第7話 友人
世界が嫌いだ。
世間が嫌いだ。
流行りというモノが嫌いだ。
人間という生き物が嫌いだ。
自分の一言で簡単に変わるような、軽いモノが嫌いだ。
世界だって、世間だって、流行りだって、人間だって、どうせ一言で思い通りに変わるのだろう?
そんなものを楽しんでいる人間達が嫌いで、楽しめない、価値感を見出せない自分が嫌いだ。
そんな価値観を押し付けてきた、こんな能力が嫌いだった。
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、僕の頭の中はいつだって嫌悪感のオンパレードだ。
けどそんな事は微塵も表情に、感情には出さない。
推し固めてギッチリと縛り付けて、この力と一緒に心の奥底に沈めておく。
じゃないと、感情なんてものを出してしまったら...歯止めを効かせられる自信がない。
―もし、こんな力が無ければ周りの人と同じように笑えていただろうか?
そこに、僕もいたのだろうか...
そんな嫌悪感の裏に隠れた願いは...あり得ない、なんて今日もごみ箱に投げ捨てて目を覚ました。
♯4♯
さてはて、お日柄も天気も良い本日私は遊佐高校に来ています。
しってた?お日柄って天気が良いとかじゃなくて、その日の運勢的な意味合いらしいよ。
最近私は初めてその事を知った。
どうしてこう、日本人は遠まわしに言いたがるのだろう?はっきりと『今日は運勢もよろしく』的な感じでよくないだろうか?そっちの方が直接的で相手に伝わりやすいと思う。
―さて、どうしてそんな話をしたかというと、私は今日ある男の子を口説かないといけないからだ。
口説くというよりもこの私、胡桃玲香の人生をかけて見せるとういう意思表示をするため。
「なんで美幸君、この部活に入ってるんだろ?」
というわけで、今日は学生大歓喜の土日休み。
だけれど、何やら美幸君の入っている部活は休日もやっているらしい。
人との関りを避けているような感じだったのに、部活には入ってるんだ、と少し驚いた。
そんな美幸君が入っているのは部員数二人だけのクラブ的なもの[遊び追及会]
果たしてなぜオーソドックスな研究じゃなくて追及なのかは不明だけれど。
(少し緊張するなぁ...)
美幸君に認めてもらうために考えた作戦があまりにもその、恥ずかしいので少し緊張して、息も整えて...いざ!と、ドアを数回ノックした。
「ご自由にどうぞ〜」
という、試食コーナーで言われるような言葉が気だるそうに聞こえてくる。
声を出してる時点で美幸君ではないな、と思いつつもそのままドアを開けた。
「おじゃましまーす!...あれ?」
ドアを開けるとそこは、部室というには本棚やテレビに接続型のゲーム機が置かれている程度のかなりスッキリとした部屋で、中はクーラーがよく効いていた。
そんな部屋の中には、机に脚を駆けながら飴を口にしている少年が、1人。
こちらに振り向くことも無く、ひたすら携帯ゲーム機を動かし続けている。
「美幸君は?」
「んぁ?美幸の知り合いか?」
寝ぼけたような声を漏らしながら、黒髪の少年はパイプ椅子から降りて立ち上がる。
「ようこそ遊び追及会へ、美幸なら今日は来てないぞ」
「そうだったんだ...はぁ~わざわざ休みの日まで学校来たのに...」
運悪くも出会うことならず、わざわざこの熱い中休日返上して来たのに...と項垂れていると。
「まあ、ドンマイだ胡桃玲香」
なんて言いながら、「冷気が逃げるから閉めるぞ」と言われ「あ、ごめん」と慌てて部室の中に入る。
「あ...私の名前知ってるんだ」
「ああ、変人だって有名だからな」
その一言で、体が固まった。
真顔で未開封ペットボトル[いえーいお茶]を出されながら凄い事を言われた。
「私...ゆ、有名なんだ...へぇ...」
「まあ、四大女子の一人だしな」
「な、なにそれッ!?」
四大女子。
それはこの遊佐高校において男子陣の独断と偏見をもとに作り上げた可愛い・美人などのランキングで毎回トップを牛耳る四人の女子生徒である。
これがなかなかに闇が深く、入学当初学校のアドレスを登録すると何故か男子生徒にだけ送られてきて、さらに1人1票だけ投票もできる。
感覚的には半年に一回の頻度で行われるランキングだが、当然女子で知る者はほとんどいない。
なにせ女子に漏らすことは禁止と暗黙の了解となっており、漏らせば最後、男子女子共に怒りの矛先を向けられる事は確かなのだから。
そこで玲香は新一年四大女子の不思議ちゃん枠に入選している。
ちなみに逆に四大男子というのもあるのだが...
