CASEゲーマー&予言者

五億年世界

あれから一体どのくらいの時間が経ったのだろう。

少なくとも、数年間時間が経過したところまでは覚えている。

私と彼との耐久合戦は、まだ終わるきざしはなかった。


私にとって救いであることは、彼の限界は、私が守るべき参加者よりも先に来ることが予見できていること。

後は私が彼の限界を超えればいい。


しかし、それはそこまで単純な話ではなかった。

地上全ての空間に壁を作った故に、私はこれ以上新しい物を生成することは出来なくなっていた。

彼の限界を待つ為には、その何もない時間をいつまでも過ごさなければならない。


そんな私は今、私がここで耐えつづけ、現実世界を救えた場合の未来を予見することで時間を潰している。

私が耐えつづけることで救える世界、考えることとしては非常に丁度いい。



あれから一体どのくらい時間が経っただろうか。

僕は、いまだに彼女と耐久ゲームをしている。

どれだけ年数が経過しても、彼女から攻撃してくる気配は見えてこない。

僕にはもう、彼女の考えを理解出来てしまっていた。


未来を予知することができる彼女には、僕の限界がいつ来るのかまで細かく知っているのだ。

しかし、彼女は僕でも分からない僕の限界を知っているだけで、彼女自身の限界が来ない訳ではない。


幸い、僕には壁にはばまれなかった生成プレイヤーキャラの空間がある。

その空間でゲームを作って遊びながら、この途方もない時間を過ごしていけばいい。


地上全てに壁を作り、他に生成する気もない彼女には出来ない芸当だろう。

予言者よ、これが思考レベルの差というやつだ。



あれから更に時間が経過した。

ここでの私達の時間の経過が、現実世界にどう影響しているのかは想像をするしかない。


しかし、私の目的が達成され、世界を救った後の現実世界は、直感で予見しつくしていた。


もし、私がこのゲームで現実世界を救えたとしても、訪れる未来は悲劇であった。

近い将来戦争は必ず起こり、それが終わっても争いは止まらない。

これが見えているのは、私が根っからの悲観主義者だからなのであろうか。


いや、これは

結局、人間の欲というものは個人に止められないということだろう。

あまりに死ぬ可能性の高いこのデスゲームに、参加者が八人全員すぐ集まったように。


現実世界の未来を最後まで見届け、時間を過ごし続けること。

非力な私にはそれこそが、あの現実世界で最善の未来を得る、今残された唯一の方法だった。



あれから更に年月が経っていった。

僕は、生成したゲームをかなり使い潰していた。

僕のいた世界では、どれだけ新しいゲームが発売されたのだろうか。


僕が生成しているゲームは、既に僕が存在を知っているゲームだけだ。

ゲームを通じて、その開発者が作りたかったもの、なぜこのゲームを作ったのかが読み取れようとも、その開発者さえも知り得ない未来のゲームは作りようがないのだから。


彼女は未来が見えている。

彼女は一体どれだけの未来を見続けて、この時間を過ごしていったのだろうか。


彼女がそこまでして手に入れたい未来とは何なのか、未来の見えない僕には、彼女の思考を考えていくしかすべがなかった。



もう、時間の経過も覚えていない。

私にもそろそろ限界が近づいてきたようだ。

しかし、彼も限界が近づいているはず。

私はこの何もない時間をできる限り待ち続ける。



もう、時間の経過をカウントする意味すらも分からない。

彼女の思考を考え続け、僕にも彼女の意思が伝わってきた。

これは結局日本予選、僕が優勝したところで井の中の蛙になるのがオチだということ。


僕は世界的なゲーマーだ。

あらゆるゲームの世界大会も優勝してきた。

しかし、このデスゲームには、ゲーマー以外の天才も参加する。


「対人戦を行うときは、対戦相手の思考レベルに合わせろ」


もし、僕以上の思考を持っている狂人が、世界大会に参加してくるなら、僕の優勝なんてものはないし、この予選なんかより酷い死に方をする。

あの予言者は、そんなとんでもないものを予言してしまって、僕を心配していたのかもしれない。



私の直感が正しければ、彼はもうすぐ自殺するだろう。

私にも、悲観的以外の直感ができたことを嬉しく思う。

私の使命も、ここで終了だ。



僕にも彼女の予言が見えてしまったようだ。

ここで勝っても僕に未来がないことを。

仕方ない。

これは人生で初めての、僕の敗北だ。



私は、私自身のこの楽観的直感を信じてここで死ぬ。

僕は、見えてしまった彼女の思考を信じてここで死ぬ。


『参加者が二人死亡しました。おめでとうございます、優勝者が確定しました』

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