第5話 尾行調査

今日は、いつも通りの日だ。

いつも通りに登校して、授業を受けてお昼は部室でご飯を食べ、また授業を受けてそのまま帰る、そう特に何も変わらない日常。

一人の女子生徒を除き、特に視線を向けられるような、過度に気にされるようなこともなく、誰かに変なちょっかいをかけられる事もなかった。

どうやら昨日の女子生徒は僕のことを誰かに話したりはしていないらしい。

ということは、疑ってはいるけど確証がないから言わないのか、それとも、そもそも人の秘密を吹聴するような性格じゃないから、のどちらかだと思うのだが...果たして彼女はどちらなのか。


(まあ...正直それはどうでもいいと言えばどうでもいい)


結果的に、今こうして無事に一日を終え下校する事ができているのだから、いつも通りの日常に満足するべきだ。

...後は、後ろからついてくるその彼女さえどうにかできればさらに大満足なんだけど。


(あれでバレないとでも思ってるのか?)


下駄箱の裏、校門の裏、木の影、人込みの中、電柱の影、体を隠して、じー、とこちらを睨んでくる。

思いっきり体はみ出てるけどね。

別に尾行されるのはいいんだけど、それよりも下校中の生徒からの『なんであいつ尾行されてるんだ?』みたいな訝し気な視線の方が痛い。

というか今更だけど、どうして僕が気づかないふりをしなくちゃいけないんだ?あんなの気づかないとか逆に馬鹿がすぎるだろう。

かといって、気づいたら絶対質問攻めになり面倒くさい展開になる。

はぁ出したものかな...このまま家に帰って、家バレするのもアレなので遠回りして家につかないように適当にぐるぐる回っていると、気づけばあの化け物のいた公園まで来ていた。

周りに人の気配もない、小学生達はもう家に帰った頃だろうか、それはかなり都合がいい。

一先ず公園の入り口付近の自販機で、飲み物を二つ買う。

そのままカバンからノートの1ページを引きちぎると、しまい忘れていたシャーペンを胸ポケットから取り出し、さらさらと文字を書き公園へ入った。



♯3♯



(ん?ここ...あの時の公園だ、何しに来たんだろ)

絶賛尾行中の私は、今あの事故現場に来ていた。

ほんの数日前の出来事、あの時の私が今の私を見たら絶賛はされなさそう、むしろ私が将来尾行をするような女だと知って、しょっくでむせび泣いていそうだ。


...けどもッ!!この全く気付かれていない、華麗な尾行術を見ればそんな悲観も笑顔に変わること請け合い。


なんてったって、全くバレていないという現実。


(将来探偵とかになろうかな。いやむしろエージェントとか?私ならいけちゃう?)


なんて夢を膨らませていると、美幸君が公園の中へと入っていった。

バレないくらいら距離が開いた後に、公園の入り口まで駆け足向かい、すっと自販機の下に隠れる。

そこで公園の中を覗こうとすると、青いポールの手前に一枚の紙が落ちていた。


(ん、なにこれ)


明らかに不自然に落とされたそれを手に取ると、そこには...


『公園でお話を聞きます』


(ば、バレてるーッ!?)


畜生!気づかれていないと思って一人で盛り上がってしまったじゃないか。

あ~はっずぅ~!!...まあ?美幸君以外にはバレてないからいいけどぉ?それでも結構一人で舞い上がっていたのは事実でやっぱ恥ずかしい。

耳わほんのり紅くして、公園の方をキッと睨むと胸の奥で悪態をつきながら、紙をぐしゃりと握りしめた。


『追伸 飲み物は甘いモノでよかったですか?』


(大好きだよば~か!!)

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