まあ、当然一般的な女子生徒である玲香が知るわけもなく...
(やばっ!私そんなに変な目で見られてたの?...)
こんどから少し自重しようかな...なんて少しダメージを受けていた。
「ところで美幸にどんな要件で?」
「え、あ...うーんと、告白かなぁ...なんて」
とりあえずいい感じにふざけたことを言ってみる。
変人って言われるのこういうとこだと思うけど、まあ嘘じゃないし。
「へぇ...胡桃さんが美幸の事をねぇ...もしかしなくても打算だったりするか?」
「打算?」
「なにせ、あいつは神様らしいからな」
神様、と目の前の彼は口にする。
その言葉を言うのは私が知る限り、変人生徒会役員だけなんだけど...
(まさか...この人も...?)
美幸君信者だったりするのだろうか。
「それって...」
「この部活を作る時生徒会の奴がそう言ってた」
あ、そういう事かぁ...
この人部活申請をした時に龍星にでもいわれたのだろう。
「あの変人生徒会長め...」
「ん、違うぞ?」
「...え?」
「俺が言われたのは北代龍星じゃなくて、ブロンドヘアの女だ」
それとなると、思い出せるのはあの時柔和な笑みを浮かべながら立ち去った彼女だろう。
「へぇ...」
じゃあこの人は何も知らないのか。
ただ周りの変人たちに美幸君が神だとか教えられているだけで。
...それにしても美幸君信者はほかにもいるのだろうか?本人は酷く嫌がってるのに...
「だから、君も神の美幸に打算で告白するんだろう?」
「打算って...」
まあ、確かに美幸君と付き合えれば将来安泰...かなぁ?
毎日、今日は良い事があるよ、とか言われながら宝くじ買いに行けたら...最高かもなぁ、なんて。
それはあくまで本人がoKを出したらだけど。
「じゃなきゃどんな理由があってあいつに告るんだよ、他に何かあるか?喋れないっていうデメリットを補うなにかがよ」
「それは...」
私はまだ全然美幸君という人となりを知らない、普段はどんな人でどんな性格で、どんな価値観を持っていて...なんて、私は全然知らない。
唯一知っているのは、あまりに精神が化け物じみている、という事だけ。
「悪いけど、それなら居場所を教えるわけにはいかねぇし、邪な気持ちの告白なら邪魔もさせてもらうから。あくまで俺は、あいつの友人のつもりだからな」
「ふーん...凄いね君」
友人の幸せを純粋に願える人間というのはとても貴重な存在で、私はそんな人間を尊敬できる。
人間はどんなに取り繕おうとも結局自分が一番大切なはずなのに。
こうもはっきりと美少女である私に、それも初対面の相手に対して自分の意見を述べて、美幸君の幸せのために敵対できるなんて...
「んー、凄くはねぇよ...それに半分仕事だし」
「仕事?...」
目の前の彼は、喉を右手で押さえながら確かめるようにかすれた声を出して。
誰かさんを真似するように彼は言葉を述べる。
「『私の美幸様に近寄る害虫を駆除なさい』と、生徒会のそのブロンド女に命令されてな」
「わぁ、完璧にまねするじゃん」
その人の願望から何まで、マネされたくないことまで...
なんていうかこの人結構腹黒いのか?てか、私の想像していた美しい友情と言うわけじゃなかったみたいだし。
世間って...世知辛いよね。
「悪いんだけど、害虫駆除しないとクラブ存続できねぇからなぁ...とはいえ」
「.....ん?」
「俺の条件が飲めるのなら、今日何処にいるか居場所を教えてやるし、協力してもいい」
「別に邪魔さえしなければ協力はしなくてもいいよ?」
「おいおい、お前らが神とかあがめている美幸が唯一心を許している友人の俺だぞ?つまり俺も神といっても過言ではないッ!そんな俺の協力だぞッ!」
「...なんか神らしい力あるの?」
確かに考えてみれば、見るからに一般人にしか見えない彼と美幸君が友達になるだろか?
もしかしたら...何かしら特別な何かが...
「ふっふっふっ...聞いて驚けッ!ゲームの為に六日間なら徹夜できるッ!」
ないらしい。
「六日って...それなら一週間徹夜しなさいよ、中途半端ね」
「一週間行くと逆に眠れなくなって、一日ごと記憶が消えてく」
「なにそれ怖」
思ったより普通な男子生徒、と言った感じだ。
特にゲームが好きなだけの男子生徒、どうして友達になろうと思ったんだろう?
