」


「なら助ける!はい入るよ」


その最後の引き返し地点はいとも簡単に踏み越えてしまった。


もう、後戻りはできない。


ならもういっその事...使おう、使ってしまおう。


「父さん、起きてる?」


閉じられたカーテンを開けるとそこには、眠っている父の姿。

その表情はとても苦しそうだ...けど、それも今日で終わり。

もう、覚悟は決めた。


「父さん...僕はもう、父さんとの約束は守れない」


まるで何か、胸の奥を縛り付けていた枷のようなものが外れたように体が軽くなる。

がんじがらめに縛って心の奥底に沈めていた何かが浮き上がってくる。


「僕は一度決めたことを貫けるような強い人間じゃなくて...優柔不断で、結局友達に後押しされてようやく決心できたんだ...僕は、ちゃんとした人間になるよ...人間らしくちゃんと生きてく...だから―」


いつの間にか溢れそうになる暖かい何かを押さえつけるようにして、微笑むように願いを口にした。


「―これからも健康的に生きて、死ぬまで僕の人生を見守っていてください」


瞬間、部屋に暖かい光が溢れる。


「わぁ...奇麗」


それはまるでスノードームの中に閉じ込められたみたいにキラキラと雪の結晶のように舞って、父の体を包み込んでいく。

数秒後、それらはまるで幻だったかのようにきれいさっぱり消えていた。

代わりにそこにあったのは、健康的な安らぎの表情でベッドに横たわっている父の姿。

(これで...よかったんだよな...)

もう不安や後ろめたさは消えていた。

そんな事よりも父を救えたことが嬉しかった。

絶対に僕一人じゃそんな決断を下せなかっただろう。


この決断をすることが出来たのはひとえに横の彼女のおかげだ。


彼女はいとも簡単に、笑いながら僕に道を示してくれた。

僕のように自分の意見を押し付けるだけじゃない、最善で一番自分らしい道を提示してくれる。

それは偽物の主人公ぼくには決してできない事で...

もしかしたら、僕の目の前にいる彼女こそが―


―主人公なのかもしれない。













誰も気づいていない、父が眠るベッドの下、濡れている小さな白い塊が触手を伸ばし、もがき解けるように消えていった。

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