部屋の中のカブトムシ⑤
他人の頭の内なんてものは分からない。
テロリストが無限増殖するなんて、僕は考えもつかなかったし、未だ地中に隠れているあの女が何を考えて僕を止めているのかも分からない。
結局他人の自意識なんて、自分が無理矢理想像するしかないのだ。
地中に隠れていた一人、中ボスは倒した。
ここまで僕のシナリオ通り、フローチャートはもう完成されている。
チャートとしてはこうだ。
あの増殖したテロリストが地上にいる残り一人を倒し、テロリストはまた敵を探し始める。
だがいくら探しても見つからない。
なぜなら、残り参加者はもう見つかるところにいないのだから。
どうしようもなくなったテロリスト達は、当人達で殺し合いを始める。
全員が全員、同じ自意識を有しているのだから。
僕は、他人の自意識は無理矢理想像するしかないと考えているが、自分自身の自意識、他の自分自身の自意識だとどうなるだろうか?
自分と同じ考えを持ち、理解が完全に及ぶ存在なんて、そんなの殺してしまいたくなるだろう。
ドッペルゲンガーに出会った人間は死亡する。
そんな話はこれだけ簡単なロジックなのだ。
いくら他人の感情がわからなくとも、これくらいは想像できると言えよう。
さてそろそろ、テロリストが残り一人を探し当てた頃だろう。
『参加者が一人死亡しました。残り参加者は三人です』
どうせ見る箇所見る箇所テロリストしかいないからと、千里眼を解除していたら、どうやら最後の一人を倒してくれたようだ。
さて、そろそろまた覗きにいくとするか。
ありゃ?誰もいない。
今までテロリスト達でひしめきあってたのに、それが全部消えている。
おいおい、あれだけ大量にいて、最後の一人を見つけられずにすぐ殺し合いを始めたとでもいうのか?
一体最後の一人はどこにいるというんだ。
僕は閑散とした地面にまたしてもプレイキャラを降り立たせる。
そして今度は、地上の人間を探知してみることにした。
大概のNPCは既にテロリストが殺してある。
『参加者が死亡した場合、その参加者の創造した物質・人物は消滅する』というルール上、テロリスト達も一人残らずもういない。
それなら地上を探知しても、もし見つかるとするならば、隠れきった参加者であると踏んでみたのだ。
結論から言うと、本当に一人だけ見つかった。
しかも多少は防御をつけているように見えるが、ほぼ無防備。
あのテロリストがなぜ簡単に見逃したのかと、ぱっと見は思ってしまうが、そいつがいる家は崩れていた。
普通の人間なら、家屋が崩れた時点でまず死んでいる。
おそらく、あのテロリストはあの家を爆破した時点で、そこの住人は死んだと思い込み、場を離れていったのだろう。
キルスコアをもう一つ稼ぐ手前でやめるとは、
まあいい、ラスボス戦前のボーナスタイムだ。
大人しく僕がキルスコアを稼がせてもらおう。
僕がそんなことを考えているうちに、またとんでもないことが始まった。
この世界を覆うほどの大きさの高密度の壁。
そんなもんが僕がさっき作ったプレイキャラと、見つけた参加者の半径50cmを除いて展開されてしまった。
これでは、僕が目をつけていた参加者すらも、手出しがしにくくなってしまう。
これが最後まで隠れていた参加者の、死に際の最後の一手、という線ももちろん考えられるのだが、僕は全く別の可能性を確信していた。
「いつも僕の邪魔をしてきたあの女が、とんでもない手を打ってきやがった」
いや、このプレイキャラはやられても関係ない。
これは単なる探知用だ。
僕本体の周りには、彼女も干渉できていない。
既に参加者に干渉されないように手は打っているからだ。
だがこの突然の凶行には戸惑いを隠せない。
僕は彼女の考えをできる限り考える。
「対人戦を行うときは、対戦相手の思考レベルに合わせろ」
とりあえずもう一度、あのプレイキャラを使って地中を探知してみる。
人の反応はなかった。
今度は地上を探知する。
どれだけ壁を作っていても見つけられるように工夫しながら。
そうしたらちゃんと見つかった。
だが、本体は完璧に本人が作った壁に埋まっていた。
あの高密度の壁は、地上に戻ってきて張ったものだ。
地中に潜っているよりは、地上で完全防御壁を展開したほうが安全だと踏んだのだろう。
あの女は僕を見つけられていないし、僕を攻撃するつもりもない。
さすがに見つけているであろう、僕が作ったプレイキャラにすらまだ攻撃を加えてないのが証拠の一つだろう。
そして、僕が壁に攻撃したとしても、そこは彼女のテリトリー。
いくら攻撃するつもりがないとはいえ、この壁に刺激を加え続けることで、僕や作ったプレイキャラが無事生きている保証はない。
一応プレイキャラを使って、壁への侵入も軽く試してはみたが、その壁は律儀に自己修復機能まで付いており、簡単に追い出されてしまった。
耐久戦か、面白い。
いつまでもお前に付き合ってやるよ。
後二人死ぬまで、まだ僕達のデスゲームは続いていく。
To be continued.
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