「お前今口滑らせたな」
「へ?」
「『神らしい力あるの?』まるで美幸には何か力があるみたいな言い草だな?」
「あー、んー?そんなことないよ、ただの言葉にそんな意味ないって」
「ふーん?それはまあいいか...それよりも条件だな」
「条件?」
「どうして神なのかという話だ」
「それは...」
「神である理由を言うなら、美幸を落とすの手伝ってやる」
彼は、いまだに名前を名乗ることもなくまるで悪魔みたいに二択を突きつけてきた。
「理由を言わないなら悪いが俺は邪魔させてもらう」
「それでも言えない...言ったらそれは美幸君を裏切ることになる」
「...じゃあ俺に邪魔されることを選ぶのか?俺、口固いぞ?」
口が硬いとか緩いとか関係ない、私は美幸君に人生を賭けなくちゃいけないのに、始めっから裏切るなんて私自身のプライドが許さない。
「それでもだめ、私は美幸君の信用を勝ち取らなきゃいけないの、裏切れるわけないでしょ」
「バレなきゃ裏切ったことじゃないだろ?」
「それでもダメです」
かたくなに首を縦に振らない私に対してまるで脅すように一歩ずつ近づいてくる。
とても不気味な笑顔を浮かべている彼、少し怖い...一歩ずつ顔をこわばらせながら私が壁際まで寄りかかったところで...
「よし合格ッ」
口角をにッと吊り上げいきなり彼はそう言ったのだ。
「へっ?...」
「俺も、無理に聞く気はねえさ。そういう大事なことは本人から聞くからな」
「じゃあ、何のために...」
「お前で13人めだ」
「え..っと?」
「一時、美幸目当てで訪ねてきた人数だ」
それを聞いた時、ぞくっと背筋が凍りそうだった。
その、目の前の彼がした苛立ちを隠そうともしない怒りの表情に。
「どっかの馬鹿女の一人が偶然美幸の力を知ったらしくてな、それをメールかなんかでばらまきやがった...くそどもが...まあ口の緩い女は嫌いだ」
要するにちょっとした試験的なものだったみたい。
やっぱり友人思いだったみたい?...それともそんな理由で部活まで押しかけてくるのがうざかっただけだろうか?
「けど、お前は口も堅いし、本気で美幸の気持ちを第一に考えてるし、告白とか面白かったから合格だ。主に後半が大きな理由だけどな」
「あ、あははははは...ってか知ってるんだね、美幸君の力」
その確かめるような質問に、彼は少し不機嫌そうに「まあな」とつぶやいてパイプ椅子の背もたれに寄りかかって、ぐでっとだらけ始める。
「さすがに13人の話を聞けば察しはつく...といっても詳しくは知らねぇし知る気もない、美幸が話したら聞くスタンスだ俺は」
自らは踏み込まず、だが踏み込んでくるならば受け入れるし話も聞く、そういう立場だと彼はいった。
「とはいえ、この前はあまりにあんまりな顔してるから踏み込んだがな...」
あの時の夕暮れ空に照らされる虚な美幸の表情を思い浮かべながら、蓮斗はそう言葉をこぼす。
「ん?」
「気にすんな、こっちの話だ」
「ところで、私以外の12人はどうなったの?」
「さぁ、生徒会に消されたか、美幸が記憶を消したかだろ...お前はどうなるかな」
「見てなさいよ、私は簡単に諦めないから」
「そうかい、それで美幸の居場所だけどな...休日ならまあ、ここだろ」
見せてきたのはスマホに写し出された、病院の写真。
ここから電車で30分くらいだ。
「南大病院っていう国立病院だ、場所は自分で調べてくれ」
「病院?どうしてまた」
と、質問しつつ我らがグーグル様に南大病院と検索する。
どうやらここから電車で30分くらい。
「数回、俺も付き添いで行ったことがあるんだが...まあ、なんだプライベートな話だ。当然―」
「他言無用でしょ?」
「分かってんならいいんだ...ぶっちゃけるとだな、あいつの父親が入院してる」
「へぇ...何か病気なの?」
「詳しくはしらねぇが...心疾患らしい...」
心疾患、多分心臓の病気?
あまりよくわからないけどやばいんじゃないだろうか。
友達のおじさんが、おばあさんが、有名人が亡くなったとかよく聞くし、死亡率かなり高かったような...
「このままじゃ確実に死ぬだろうな」
「でも、それってさ...」
「まあお前が思ってる通り、美幸の親だ。普通は死なない」
そう、あの美幸君の親。
美幸君が一言、言葉を口にするだけで全て解決する、病気なんて意味もなさない。
「それでだ、電車代出してやるから...美幸を説得してくれないか?」
「.....え?」
「このままほっといたらあいつは、必ず壊れる」
神様の友人は今だ名乗る事すらせずに、横暴な態度で最近金欠気味な私の懐事情を的確についた、ほぼ命令に近いお願いをしてきた。
「手持ちこれしかねぇや(万札)」
「ひゃっほいッ!!」
(なんだコイツ...)
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