ラプラスの天使⑤

私が第一に考えるべきは、世界を救う希望である一人の参加者を守ること。

しかし、今まで世界を救うことを第一に考えてきた私にとって、ここが仮想世界であったとしても、このテロリストの世界蹂躙せかいじゅうりんは痛々しいものであった。


テロリストが増えては人や街を破壊し、また増えては破壊する。

もはや私一人の力では、あのテロリスト達にどうすることもできなかった。


これこそが、私が私に向けた予言。

「このゲームに参加しているテロリストが、何か大きな事件を起こし、私はそれを防げない」であったのだ。


しかし、この状況はしくも、私が守るべき参加者を守れる絶好の機会になっていた。

私は、家屋でいまだに寝静まっている、その参加者を取り囲むバリアを張る。


この家屋も、いつかは倒壊するだろう。

それこそが、私にとって都合のいい状態になる。


テロリストがこの世界全体の破壊を起こしている。

裏を返せば、全体的に破壊しているということならば、個々の細かい場所は乱雑らんざつになってしまうということ。


そんな予想が立てられたとしても、悲観主義の私は、あらゆる可能性を想定しながら守るべき参加者を守っていく。

バリア以外にも様々な仕掛けを施しながら。


このゲームが始まる前のこと。

私は、その守るべき参加者以外の人物が優勝してしまった場合の未来を予見してしまっていた。


まず前提として、今行われているこのゲームは日本予選であるということ。

優勝が目的の参加者は、このゲームで優勝した時に、世界大会決勝への切符が手に入り、そこに進んでしまうということ。


そしてこのゲームで優勝し、進んでいった参加者は誰であれ、その世界大会で負けてしまう。

いや、もし負けずにそのまま世界大会に優勝したとしても、出力される結果が同じなのは目に見えていた。


優勝者に与えられるものは、現実世界において行使できる、私達参加者が今使える能力よりも更に強力な力。

制限がかかっている今の能力ですら、今この世界は焼け野原と化してしまっているというのに。


誰かがそんな力を現実世界で手にしてしまったら、世界が滅んでしまうのは想像にかたくない。

故に私は、その未来を変えてしまえる存在、あの参加者を何が何でも守りぬくと誓った。


現在残り参加者は四人。

テロリストが他の参加者を誰も見つけられず、テロリスト自身同士で争いを始めた。


そして、私もまだ最後の参加者を見つけきれていない。

恐らくその最後の一人が、核や怪獣を出現させた人物なのだろうと、私は直感で確信していた。


あのテロリストがどれだけ暴れても、彼はまだ生き残っている。

このゲームの最後は、一人の参加者を守りたい私と、その二人とも殺してこのゲームを優勝したい彼との一騎打ちになると、直感で予見をするまでもなく、そう確信できた。


『参加者が一人死亡しました。残り参加者は三人です』


あれだけこの世界を埋め尽くしていたテロリストが、一人残らず消滅していく。

もしかしたら、この世界で生き残っている人間は既に、私含めた参加者三人だけになっているのかもしれない。


私の直感は当たる。

この状況になった時点で私の作戦は決まっていた。


ここからは、彼もすぐに仕掛けてくるだろう。

だけどその前に、彼が手出しを出来ないように私がすぐに仕掛ける。


私はまず、今いる地下から瞬間移動で地上に戻り、そのまま高く空中に飛び固定する。

そして私は、地上にある物質と、私以外の参加者半径50cm以内をのぞに、それ一つで全ての世界を覆い尽くすような高密度の壁を出現させた。


それを作った後、私は状況を細かく調べる。

私が守るべきあの参加者の場所以外に、空洞が空いていて誰かいる場所が、一カ所だけ見つかった。


あれは彼本人なのだろうか、それとも彼が作った人物なのだろうか、それとも何も関係ないNPCなのだろうか。


どれにせよ、私の力では正攻法で彼を倒すことはできないだろう。

幸い、守るべき参加者は、いつまでも続くであろう長い時間でも、死んでしまうという予見はなかった。


なのでここからは耐久戦といたしましょう。

私と最後の参加者であるあなた、双方共に手を出せず、どちらかが自殺するまで終わらない退屈我慢比べを。

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